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【特集】検証「1億円の光るトイレ」 JR鬼無駅前に香川県が整備した経緯は

 高松市にあるJR鬼無駅前に2026年3月、新しいトイレが完成しました。アートの要素を取り入れ、夜にはプロジェクションマッピングも投影されるこのトイレ。香川県が約1億円をかけて整備しました。なぜ県が駅のトイレに高額な費用を投じたのか? 事業の経緯を検証します。

和式でくみ取り式…利用者や地域の人が改修要望

 2026年3月22日、鬼無駅前トイレの完成を祝う式典が開かれました。

(香川県/池田豊人 知事)
「この鬼無の駅のトイレは長年の課題でありましたけれども、人がここを目的に来るような、そういう施設であったらいいなというふうに願っております」

 もともと鬼無駅にあったトイレは、男女共用で和式のくみ取り式。利用者や地域の人から長年、改修の要望が寄せられていましたが、JR四国は、厳しい経営状況の中、「無人駅のトイレは改修しない」方針を打ち出していました。

(JR四国/西牧世博 社長[当時]・2024年2月)
「トイレの改修に投資する資金も乏しいということなので、できたら撤去したいですね」

なぜ地元・高松市ではなく県が整備?

 2024年4月時点で、香川県内のJR四国のトイレがある30駅のうち12駅がくみ取り式。

 このうち2つの駅、引田駅は東かがわ市(2025年3月完成)、高瀬駅は三豊市(2025年12月完成)と、それぞれ地元自治体が費用を負担し、トイレを含めた新しい駅舎を整備しました。

 そして、JR鬼無駅のトイレについては香川県が2024年度の当初予算に整備費を盛り込みました。

(香川県/池田豊人 知事・2024年2月)
「大事なJRの路線確保、駅の周りのにぎわい確保のためにも(整備)していかないといけない」

 鬼無駅はJR予讃線で、高松駅から2駅目。2024年の1日の平均乗車人員は594人で、香川県内の48駅中、多い順で14番目でした。

 なぜ、地元・高松市ではなく、香川県がこの駅のトイレを整備するのか?

 県は理由として、県立高松西高校の最寄りの駅であること。鬼無の特産である松盆栽を見るために外国人も多く訪れることを挙げています。

地元議員が要望 県議「頑張って予算を付けた」

 そして、地元の議員からの要望もありました。自民党の平井卓也衆院議員は、2021年の衆院選の街頭演説で鬼無駅のトイレ改修を訴えました。

(平井卓也 衆院議員・2021年)
「私はあのトイレを鬼無町のシンボルのトイレに変える。デジタルばっかりやってるわけじゃないんです。トイレからデジタルまで私はやってます」

 それから4年あまり。2026年2月に行われた衆院選の際には……

(香川県議会/大山一郎 議員・2026年1月)
「なんとか頑張って予算を付けさせていただきました。それも平井先生のあの街頭演説から全てが始まっている」

(平井卓也 衆院議員・2026年1月)
「われわれは言ったことは必ず実現しなきゃいけない。それで大山県議とも相談し、知事を説得し、それでやっとできたトイレは私の想像を超えるものでした」

桃太郎の壁画、夜にはデジタルアート投影

 完成したトイレは、駅舎とは反対側、県道に面した敷地に設置。男女それぞれと多目的を備え、駅の利用者だけではなく「公衆トイレ」の位置付けです。

 南側の壁面には鬼無地区に残る桃太郎伝説にちなみ、桃太郎をモチーフにしたイラストが描かれた「壁画」が。(東京の漫画家・イラストレーター 朝際イコさん制作)

 そして、西側のガラス面には土日祝日の夜7時台、8時台に高松市の専門学校穴吹デザインカレッジが手掛けた盆栽や桃太郎にちなんだデジタルアートと、名古屋市の「一旗」が制作したプロジェクションマッピング。

 平日の夜には天使の羽をモチーフにしたデジタルアートが投影されます。

(記者リポート)
「トイレの前に設置された透明のガラスに後ろから光を当て、デジタルアートを投影します。このガラスの前に立って、写真を撮ることもできます」

「アートな光るトイレ」反応は?

 JR高松駅で、この「アートトイレ」の感想を聞くと……

(岡山から)
「行ったときの一つの楽しみになるっていうか、これ見てみようかなというきっかけになるかもしれない」
(愛媛から) 
「テンション上がるんじゃないですかね。インスタ映えとかしそう」
(神奈川から)
「トイレっていうあまりいいイメージじゃない場所も含めてきれいな観光地っぽくなるんで、すごい素敵だなと」

 駅を利用する高校生や地元の人は……

(高松西高生は―)
「あっちにもトイレがあったんですけど、新しいトイレができてすごくうれしいです。(以前のトイレは)ちょっと汚かったんですけど、さっき中見てすごいきれいだなと思いました」
「これでお客さんが来たりしたら、すごいうれしいなぁって」

(地元の人は―)
「こういうにぎやかなトイレだと人目をひいて、真っ暗な中にあるトイレよりは安心感がある」
「きれいだと思います。職場のみんなもここできたよねという話はされてるので」

 一方、こんな声もありました。

(香川県民)
「どこでするかが問題ですよね。たくさんの人が見てくれないと意味ないですからね。マッピングする時間は高校生いないでしょ」

 夜間のデジタルアートはどれくらいの人が見ているのか? 4月25日の土曜日に定点観測してみました。

 午後7時15分から午後9時まで、途中20分の休止時間を除いて映像投影中に、トイレの前を通過した人は61人。前の県道を通過した車は877台でした。

 別の日、SNSでこのアートトイレを知って立ち寄ったという徳島県に住む男性に出会いました。

(徳島から立ち寄った男性)
「思ったよりきれいにできてる、本格的。県外からわざわざこれ目当てに来るってことではないかな」

総事業費は約1億円…費用対効果は

 このトイレ整備に県がかけた総事業費は、約1億円。年間約65万円と見込む電気・水道代も県の負担です。

 ちなみに、自治体が整備した駅では引田駅が駅舎とトイレを合わせて約4300万円。

 高瀬駅は、駅舎と駐輪場、パブリックスペースとトイレを合わせ、約1億3400万円でした。

 利用者にこの整備費について聞くと…

(高松西高生)
「(Q.整備費は約9900万円)トイレって高いんですね」
(地元の人は―)
「ちょっと高いですよね、びっくりした」
「賛否(ある)。他に整備してほしいところもあるので、そちらのほうで」

 香川県内のJRの駅のトイレでは、2025年7月、高松市の栗林駅のトイレの床が破損し、利用客が足にけがをする事故も起きています。

(3月23日の知事定例記者会見)
記者「利用者数なども考えると、鬼無駅のトイレ整備にそこまで費用をかける必要はあったのかなという県民感情もあるかと思うんですが」

(香川県/池田豊人 知事)
「単なる用を足すところだけじゃなくて、機能を複数あわせ持つものとして施設整備ということでありますので、そのへんについて今後とも必要なことがあれば説明をしたいし理解を求めていきたいと思っています」

(香川県議会/大山一郎 議員)
「費用対効果は今から地域の皆さん方と一緒に、観光の目玉としたり、それから夜型観光のコンテンツの一つとしたりいろんなところで使っていけるようになれば、この費用対効果にあっていくのかなと」

約1億円の内訳は? 2つの事業でトイレ整備

 約1億円の事業費の詳細を知るため、委託業者との契約や見積もりに関する文書を情報公開請求しました。

 JR鬼無駅のトイレ整備には2つの事業が関わっていて、交通政策課が担当する「地域公共交通確保維持改善事業」の予算としてトイレの設計、建築、設備、上下水道整備などに約7200万円。

 文化振興課が担当する「未来の芸術家育成のためのパブリックアートプロジェクト事業」の予算として壁画とデジタルアートの制作業務委託、壁画の額装、新聞広告でのPR費などに約2800万円をかけています。

 このうちデジタルアート投影のためのプロジェクターや音響の機材や設置工事費が約2200万円です。

 開示された文書を分析中、あることに気づきました。

(記者リポート)
「デジタルアートの制作で、名古屋の企業・一旗への業務委託の契約書や見積もりはあるんですが、穴吹デザインカレッジへの支出を示す文書が見当たりません」

作品募集も受賞者なくプロの業者に委託

 「未来の芸術家育成のためのパブリックアートプロジェクト」では、2025年8月~10月にかけて40歳未満の人を対象に鬼無駅のトイレに投影するデジタルアート作品を募集。

 大賞1人に15万円、優秀賞・若干名に3万円の副賞を設定していました。

 これに7点の応募があり、5人の選定委員で審査した結果、「いずれも受賞レベルには至らなかった」として、大賞・優秀賞の「該当者なし」の結果になったのです。

 その際、選定委員からこんな意見が出たと言います。

(香川県 文化振興課/増田敬一 課長)
「応募される方が実際どういう仕上がりになるのかというのが想像がつきにくかったのかなという話もありまして、何かこうお手本というか見本というかというものをプロの手で作ってもらったらどうですかと」

 そこで、県は2025年12月26日~2026年1月9日までの期間でデジタルアート制作の委託業者を「コンペ方式」で募集。

 応募があったのは、2025年3月からあなぶきアリーナ香川で3回行ったプロジェクションマッピングの制作にも携わった「一旗」1社だけで、審査を経て約200万円で契約しました。

専門学校への制作依頼は「無償」で

 一方、最初の作品募集で応募があった7点はいずれも穴吹デザインカレッジの学生によるものでした。

 選定委員からは「個々のよい部分を組み合わせ、先生も入ってブラッシュアップできないか」という意見もあり、県が学校側に話を持ち掛けました。

 穴吹デザインカレッジによると、「学生の発表の場や、学校のPRにつながる」として引き受けましたが、学校法人であるため「報酬」という形では受け取ることは難しいと伝え、「無償」で制作することになったということです。

地方自治の専門家「若者のタダ使い」

 「未来の芸術家育成」と銘打った事業で、プロの業者に約200万円で制作を委託する一方、専門学校に対しては「無償」という形に。地方自治の専門家は……。

(香川大学/三野靖 名誉教授)
「若い人の芸術の部分が薄れては困るから、取ってつけたように後付けで穴吹さんにもまたお願いしますというようになったような気がするので、若い人たちの意欲を搾取したというか。よくある若者のタダ使いというようなイメージを持ちますね」

 これに対し、県側は無償となったのはあくまでも専門学校側の申し出によるものだとしています。

(香川県 文化振興課/増田敬一 課長)
「学校として無償で協力させてもらいたいというご提案がありましたので、別に何かお金をケチってとかいうことではなくて」

(香川大学/三野靖 名誉教授)
「賞金を払うということがしづらかったりとか。もらう方も、それはあまり趣旨としてはよろしくないということであれば、その学生たちが学ぶための環境のための何か教材とか何かを提供するとかそういうやり方だってあるわけですよね」

県は「モデルとして」整備もJRや市は…

 香川県は、「県内の他の老朽化した駅のトイレを県が主体となって改修、整備する予定は今のところない」としています。

 2024年度に鬼無駅のトイレ整備を予算化した際、当時の交通政策課長はこんなことを話していました。

(香川県 交通政策課/十川裕史 課長[当時])
「県としてはモデルとなるような駅トイレの整備をさせていただいて、その取り組みが事業者とか市町に広がっていけばいいなと」

 しかし、事業者や市町への広がりは……

(JR四国/四之宮和幸 社長・3月31日)
「もともとご利用も少ないということで駅を無人にさせていただいているところもあるので、自治体さんには公衆トイレについて整備をお願いしてきました。これは引き続き継続ということでございます」

(高松市/大西秀人 市長・5月28日)
「高松市として直接的に駅のトイレについて順次改修していくという方針は今のところ持っていない」

 県は、今後、鬼無駅のトイレに投影するデジタルアートを若い人を対象に新たに公募する方針で、2026年度も約290万円の予算を計上しています。

(2026年6月23日放送「News Park KSB」より)

KSB 報道
執筆:KSB報道
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