次期衆議院選挙を前に、与野党を代表する重鎮政治家が相次いで不出馬を表明した。長年、日本政治の権力で政策の中枢を担ってきた顔ぶれの決断は、政界に時代の区切りを印象づけた。出馬を見送る意向を明らかにしたのは、菅義偉元総理(77)。2020年9月から2021年10月まで内閣総理大臣を務め、その前には、官房長官として7年8か月在任し、その日数は歴代最長を記録した。官房長官時代には、「令和」への改元を発表したほか、「ふるさと納税」制度の創設を主導。総理在任中は、新型コロナウイルス対応の陣頭指揮を執った。政権中枢を支え続けた実力者の不出馬は、自民党内外に波紋を広げている。自民党の重鎮、遠藤利明元総務会長(76)も、次期衆院選に立候補しない意向を示した。当選10回を数えるベテランで、東京オリンピック・パラリンピック担当大臣を務めたほか、自民党総務会長として党運営の要を担ってきた。野党側でも、長年の顔が一線を退く。日本共産党の志位和夫議長(71)は、次期衆院選への不出馬を表明した。志位氏は2000年11月から2024年1月まで同党委員長を務め、在任中、国会で17人の総理大臣と論戦を交わしてきた。長期政権下でも政権批判の論客として存在感を放ち、共産党の「顔」として国内外に知られてきた。
高市総理が衆議院解散に踏み切れば、その政治判断は戦後日本政治の中でも、際立って異例なものとなる。最大の特徴は、通常国会の冒頭で解散が行われる可能性にあり、これは1966年、佐藤栄作政権下で行われた、いわゆる「黒い霧解散」以来、60年ぶりとなる。さらに、仮に2月投開票となれば、いわゆる「真冬の総選挙」となる。これは1990年2月、海部俊樹政権下で行われた「消費税解散」以来36年ぶりとなる。豪雪地帯を中心に、選挙運動や投票行動への影響が懸念される。1月23日解散となれば、衆議院議員の在職日数は454日で、憲法7条に基づく解散としては戦後最短水準となる。戦後、短期間で解散に踏み切った例としては、1953年の「バカヤロー解散」(吉田茂総理・在職165日)、1980年の「ハプニング解散」(大平正芳総理・在職226日)が知られている。
高市総理が23日召集の通常国会での衆院解散を与党幹部に伝達する中、超短期決戦になる見通しの総選挙に向けて、全国の選挙管理委員会では、急ピッチに準備が進められている。選挙の最前線ではすでに深刻な混乱が生じており、「真冬の選挙」「超短期決戦」という二重の異例が、自治体の選挙事務を直撃している。朝日新聞によると、豪雪地帯では、選挙準備そのものが困難な状況。新潟県魚沼市では、ポスター掲示場が雪に埋まる恐れがあり、市の選挙管理委員会では、市内223カ所すべての設置場所について、積雪状況の確認作業に追われている。市選管では、「道路状況も心配で、厳しいとしか言いようがない。雪が山積みになっているため、街頭演説が成り立たない」と悲鳴を上げる。1月10日、総務省は全国の都道府県選挙管理委員会に対し、「至急の連絡です」として、選挙準備を進めるよう通達した。文書では、「衆議院議員総選挙については、報道以上の情報はありませんが、準備を進めておく必要があります」と記されており、正式な解散表明がないまま、現場は事実上の“臨戦態勢”に入った。福島県選挙管理委員会では、担当者が「尋常じゃない忙しさだ」と語り、3種類の投票用紙を県内59市区町村に配布しなければならない差し迫った状況となった。
高市総理による電撃解散の動きを受け、野党各党からは一斉に厳しい批判の声が上がった。立憲の野田佳彦代表は1月16日、「党の幹部と相談した節もなく、自己中心的にしか見えない」と批判。公明の斉藤鉄夫代表は14日、「国民生活をないがしろにした大義なき解散だ」と指摘。国民民主の玉木雄一郎代表は13日、「経済を後回し解散と言わざるを得ない」と述べ、選挙を優先した点を問題視した。れいわ新選組の山本太郎代表は15日、国民生活を無視した解散、強い言葉で政権の姿勢を非難した。日本共産党の田村智子委員長は15日、「国民の参政権を侵害するものだ」と述べ、参政党の神谷宗幣代表は14日、「急すぎる解散だと受け止めている」と語った。日本保守党の百田尚樹代表は14日、「今やれば自民党が勝てる、それだけではないか」と述べ、解散の動機が選挙事情にあるとの見方を示した。社会民主党の福島瑞穂党首は14日、「支持率が高いうちに行う自己都合の解散」と批判。チームみらいの安野貴博党首は14日、「率直に、なぜ今なのかという点に疑問を持つ」と述べ、解散の必然性に疑義を呈した。
高市政権が衆議院解散に踏み切った場合、日本は1年4カ月で3度目となる国政選挙に突入することになる。直近では、2024年10月27日に衆議院選挙、2025年7月20日に参議院選挙が実施された。一方で、電撃解散による影響に対する懸念も指摘されており、2026年度予算の年度内成立が困難になるとの見方も強まっている。政府・与党内で想定されている最短シナリオでは、2026年1月23日(金)に通常国会を召集し、その冒頭で衆議院を解散。2月上中旬に衆院選の投開票が行われる可能性がある。選挙後、新たな衆議院で予算案の審議に入ったとしても、参議院での審議日程を含めると、3月31日までに予算を成立させるのは極めて厳しいとの指摘が相次ぐ。本予算が年度開始前に成立しない場合、政府は暫定予算を組むことになる。社会保障費や公務員の人件費など、最低限の支出は確保される一方、政策は大きく制約される可能性がある。こうした事態となれば、政府が掲げる国民負担軽減策にも影響が及ぶ。木原官房長官は1月15日の会見で、「すでに昨年末に成立した令和7年度補正予算を早期に執行することで、国民生活や経済への影響が出ないよう対応してきた。今後も影響が出ないようにしたい」と述べ、影響回避に万全を期す考えを強調した。
高市総理が衆議院を解散する意向を固め舞台裏には、周到な情勢判断と限られた側近による意思決定があった。一方で、党内には不満も燻っている。昨年12月17日、高市総理は、「目の前でやらなければいけないことが山ほど控えている。(解散を)考えている暇がございません」と述べ、解散観測を明確に否定していた。年が明けた1月5日の年頭記者会見で、記者団から解散について問われた際も、「補正予算の早期執行を各大臣に指示している。目の前の課題に懸命に取り組んでいるところだ」と語り、解散には言及しなかった。1月9日には、解散を視野に入れた読売新聞が放った政局報道が一斉に広がり、政界に緊張が走った。しかし、その裏側では、政局をにらんだ動きが静かに進んでいた。1月13日午後、自民党本部では、鈴木俊一幹事長と古屋圭司選対委員長が、各選挙区の情勢分析を進めていた。そこに木原稔官房長官が加わり、「短期決戦の方が良い」との認識で3人の意見は一致したという。1月14日、高市総理は自民党の鈴木幹事長、日本維新の会の吉村洋文代表らと相次いで会談し、通常国会の早い段階で衆議院を解散する意向を正式に伝えた。一方で、党内の重鎮への根回しは十分とは言えなかった。時事通信によると、麻生太郎党副総裁や鈴木幹事長に対し、総理から事前の相談がなかったとの見方も伝えられている。
★ゲスト:林尚行(朝日新聞コンテンツ政策担当補佐役)、佐藤千矢子(毎日新聞専門編集委員) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/テレビ朝日政治部長)