韓国の尹錫悦大統領に対する2回目の弾劾訴追案の採決が、12月14日夕に行われ、尹大統領の弾劾が成立した。採決の結果は、賛成が国会在籍議員の3分の2以上の204票、反対が85票、棄権3票、無効8票だった。弾劾訴追案が可決されたため、大統領は職務停止となり、韓悳洙首相が職務を代行する。憲法裁判所が180日以内に弾劾の妥当性を判断し、9人中6人の裁判官が賛成をすれば、大統領は罷免になり、60日以内に大統領選が行われる。逆に棄却されれば、大統領は職務に復帰する。韓国の憲法裁判所は、法律の違憲審査や弾劾審理を行う役割を担い、大統領、大法院長、国会が、それぞれ3人の裁判官を指名し、計9人で構成される。一方、尹大統領側は、検事出身の金弘一・元放送通信委員長を含め、尹大統領と親交のある法曹人を中心に、弁護団の結成を検討している。
弾劾可決を受けて、尹大統領は、「私は今しばらく止まっていますが、過去2年半、国民と共に歩んできた。未来への旅は決して止まってはいけません。私は決してあきらめません。私に向けた叱責、励ましと声援、みんな心に抱いて、最後の瞬間まで国のために最善を尽くします」とコメントを発表した。
尹大統領による戒厳令の宣布に対し、韓国の捜査機関が本格的な動きを見せている。捜査当局は9日に、尹大統領に出国禁止措置を下した。10日には、検察は尹大統領に戒厳令を進言したとして、金龍顕・前国防長官を内乱容疑で逮捕した。また、警察は11日、大統領公邸の家宅捜索や尹大統領の通信履歴を確認するために令状を取り、大統領府、警察庁国会警備隊などに家宅捜索を行った。大統領警護処は「公務・軍事上の秘密」などを理由に拒否した。さらに、警察は13日、趙志浩・警察庁長官を内乱容疑で、また、検察も同日、国会に兵力を送った首都防衛司令部の李鎮雨司令官を同容疑で逮捕した。一方、尹大統領による戒厳令の宣布を巡り、警察庁の国家捜査本部と高位公職者犯罪捜査処、国防部の調査本部は11日、合同捜査を実施する「共助捜査本部」を発足させたと発表した。
国家権力の排除、憲法に基づく秩序の破壊を目的により暴動を起こした際には、韓国刑法87条で規定されている内乱罪が問われる。首謀者は死刑や無期懲役、無期禁錮が科される。韓国の大統領は在職中に原則として刑事上の訴追を受けない特権を持つものの、内乱罪などは例外として訴追対象になる。内乱罪は1.首謀者(内乱首魁)、2.謀議に参加したり指揮したり、その他の重要任務に従事した者、3.単純関与者など3分類で処罰している。検察は尹大統領に1号首魁、金龍顕・前国防部長官に2号重要任務従事容疑を適用した。
北朝鮮は韓国の戒厳令による混乱を目の当たりにし、事態の行方に関心を強めている。朝鮮中央通信は11日、「深刻な統治危機と弾劾危機に陥った尹錫悦傀儡が不意の非常戒厳令を宣布し、躊躇いもなくファッショ独裁の銃剣を国民に向ける衝撃的な事件が起きた」と指弾し、「傀儡韓国の全土を阿鼻叫喚の状態にある」と報じた。12日の労働新聞は、「尹錫悦傀儡の弾劾を求める抗議の声が連日高まり、政治的な混乱が一層深まっている」と伝えた。 ★ゲスト:牧野愛博(朝日新聞元ソウル支局長)、クォン・ヨンソク(一橋大学准教授) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)