同性同士の結婚が認められないのは憲法が保障する「婚姻の自由」などに反するとして同性カップルたちが国を相手取った裁判が全国5つの裁判所で行われています。このうち、香川県三豊市の男性のカップルが原告となっている大阪地裁の訴訟は6月20日に判決が言い渡されます。提訴から3年あまり、2人が裁判で訴えたこととは?
三豊市のアーティスト、田中昭全さん(44)と、演劇制作などに携わる川田有希さん(37)。2008年に交際を始め、互いに同性愛者であることをオープンにしています。
2人が暮らすのは、2013年に購入した中古住宅。自分たちの手で少しずつリノベーションしてきました。
2人は名字をつなげて「川田中家」と呼ばれ、家にはアートや演劇仲間が集いますが、田中さん個人の名義で、婚姻関係にある夫婦のように川田さんを法定相続人にすることはできません。
(田中昭全さん)
「僕が例えば早死にしたりとかしたときに、(家を)彼に残したいけれども、自動的には残せないという部分で、戸籍上家族じゃない状態っていうのは本当にいろんな不都合が起こってくるので、やっぱり婚姻っていう制度のパッケージで守られたいっていう気持ちが強いですね」
2019年2月、三豊市に婚姻届を提出
2019年2月、田中さんと川田さんは、三豊市役所を訪れ、婚姻届を提出しました。
(田中昭全さん)
「法律的にも家族になりたいという思いがすごく強くて。今回婚姻届を出させていただこうかと思ってここにいます」
十数分後、別室で審査を終えた市民課の職員は――。
(三豊市市民課の職員)
「審査をしたところ、男性同士を当事者とする婚姻届については不適法であるために、大変申し訳ないんですが、受理させていただくことができません」
(田中昭全さん)
「友達に(婚姻届の)証人になってもらったりとか、すごいいろんな人が応援してくれている中出したので、ちょっと寂しい感じはします」
(川田有希さん)
「そんなに悲観的な気持ちではなくて、こういうのを出すということが一歩一歩積み重ねでいろんなことが動くと思うので」
同性婚を認めないのは憲法違反 全国一斉提訴
その10日後、全国4つの地裁で一斉に提訴された同性婚訴訟。2人は大阪地裁での訴訟の原告に名を連ねました。
原告側は、同性同士の結婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法が保障する「婚姻の自由」や「法の下の平等」に反すると訴え、国が法改正などを怠ったとして1人あたり100万円の慰謝料を請求しています。
一方、被告の国側は憲法24条では「婚姻は『両性』の合意のみに基づいて成立する」と定めていて、「同性間」の婚姻は想定しておらず、民法などが違憲となる余地はないと請求の棄却を求めています。
原告の弁護団によると、同性カップルは男女の法律婚と比べ、配偶者控除や法定相続権がないほか、パートナーの手術の同意が難しかったり、子どもの共同親権を持てなかったりと多くの不利益を被っています。
さらに、弁護団は「法律で同性婚を認めないことは異性同士の関係こそが『正常だ』というメッセージを社会に発信し、ひいては同性愛者への差別意識を再生産することにつながる」と主張します。
(原告弁護団/佐藤倫子 弁護士)
「国がきちんと差別を是正して、『同性カップルであっても異性カップルと同じなんだよ。平等なんだよ』っていうことをきちんと示してくれれば、国民だって差別しちゃいけないんだなというふうに、やっぱり社会の意識が変わっていくと思うんですよね」
田中さんは中学1年のころ自分が同性愛者だと自覚しましたが、約10年間、誰にも打ち明けられませんでした。
(田中昭全さん)
「やっぱりいじめの対象になるんじゃないかとか排除される方になるんだなっていうのをすごく感じたので。じゃあ、もしその当時に(同性婚の)制度があったら、あ、こういう生き方してもいいんだみたいな大丈夫なんだって思える。その安心感があるだけ悩まずに済んだかなとは思います」
制度によって、社会の認識が変わる
制度によって、社会の認識が変わる。2人がそれを実感したのが、2020年1月に三豊市が導入したパートナーシップ宣誓制度です。
自治体が性的マイノリティーのカップルを結婚に準じた関係だと認め、市営住宅への入居や市立病院での面会、治療の説明などで家族同様の扱いを受けられます。
法的な効力はないため2人が求める同性婚とは違いますが、三豊市で「交付第1号」となったことが報道されると――。
(田中昭全さん)
「(親戚の)おじさんとおばさんが結婚じゃないんですけど、でもお祝い金いただいたりとかして応援してるよって声かけてくれて、もうそれは本当にうれしかったですね。特に地方に行けば行くほど、そういう『公』が認めるっていうのは大きいんじゃないですかね」
四国初のパートナーシップ制度導入 推し進めたのは……
香川県では現在14自治体に広がっているパートナーシップ制度ですが、三豊市は、四国では最初の導入でした。
実は、それを推し進めたのは、2019年、田中さんと川田さんが婚姻届を提出した際に、「受理できない」と伝えた市民課の職員でした。
(三豊市/山下昭史 市長)
「(市民課の)職員は以前から(田中さん、川田さんを)気にしてて、もらった意見書とか手紙とかをずっと自分の机の中に入れていて。婚姻届を出してきた、でも受け付けられない。なんで市民が持ってきたものを拒否しなきゃいけないのかというのをすごい悩んで、本当に断ったその足で私のところに来て『市長、パートナーシップ(制度)をやりたいんですけど』と言ってくれて、じゃあ、やればいいじゃん、やろうという話になった」
(記者リポート)
「三豊市役所です。正面玄関を入ってすぐのところにある掲示板には、同性婚訴訟についての説明と大阪地裁で6月20日に判決が言い渡されることを市民に伝えています」
また、6月は性的マイノリティーへの理解を深める「プライド月間」ということで性の多様性を象徴する「レインボーフラッグ」を市役所に掲げています。
(田中昭全さん)
「そこまでしてくれるっていうのは本当に心強かったですよね。自治体がもう変わりつつあるので、なぜ国だけが動かないのかっていう」
(川田有希さん)
「僕ら、裁判自体は自分らのためにやっているんですけど、それによってやっぱり人々の心が動いたりとか他の全ての人にいろんな結婚ができるって結婚を選択できる自由が与えられるっていうものには期待をしています」
同性婚訴訟 札幌は「違憲」判決、大阪地裁は20日に判決
同性婚を巡る一連の訴訟では初の司法判断となった2021年3月の札幌地裁判決は、同性同士の結婚が認められないのは法の下の平等を定めた憲法14条に違反すると認定。
一方で、「国民が同性婚に肯定的になったのは比較的最近だ」として国会が同性婚を認める立法措置を怠った「立法不作為」については認めず、原告の訴えを退けました。(原告は控訴)
全国2例目となる大阪地裁判決に期待することは――。
(田中昭全さん)
「違憲判決が出るのは一つですね。やっぱり立法の不作為も、そこにちょっとでも入ってくれないかなっていうふうには思ってますね」
(川田有希さん)
「東京(地裁判決)も11月30日に予定しているので、それも違憲ていうのがきたら、やはりもう国全体でやっぱり違憲判決が出るのではないかと期待をしています」