米ミネソタ州ミネアポリス市で1月7日、移民・税関捜査局(ICE)の職員が不法移民の摘発中に発砲し、抗議に参加していた市民の女性が死亡する事件が発生した。連邦政府は「正当防衛」を主張する一方、州および市当局は権力乱用だとして強く反発しており、事件を巡る対立は深まっている。米AP通信によると、死亡したのはレニー・ニコル・グッドさん(37)。コロラド州生まれの米国市民で、15歳、12歳、6歳の3人の子どもを育てる母親。事件当日、グッドさんは6歳の子どもを学校に送り届けた後、帰宅途中にICEの摘発現場に遭遇したという。事件発生後、地元だけでなくニューヨークや首都ワシントン、ペンシルベニア州フィラデルフィアなど主要都市でも大規模なデモや追悼集会が相次いでいる。米日刊紙「USAトゥデイ」は1月10日、今週末にかけて全米で1000件を超える反対デモや集会が計画されていると報じた。
トランプ政権は、ICE職員による発砲は正当防衛だったとの立場を崩していない。トランプ大統領は1月7日、SNS上で「彼女は暴力的に、意図的に、そして残忍にICE捜査官をはねた。捜査官は正当防衛で撃ったようだ」と投稿し、職員の行動を擁護した。国土安全保障省のクリスティ・ノーム長官も同日の声明で、死亡した女性について「終日、職員らの後をつけて妨害していた」「自分の車を武器として使い、職員をひき殺そうとした」と主張し、行為を「国内テロ」だと非難した。これに対して、地元当局は連邦政府の説明を否定している。ミネソタ州のティム・ウォルズ知事は1月7日、「これは防げたはずだ。全く不必要なことだった。全く理由もなく車の中で人が死んでいる」と述べた。また、ミネアポリス市のジェイコブ・フレイ市長は同日、「正当防衛としてごまかそうとしている。私自身も映像を確認したが、でたらめもいいところだ。捜査官の見境ない権力乱用によって市民が殺された」と述べ、ICEを厳しく批判した。
捜査を巡っても混乱が広がった。ミネソタ州犯罪捜査当局(BCA)は1月8日、当初は合同捜査を行うことで合意していた連邦捜査局(FBI)が、現場の証拠や事件資料、関係者への聴取記録へのアクセスを拒否したとして、やむを得ず捜査から撤退したと発表した。ウォルズ州知事は同日、「州が捜査に参加できなければ、公正な結果を得ることは非常に難しい。大統領から副大統領、国土安全保障長官に至るまで、明らかに虚偽で不正確なことを述べている」と連邦政府の対応を非難した。米ミネソタ州での射殺事件に続き、オレゴン州ポートランドでも連邦当局による発砲事案が発生した。1月8日、税関・国境警備局(CBP)の職員が発砲し、男女2人が負傷した。国土安全保障省は、発砲に至った経緯について説明した。それによると、ベネズエラ系ギャング組織「トレン・デ・アラグア」のメンバーとみられる2人が、CBP職員に対して車を武器として使用し、危害を加えようとしたという。職員は差し迫った危険に直面し、自衛のため即座に発砲したとして、対応の正当性を強調した。一方、ポートランドのウィルソン市長(民主)は英ロイター通信に対し、「彼らの言葉をそのまま信じることができた時代もあったが、そんな時代はとうに終わった」と述べた。
スティーブン・ミラー大統領次席補佐官は、2025年5月28日に出演した米FOXニュースの番組で、ICEによる身柄拘束の目標を、それまでの1日当たり1000人から少なくとも3000人に引き上げたと明らかにしていた。ノーム国土安全保障長官も同年7月11日、英ロイター通信に寄せた声明で、「スティーブンの情熱と愛国心、そして粘り強さが、米国史上最大規模の不法移民の強制送還を実施する原動力になっている」と評価している。ICEを巡っては、発砲を伴う事案が相次いでいる。2025年7月10日にはカリフォルニア州カマリロで、農場への強制捜査中にデモ隊に対して催涙ガスや発煙筒が使用され、捜索中に建物から落下した男性が翌日死亡した。2025年10月4日にはイリノイ州シカゴで、移民取り締まり中に女性に向けて発砲し、女性は病院に搬送された。さらに1月8日には、オレゴン州ポートランドでICE職員が発砲し、男女2人が負傷して病院に運ばれた。AP通信によると、ミネアポリスでは2020年5月、アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧迫されて死亡する事件が起きており、全米50州すべてに広がる米国史上最大規模の抗議運動に発展した。 ★ゲスト:小谷哲男(明海大学教授)、鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)