旧香川県立体育館の解体工事は10月14日まで中断しています。体育館本体の解体直前、ギリギリのタイミングで司法によって与えられた「1カ月」。建物の存在や解体のプロセスに関心を持ち、対話する機会にしてもらおうという取り組みが行われました。
9月27日、旧香川県立体育館について考える「タウンミーティング」が高松市で開かれました。約100人が参加し、会場は満席となりました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「旧香川県立体育館を巡って一体何が起きてきたのか。この一連の出来事をちゃんと知って、それをきっかけとしてこれからにつなげるため、大切な時間になればなと思っています」
会では、建築家らでつくる旧香川県立体育館再生委員会が2025年7月、民間資金での再生を提案してから住民訴訟に至るまでの経緯を説明しました。この間の香川県の対応について……。
(経緯説明)
「要は何かというと、対話が成立しないということです」
再生委員会は当初、香川県と「対立」せず、「対話」の場を求めていました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[2025年7月])
「行政に対し、異議の意図があるものではありません」
「協議の場を設けてほしいなという、要望ではありますし、そう願ってます」
これに対して県側は……。
(香川県/池田豊人 知事[2025年7月])
「地震の発生の可能性が高まる中で、できる限り早期に安全確保が重要で、その方法としては今予定している解体以外に現時点ではない」
香川県は大地震の際、倒壊の危険性があることなどを理由に再生委員会との協議に応じず、予定通り解体の手続きを進めました。
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長[2025年8月])
「これまでに踏んできた手続きはやはり重いと思っています。軽々に『新しいものが出たから、ああそうですか』にはならない」
再生委員会の活動に対して、SNSなどで多く寄せられるのが「提案が遅過ぎた」という指摘です。
委員長の長田さんが旧県立体育館の再生に向けて動き出したのは2024年の夏ごろ。きっかけは、解体工事費の「概算10億円」という数字が発表されたことです。入札不調が続き、香川県が2014年に耐震改修を断念したときの予定価格は「8.1億円余り」でした。
長田さんは、この解体費用を保存活用のために使えないか第三者を交えて検討するよう教育委員会や県議会議員に働き掛けました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[2024年11月])
「議員さんの方が消極的というか、それはちょっとびっくりしましたけど。『もう時間がない』『遅い』と。(改修)50億円対(解体)5億円くらいだったらこんなこと僕もしてないと思う」
しかし、県議会の一般質問で池田知事は……。
(香川県/池田豊人 知事[2024年12月])
「有識者などを交えた、改めての検討を行うことは考えておりません」
長田さんは、これを受け、買い取りに向けて企業にアプローチし、再生委員会を設立しました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長[9月27日])
「なぜ10億円って発表されてすぐに動き出したことに対して、『もう決まったこと』になるの? って。今まで(議会で)議事録もない、議論の形跡もないっていう状態の中で、じゃあ僕、いつ行けたん? っていう」
長田さんが原告となり、香川県に解体工事費の支出差し止めを求めた住民訴訟では「建物の耐震性」が最大の争点となりました。
被告の香川県は、裁判所から事実上の「証拠保全」となる要請を受け、9月15日から1カ月間の工事中断を決定しました。原告側が依頼した業者が耐震性の調査を行っています。
しかし、香川県は「中断期間を終えると直ちに工事を再開する」と表明しました。
長田さんは裁判所が選んだ専門家による「鑑定」の結果が出るまで工事を再開しないよう県議会に請願しています。請願の採決は10月16日に行われます。
タウンミーティングの参加者からは……。
(参加者)
「市民の関心を広めるというかそういうことがもっと必要なんじゃないかと」
「やれることは、目に見える形でしていいんじゃないかと私は思います」
「ぜひ、皆さん一人ひとりが香川県知事ならびに、県知事より権限を持ってそうな人に、こうしてほしいという思いをどんどん送ってほしい」
(タウンミーティングを終えた参加者)
「こういう会に来られてる方ってすごく意識が高い方が来られてるんだろうなって思うんですけど、たぶん問題の本質はそこじゃなくてここに来ない人の意識をどう変えていくか」
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「もう少し反対の意見に答えたかった気持ちはあるのですが、興味を持っていただいて、皆さん本当にやれることを一つでいいからやってみてほしいなと。もし思いがあるならね」
建築家らが毎日寄稿「アーキテクトボイス50」
10月9日、パリを拠点に活動する建築家の田根剛さんが旧香川県立体育館を訪れました。
(建築家/田根剛さん)
「何度来てもすごい建築だな……」
田根さんは学生時代、閉館前だった県立体育館を訪れ、感動したそうです。
(建築家/田根剛さん)
「中で学生たち、子どもたちがバスケットなんかをしていて、本当にこういう建築の中で一般の市民に使われていて、その時夕日が差していて、建築って本当にすごいなって。建築家を志す大きな力となってくれた建築ですし、何とかできないかという、そういう思いがありました」
田根さんなどが発起人となって、建築ネットマガジン「BUNGA NET」で掲載している「アーキテクトボイス50」。
解体中断が発表された翌日の9月4日から、国内外の建築家や構造家、建築史の専門家などが旧香川県立体育館の解体を巡って思うことを1日1人ずつ寄稿しています。全国的に戦後の建築物の解体が相次ぐ中、必要な制度や、社会がどう向き合うべきかなどそれぞれの経験や視点から提言しています。
田根さんは「長年放置されてきた建物に県民が関心を持つことは難しい」とした上で、「工事中断の今こそ、対話のチャンスだ」と訴えます。
(建築家/田根剛さん)
「今の現状を見て痛々しい姿で、まぁ仕方ないやと諦めたくなる気持ちや、まぁそんなもんかという日常の中で一つの話題として忘れ去られてしまうこともできるのですが、いま目の前にあってまだ生きている建築っていうものが、もう一度『希望の船』として何か動くチャンスじゃないか。対話を重ねることによって、本当に今このままでいいんだろうか、こういった時代の中で仕方ないと諦めていくことが正しい未来なのかということを考える本当に大きな機会だとは思っています」
(2026年10月12日放送「News Park KSB」より)