今回の解説は、長年問題になっている教職員の長時間労働です。
岡山県教育委員会は2024年8月、政令市の岡山市を除く公立中学校の教員の1カ月当たりの残業時間が3年前に比べて約35%減ったと発表しました。
しかし、現場の教員からは「大きく変わっていない」という声が上がっています。なぜ、こうした状況が生まれているのでしょうか?
(倉敷市の中学校に勤務/男性教員[40代])
「子どもたちのためにと思ってするんですが、実際にはなかなか働き方(改革)が進んでいないというような状況は感じている」
倉敷市の中学校に勤める40代の男性教員です。10年以上働く中で、働き方や残業時間は大きく変わっていないと話します。
(倉敷市の中学校に勤務/男性教員[40代])
「減ったところもあると思います、ICTを活用したものであるとか、学力に関しては岡山県が力を入れているので、負担が増えていっているところはある」
1カ月の残業は70時間以上に
この男性教員の平日の標準的なスケジュールです。出勤は午前7時半。生徒の出迎えなどで一日が始まります。そこから授業や部活動の指導などがあり、学校を出るのは午後7時半ごろです。
男性教員が勤める学校では午前8時15分から午後4時45分までを定時としているため、残業時間は3時間半です。
週に1回の部活動がない日は早く帰宅できますが、それでも月の残業時間は60時間程度になるということです。
さらに、帰宅した後もほとんど毎日、授業の準備で30分から2時間程度作業をしています。この「隠れ残業」を含めると1カ月に70時間以上の残業をしているということです。
これに加え、土日のどちらか、もしくは2日間とも部活動の指導があります。
(倉敷市の中学校に勤務/男性教員[40代])
「教員は全力でやるので、その中で学校内でできないものは持ち帰る、休日に出勤して仕事をこなしたりということもある。教育は人を育てる、人と関われる素晴らしい職業ではあるので、それを選んでもらえるだけの環境やそういった職場でないといけないと思う」
県教委は残業時間を減らすための計画を策定
岡山県教育委員会は2022年度に公立学校の教職員の残業時間を減らすための計画を作りました。
計画では、2024年度中に1カ月当たりの残業時間を、2021年度と比べて15%以上減らすとともに、残業が45時間を超える教職員を0にすることを目標にしています。
具体的な対策としては学校行事の見直しや、業務のデジタル化などを進めていくとしています。
そして、2024年8月、2024年6月に行った調査の結果を公表しました。それによりますと、中学校の教職員の1カ月当たりの残業時間は43.7時間。2021年度の67.4時間から約35%減り目標を大幅に超えました。
(岡山県教職員課/黒瀬学 総括副参事)
「2021年度と比較して着実に、大幅に減少していることから(対策の)効果はあったと考えている」
教員「実態とかけ離れている」
これに対し、冒頭で紹介した男性教員は「現場の実態とかけ離れている」と訴えます。
(倉敷市の中学校に勤務/男性教員[40代])
「今はコロナの前の状態に戻りつつあるので、(行事など)今まで削減してきたものが少しずつ回復してそれをしないといけない。もっと力を入れていかないと業務は減っていかないのかなと」
なぜ、こうした隔たりがあるのか。教職員の労働組合、岡山県教職員組合は「調査対象に問題がある」と指摘します。
今回対象になったのは全体の約1割にあたる13の中学校の結果で、全ての中学校の実態を表していないとしています。
さらに、学校側は調査対象になっていることを把握しているため、教職員が業務時間を過少申告しているのではないかと主張します。
県教委と教職員側にはもうひとつ隔たりがあります。キーワードは「余剰時数」です。
余剰時数とは、学級閉鎖や台風などで授業ができなかった場合でも必要な授業時間を確保するためのいわば「保険」のような授業時間です。
年間の余剰時数は各学校があらかじめ決めていて、学級閉鎖や台風などがなく、予定通り授業が進んだとしても余剰時数分の授業を実施しなければなりません。
県教委は、「必要以上に余剰時数を確保しているため残業時間が大きく増えている」として削減を求めています。
これに対し、岡山県教職員組合は「余剰時数の目安を設けている自治体もある中で学校側が独自に減らすのは現実的ではない」と話します。
現場は増員を望むも…
そして、部活動の地域移行やデジタル化による業務の見直しなどは労働時間の大幅な削減にはつながらないとして、教職員の数を増やすことを求めています。
岡山県教職員組合の青年部は2024年6月、小中学校の教職員を対象に職場環境や労働条件で改善を望むことについてのアンケート調査を行いました。
回答した546人の中で最も要望が多かったのが「教職員定数の改善」、つまり教職員を増やすことです。
岡山県教職員組合は、教職員の数に元々ゆとりがない上、病欠や休職もあるためさらに負荷がかかっていると現状を訴えます。
岡山県の公立学校では2023年度、精神疾患で休職した教職員が過去最多の113人でした。
(倉敷市の中学校に勤務/男性教員[40代])
「人が増えると余裕が生まれるので、子どもたちに還元できる時間が増える。今は限られた時間の中で子どもたちの時間を優先すると、自分たちが本来しないといけない仕事以外の仕事は後回しになるので、なかなかその仕事が進んでいかない」
岡山県教委は、「限られた予算の中で大幅な増員はできない」と話します。
(岡山県教職員課/黒瀬学 総括副参事)
「これまでも機会を捉えて国に要望してきた。今後も必要に応じて定数改善の提案を行っていきたい」
専門家「使命感だけではやりきれない状態」
専門家は、「残業時間が減らないと教職員がデジタル化など社会の変化に適応するための時間が取れなくなる」と指摘します。
(ノートルダム清心女子大学/森泰三 教授)
「実際に現場で働いている先生方は使命感で働いている、ただもう使命感だけではやりきれない状態にある。結局は人員増加とかに答えが出てくる可能性が高いなと」
森教授は、国や県、市町村を動かすための第一歩は、教職員の忙しさを「見える化」し、地域の人たちと共有することだと訴えます。
「実態が見える化して客観的にみんなで共通理解ができるってことが大事、そうすれば話を進めやすいのかなと」
国や各自治体による抜本的な対策を
文部科学大臣の諮問機関、中央教育審議会は2024年8月、教職員の定数改善などを訴える答申を文科省に提出しました。
教職員個人でできることには限界があるので、国や各自治体による抜本的な対策が必要だと感じます。