2021年8月、香川県三豊市の粟島で、世界で初めてドローンによる定期輸送の航路が開通しました。背景には過疎・高齢化が進む離島でも住み続けられる仕組みを作りたいという、ある男性の思いがありました。
現在の島民は171人 過疎・高齢化が進む「粟島」
周囲約16キロ、三豊市詫間町の粟島。島まではフェリーで片道15分です。
1897年に日本最古の海員養成学校がつくられ、多くの船乗りを育てるなどにぎわいを見せていましたが……現在は島民が171人。そのうち143人が65歳以上と過疎・高齢化が進んでいます。島の小・中学校も廃校になりました。
(島民)
「もう歩いてても、避けて通らんぐらいで歩けたんじゃき、昔は。今はもう猫の子どもしかおらへん。寂しいもんや」
「ドローン」で島民の生活を便利に
そんな粟島で2021年8月、世界初となるドローンの定期輸送サービス「かもめ便」が始まりました。
(かもめや/小野正人 代表)
「街と変わらない利便性が得られるということになると、新しい生活の仕方ができるようになるのではないかと思っています」
ドローン輸送を担うのは、高松市の「かもめや」です。輸送サービス「かもめ便」はカタログから商品を選んで注文すれば、ドローンが島まで商品を運んでくれるというものです。今は、お菓子やカップ麺、お弁当などの注文に対応しています。
島民は、商品の代金プラス500円で利用できますが、天候が悪ければ輸送できないこともあります。「かもめや」の代表・小野さんは、定期航路の開設に向けて6年前から実証実験を重ねてきました。
定期航路開設までの道のり
2015年1月には、高松市から男木島までの約8キロの区間をドローンで輸送する実証実験を行いました。
(かもめや/小野正人 代表)
「無事、着陸しました。おかげでこの実験成功しました。ありがとうございました」
その8カ月後には伊吹島への実証実験も……
どうすれば食べ物や薬などを必要な時に島に届けられるのか。このプロジェクトの背景には、過疎化が進む島の現状に対する危機感がありました。
小野代表の原動力とは
三豊市出身の小野さんは、エンジニアとして通信に関わる仕事をしながら趣味で島を巡っていました。そして、ボランティアスタッフとして瀬戸内国際芸術祭に関わったことをきっかけに2014年に男木島へ移住。1年ほど島での生活を経験しました。
(かもめや/小野正人 代表)
「自分が将来離島暮らしをした時に、この仕組みがあったら暮らし続けられるなとか、好んでそこの場所に行きたいなという仕組みを作ってるっていうことが原動力になってます」
サービス開始から4カ月……手応えと課題
粟島でのドローン輸送サービスが始まって4カ月。
(島民 80代)
「家に持ってきてくれましたよ、2回。一人だから助かります」
弁当の宅配は1日に5、6個注文が入る日もあるなど、手応えを感じているようですが……
(島民 70代)
「(Q.島民の方はどんなふうに受け止めてるのか?)なんかね、あんまり使ってないみたいだけど、私もあんまり知らない」
(島民 80代)
「ええ言うたらええし、悪い言うたら悪いし、まぁ、もったいないわな」
輸送サービス全般としてはまだあまり広がっていないようでした。島には1軒、食品や日用品を売っているお店があります。
(島民 70代)
「やっぱり粟島にはまだお店があるでしょ。だからちょっと私らは今は利用する予定はない」
1日8往復運航されているフェリーに乗って自ら買い物をしてくる島民もいました。
(かもめや/小野正人 代表)
「今実際に、島にお住まいの住民の方から、いろいろとご意見をいただいてまして。そういった課題とかニーズみたいなものを一つ一つ検証しながら、受け入れていただけるものを、今ドローンを飛ばしている中でできることを掘り起こしていっているという状況です」
人を乗せるドローンの需要
(海上タクシー経営 70代)
「急患の時は私が運びよるんです。海上タクシーでね。ここ最近、2、3人運んだんだけど。だから、人間を運ぶドローンができたら一番いいと思うね」
国は2023年に人を乗せたドローン、通称「空飛ぶクルマ」の実用化を目指すとしています。2021年6月には、岡山県笠岡市で日本で初めてとなる屋外での試験飛行が行われました。
(かもめや/小野正人 代表)
「実はそこが私たちが目指す世界でして、緊急時の対応とか、災害時の対応とか、そういったところでの活用も見越した上で、私たちが今やっている定期航路っていうのはそれのノウハウといいますか、経験値を積むっていったところで、将来につながる取り組みになっています」
2021年12月17日、大手自動車メーカーが「かもめや」の事業について話を聞きにやってきました。
(自動車メーカーの社員)
「普段からやられているので、オペレーションのところの信頼があるというのがすごい価値があるんじゃないかって感じました」
(かもめや/小野正人 代表)
「機体のメンテナンスから飛行前のチェックとかやるのって結構な手順があって、毎日やってるとちゃっちゃといくんですけど、それは日常の運用の、日々の運用のたまもの。そこは一つの資産であるし、私たちの強みでもあるのかな。そういう意味で定期航路というのはいろいろ意味がある」
離島でも24時間、好きな時間に物が届く仕組みを作りたい
全国の離島の中には、フェリーなどの航路の存続が難しくなっているケースがあります。ドローンが島民の生活を支えるために……粟島の「かもめ便」は島の未来に向けて海を渡ります。
(かもめや/小野正人 代表)
「24時間ずっと好きな時間に物が届く、これですね。離島にコンビニができるくらいのインパクトがあると思っています。これって有史以来、なかったことだと思うんですね。この仕組みは私たちが押し付けでするものではなくて、一緒に作っていくというアプローチでやっていきたいと思っていて、まさに今、粟島の方にはいろいろとご協力いただいてご意見いただきながら、本当に便利に感じていただけるサービスにしていけたらいいなと思っています」
国が2023年の実用化を目指す「空飛ぶクルマ」は、人や物資の輸送、迅速な医療品の供給など、さまざまな分野での活用が期待されています。小野さんは今後、粟島以外の地域にも輸送サービスを広げていきたいと話していました。