宝石カラーで「ときめく」ファッションブランドを高松市の女性たちが立ち上げました。使われているのは、捨てられていた革の「端材」です。女性にも、革の端材にも「輝き」をプラスしたい。子育てをしながら会社を作った女性3人の商品開発への思いを取材しました。
革の端材を“ときめく”バッグに
「宝石をまとう」をコンセプトに誕生した革のバッグ。ブランド名は「+carat(プラス・カラット)」です。現在展開しているのは3色、ルビー(赤)、サファイア(青)、エメラルド(緑)とそれぞれ宝石の名前を付けています。
身軽にお出掛けしたい。でもちゃんとおしゃれもしたい。コンパクトなサイズで、宝石をつけられない日にもアクセサリー感覚で持つことができ、さまざまなシーンで活躍するバッグです。
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「女性がときめくかどうか、もうそこですね。一番大事にしたのは、そこ」
ブランドを立ち上げたのは高松市の合同会社「higoto」。2021年11月に女性3人で設立しました。それぞれの経験やスキルを掛け合わせ、プロデュースやデザインなどを手掛けています。
初めての自社ブランドとなる「+carat」の開発でも重視したのは「女性の視点」です。
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「女性をどうときめかせるか、私たちもキュンとするかってところをずっと考えていたときにやっぱりこう気分が上がるアイテムってアクセサリー、宝石だなと」
バッグには宝石の代表的なカットの一つ、「エメラルドカット」をデザインに取り入れ、革をつなぎ合わせています。
(記者リポート)
「こちらのバッグ、1色でリカラー(色付け)されているんですが、マットとツヤという2種類の加工が施されているため、質感や角度による見え方が変わるのも特徴です」
女性にも、そして使われている革の端材にも「輝き」をプラスする「+carat」。
製作に協力しているのが東かがわ市の「アーバン工芸」です。創業70年、いわゆるOEM、他社ブランドの革のバッグを中心に製造しています。
(記者リポート)
「1枚の皮からバッグの大小さまざまなパーツをパズルのように裁断しています。それでも、もうこれ以上パーツが取れなくなった皮が端材として捨てられています」
(アーバン工芸/内海公翔 常務)
「どうしてもうちはバッグがメインなので、大きいパーツがよく出るんですよ。そうなると、どうしても取りきれない場所とか出てきて、保管をずっとしておくわけにもいかないんで、もう捨てるしかないというので、ずっと何十年もやってきてました」
higotoの3人が革の端材と出合ったのは2022年6月。
(higoto 共同代表/林由紀子さん)
「みんなで初めてこちらにお邪魔したときに、このように端材が山のように積まれていて」
(higoto 共同代表/鈴木友里恵さん)
「これごみかな? みたいな感じで聞いたら『ごみなんです』みたいな感じで、じゃあちょっともらって帰っていいですか? というので……」
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「初めて見たとき、宝の山だと思いました」
アーバン工芸では、1枚の革のうち約30%を「端材」として廃棄していました。higotoではこの端材を「未利用革」とネーミングし、再活用することにしました。
higotoとアーバン工芸をつないだのが、東かがわ市役所で官民連携マネージャーを務める寺西康博さんです。(人事交流で四国財務局から派遣)
寺西さんは、社会課題の解決につながるビジネスプランに市が補助金を出すコンペを中心となって企画していて、higotoの3人に参加を促しました。
(東かがわ市官民連携マネージャー/寺西康博さん)
「皆さんが端切れを宝の山って思ったのって、つまり、ごみとか課題とか邪魔なものというものが実は価値を秘めているっていうところを、ちょっと視点を変えたり違う業界とかから来た人たちがそういうのを見つけていくというのが私自身、社会課題解決にすごく必要だと思っているんで、ありがとうございます!」
梶原さん「いや、とんでもないです。こちらこそ、ありがとうございます! 出合わせてくれて」
革の端材と女性を輝かせたい。higotoの3人は積極的にビジネスコンペに参加することでブランドに「磨き」をかけてきました。
女性3人で“磨く”新ブランド
捨てられていた革の端材を活用した新ブランド「+carat」。「宝石をまとう」というコンセプトができた後も、大きさやデザインの試行錯誤が続きました。
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「つなぎ合わせてるこの一つ一つのカットラインを一緒のように見えて、実はここのラインがちょっと下がってたりとか、すごく細かいんですけど、ちょっとずつ違っていて。で、これがいいかも! といったものを一級建築士の林が模型に変えて、ひもを付けてみんなでコーディネートしたりして、ああでもない、こうでもないって言いながら決めていった」
提供される革の端材は色や厚み、質感がそれぞれ違っています。
higotoのメンバーが使えるパーツを切り出して兵庫県の工場に送り、染料を吹き付ける「リカラー処理」を施すことで宝石のような上質な色を作り出すことができました。
さらにその「色選び」もこだわり抜きました。試作段階では微妙に違う3色を使ってパッチワーク(つぎはぎ)のような印象でしたが、最終的には1色にしました。
(higoto 共同代表/林由紀子さん)
「同じ青の1色で表面の加工の仕方、マットとツヤで宝石のきらめき感、輝き感というのを出してる」
端材の提供とバッグの縫製を担当するアーバン工芸の内海さんは……。
(アーバン工芸/内海公翔 常務)
「3人の熱さに引っ張られて、ここまで何か猛スピードでいろんなピボット(方向転換)しながらやってきたなっていう記憶がありますね。
一瞬で変えようとするんですよ。『これもうちょっとすみません』っていう感じで。僕だったらよう言わんなと思って。何かこうここまで変えてって言わんなと」
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「言わなきゃな……っていう重さもあったし。けど、私たちがやりたいとこはここだから、そこに持って行きたいから、伝えようみたいな」
higotoは香川県内で開かれた3つのビジネスプランコンテストなどに参加し、審査員や、相談役・メンターの助言を受けました。
香川県が運営するオープンイノベーション拠点「Setouchi-i-Base(せとうちアイベース)」。
自身も起業家で、コーディネーターを務める小西真由さんはhigotoの3人のブランドづくりに伴走し、「変化」を感じたそうです。
(Setouchi-i-Base コーディネーター/小西真由さん)
「何かしらこちらからアドバイスはいっぱいさせていただくんですけども。能動的に、皆さん『絶対これが必要だからこれをやるんです』っていうか。意志を持って行動されていく機会がどんどん増えてきたんじゃないかなと。商品を見せていただいたとき、とても感動を覚えました。なんか私の子どもじゃないかと(笑)」
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「本当にコンペごとに、私たちの中でもどんどんどんどんブラッシュアップして、本当に最後は本当に覚悟の大きさまで変わったっていう感じにはなります」
(higoto 共同代表/鈴木友里恵さん)
「(初期のコンペでは審査員に)何か言われることに対して全部『そうですよね~』みたいな感じで思ってたところが、この最終に関しては何を言われても『あ、そうなんですね。でも、私たちはこうなんですよ』っていう感じで、気持ちが考え方も変わってきた」
「+carat」ブランドのバッグとジュエリーケースは4月下旬からクラウドファンディングサイト「Makuake」で先行販売を開始。今後、大阪市のデパートに期間限定のポップアップストアを出すことも決まっています。
(higoto 共同代表/林由紀子さん)
「すごくいろんな道が可能性含めて広がっているっていうところに多分私たち3人ともが何かワクワクしているというか、想像していないところに行きそうな気がするみたいな」
「一歩踏み出した姿」もバッグとともに届けたい
higoto設立のきっかけとなったのが2019年から2021年にかけて活動した「せとかわデニムプロジェクト」です。
瀬戸内とデニムの魅力を「かわいい」という切り口から見つめ直し、発信しようと岡山、香川、東京などに住む女性たちがつながり、捨てられるデニム生地を活用した「ピクニックシート」の開発などに取り組みました。
(梶原麻美子さん[20年3月])
「結婚したからとか、子どもがいるからとか仕事を持ってるからあきらめなくていいんだなって思えたきっかけのプロジェクトだった。何歳になってもどんな状況でも挑戦できる」
このプロジェクトで出会った香川在住のメンバー3人で立ち上げた「higoto」。メンバー3人とも、それぞれ4歳から中1までの子どもを持つ母親でもあります。
この日は3児の母である林さんが子どもをスイミングに送迎するため、インタビュー取材の途中で退席。
時間の制約はありながらもそれであきらめるのではなく、起業やブランドづくりに一歩踏み出した自分たちの姿もバッグとともに届けたいと考えています。
(higoto 共同代表/梶原麻美子さん)
「私たちもやってもいいんだって思ってもらえたら。で、一歩踏み出す人とか『本当はやりたかったけど……』を『やっちゃえ!』みたいなふうに思ってもらう人が増えたら私たちも仲間が増えると思いますし。このバッグもそうですし、私たちの活動が本当にいい影響を与えられたらいいなっていうふうに思ってます」