岡山県瀬戸内市で「猫神社」と呼ばれる神社を舞台に猫と共に生きる地域の人を「観察」したドキュメンタリー映画が岡山で公開されます。監督を務めたのは瀬戸内市に移住した想田和弘さん。映画から見えてくる、自然や人、そして猫との“共生”の知恵とは?
瀬戸内市牛窓にある神社、五香宮を舞台に猫や地域の人々などを映像で切り取った映画「五香宮の猫」。ベルリン国際映画祭をはじめ、各国の国際映画祭に正式招待されています。
製作したのは想田和弘監督と妻でプロデューサーの柏木規与子さん。台本やナレーション、BGMなどがない「観察映画」の第10弾です。
(想田和弘 監督)
「観察映画はとにかく目の前の現実をよく見ると、よく聞くと、でそこから何がみえるのかっていう、そういう問題意識の立て方ですね」
想田さんと柏木さんは2021年に、27年間住んだニューヨークを離れ、瀬戸内市の牛窓地区に移住しました。
(想田和弘 監督)
「自然に近い生活をしたいというのがあったんですよね。コンクリートで固められた、自然から隔絶された大都会でずっと暮らしてたわけですけど、そうすると、どんどん人間中心の考え方で、どんどん傲慢になっていくような気がして。自然のサイクルにそって、人間の都合じゃなくてね、サイクルに沿って生きていきたいな、という思いが僕の中にあった。牛窓で映画を撮る時にも、自然のサイクル、晴れの日もあれば、雨の日もあれば、嵐の日もあれば、それから季節のサイクル、生と死のサイクル、そういうものに心が惹かれる。」
映し出される自然のあらゆるサイクル。その中で五香宮にいる猫と地域の人々との関わりに、移住した夫婦が入り込んでいきます。
想田さん「やっぱり僕らもね、自治会にお誘いがあった時に、どうしようと一瞬思いましたけど、やっぱりここは入れてもらって、それでやっていくというのが、そこで腹が固まった」
柏木さん「そんなことあったんですか」
想田さん「あったよ、僕は」
柏木さん「それは全然知らなかったです。『あんたら、ガラっ』みたいに来て下さるんで、『そこに置いておくよ、どんっ』て魚置いてくださったりとか、もういつの間にか仲間に入れて下さったみたいな感じだったから、そんな自治会のお誘いとかそういうのは意識がなかったですね」
想田さん「僕はずっと逃げてたのでね、僕は栃木県の生まれなんですけど、そういう自治会とか地域とかが煩わしくて『東京に大学は行くよ』って。ちょっと不思議なんですけどね。なんで真逆のことを今するようになったのか。ご近所さんが家族の延長のような感じに付き合ってくださるので、ものすごい安心感があるというか、心地がいいんですよね。」
人も、自然も巡りながら共に生きていく。その共生のサイクルの中で、意見の違いを乗り越える“知恵”に気付かされます。
(想田和弘 監督)
「移住して、牛窓にはたくさんストリートに猫がいてですね、猫が好きだから、すぐ友達になってしまうわけですよね。そして五香宮にたくさん猫が住んでいて、僕は何の気なしに記録しておくかという感じでカメラを回し始めて、回しているうちに、あれ、この五香宮ってすごい面白いところだなと思って結局2年ぐらい回した。地域には猫が好きな人だけじゃなくて、ふん尿被害で困っている方もいて、それで去勢手術をしようということになって。猫を巡って、いろんな意見があってですね。異論とかは言うんだけど、皆さん言われるんだけど、そこであえて結論を出さない。でも、それが一つの共生の方法みたいな。すごいなと思って。それは何百年も、コミュニティーで暮らしてこられた方々の伝統的な知恵なんじゃないか」
映画「五香宮の猫」は25日から岡山市のシネマ・クレールで公開します。