米AP通信によると、1月3日午前2時ごろ、南米ベネズエラの首都カラカス市内で航空機が低空で飛行する音が相次いで確認され、その直後、少なくとも7回の爆発音が響いた。トランプ米大統領は同日、自身のSNSに、「ベネズエラに対する大規模な攻撃に成功し、マドゥロ大統領は妻とともに拘束され、国外に移送された」と投稿した。一方、米ニューヨーク・タイムズは、ベネズエラ政府高官の話として、3日未明に行われた米軍による大規模な攻撃で、軍関係者や民間人を含む少なくとも40人が死亡したと報じた。同紙によると、米軍の特殊部隊は、現地時間の午前2時ごろ、マドゥロ大統領の邸宅を急襲。作戦全体はおよそ2時間20分に及んだ。
南米ベネズエラは、米国からカリブ海を挟んで至近距離に位置する。同国では、マドゥロ氏が2013年から大統領を務め、反米路線をとってきた。トランプ政権は、昨年9月以降、麻薬対策を名目にカリブ海周辺で麻薬運搬船への攻撃を繰り返すなど、ベネズエラとの対立を段階的に深めていた。こうした中、トランプ大統領は今回の軍事行動について、「米国史上、最も衝撃的で、効果的かつ強力な軍事力を誇示した」「驚異的な軍事作戦だった」と自賛した。さらにトランプ大統領は、マドゥロ氏を麻薬密輸の首謀者と位置づけ、今回の攻撃を正当化し、米国内で行われる裁判において、その犯罪性を立証できる「圧倒的な証拠がある」と主張した。
トランプ大統領はまた、ベネズエラで「適切な政権移行」が行われるまで、「米国が国を運営する」と言及。「我々の要求が完全に受け入れられるまで、あらゆる軍事的手段を保持する」と述べ、再攻撃も辞さない強硬姿勢を示した。世界最大規模とされるベネズエラの原油埋蔵量を念頭に、トランプ氏は、米国の石油会社が老朽化した石油インフラを再建し、両国に利益をもたらすと強調している。
この事態を受け、国際社会の反応は大きく割れている。スターマー英首相は、「かねてよりベネズエラにおける政権交代を支持してきた。マドゥロ氏を非合法な大統領と見なしており、その政権の終焉について涙を流すことはない」と述べた。マクロン仏大統領も、「ベネズエラ国民は本日、マドゥロの独裁体制から解放された。権力を掌握し、基本的自由を踏みにじることで、彼は自国民の尊厳に深刻な打撃を与えてきた」と語り、事実上の支持を表明した。一方、ロシア外務省は、「米国はベネズエラに対して武力侵略行為を行った。これは深刻な懸念であり、強く非難される。正当化のために用いられた口実には根拠がない」と厳しく批判した。中国外務省も、「一国の大統領に手を出すという蛮行に深く衝撃を受け、強く非難する」と声明を出している。
国際法違反の疑いを巡り、国際連合も懸念を示した。国連のグテーレス事務総長は談話で、「米国の軍事行動を深く憂慮する」と表明。スペイン外務省は、「緊張緩和と節度ある行動、そして国際法と国連憲章の原則を常に尊重すること」を求めた。また、イラン外務省も声明で、「ベネズエラに対する米国の軍事攻撃は、同国の国家主権と領土的一体性に対する明白な侵害であり、強く非難する」としている。国連憲章第2条4項は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならない」と定めている。
トランプ大統領が踏み切ったベネズエラ本土への直接攻撃。その背景には、麻薬対策にとどまらない戦略的意図が存在する。その手がかりとなるのが、昨年12月に公表された第2次トランプ政権の国家安全保障戦略。戦略文書には、「米国は自らの安全と繁栄の条件として、西半球において卓越した地位を確立しなければならない」と明記し、西半球への関与を最優先課題に据えた。その上で、欧州との相互不干渉を原則とする、いわゆる「モンロー主義」への回帰を鮮明に打ち出している。この「西半球重視」の路線は、米国による地球規模での軍事プレゼンスの再調整を不可避とする。国家安全保障戦略は、地球規模で米軍の駐留を見直し、戦略的に再構成する必要性にも言及している。
トランプ大統領の対中姿勢の変化は、昨年後半からより明確になった。2025年10月30日、韓国・釜山で行われた米中首脳会談を前に、トランプ氏はSNSに「間もなくG2が開かれる」と投稿。会談後も、「習主席とのG2会談は、両国にとって素晴らしいものだった」と発信している。G2とは、米国と中国を二大大国と位置づける「Group of Two」を意味する言葉であり、トランプ氏の世界観を象徴する表現と言える。さらに昨年12月8日、トランプ大統領は、米半導体大手「エヌビディア」のAI向けGPU「H200」について、中国への販売を認めるとSNSで発表した。半導体分野では、中国に厳しい輸出規制を課してきた米国の姿勢が、ここでも軟化の兆しを見せた。
西半球重視が本格化すれば、米国が東アジアの安全保障への関与を縮小する可能性も否定できない。現在想定される米国の防衛ラインは、日本・韓国・台湾を含むラインであり、米国家安全保障戦略でも「台湾海峡の現状に対するいかなる一方的変更も支持しない」と明記されている。しかし、情勢が一段階悪化した場合、日本と台湾を防衛圏内に残し、韓国を除外するライン。あるいは、日本と韓国を含み、台湾を除外するラインも想定されるとの指摘もある。さらに最悪のケースとして、日本のみを防衛圏内に残し、韓国と台湾を除外するシナリオも指摘される。これは1950年、当時のアチソン米国務長官が言及したラインで、朝鮮戦争を招いた一因とされる防衛線である。アチソン国務長官は、このラインを共産主義勢力が越えれば、米国が軍事力で阻止すると表明していた。こうした中、年末には新たな懸念材料も浮上した。ロシアのラブロフ外相は、2025年12月28日に公開されたタス通信のインタビューで、「2001年に署名された中ロ善隣友好協力条約の基本原則は、国家の統一と領土保全の維持における相互支援だ。我々は台湾問題は中国の内政問題である、という前提に基づいている」と発言した。
★ゲスト:秋田浩之(日本経済新聞本社コメンテーター)、ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)