米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃は、開始から9日目を迎え、イラン軍の戦力に壊滅的な打撃を与えつつあるとの見方が広がっている。トランプ米大統領は3月6日、今回の軍事行動「壮絶な怒り作戦」が順調に進んでいると強調し、「イランの陸軍は消え、海軍も消え、通信手段も消滅し、指導者も消えた」と述べた。米国とイスラエルは、イランの軍事インフラを短期間で徹底的に破壊する作戦を展開しており、米中央軍によると、開戦から1週間足らずでイラン国内の軍事拠点など約3000カ所を攻撃したという。カタールの衛星放送「アルジャジーラ」は6日、イラン国内の死者は1332人と報じた。イスラエル軍のザミール参謀総長も同日、空軍が6000発以上の弾薬を用いて2500回に及ぶ攻撃を実施し、イランの防空システムの約80%を破壊したと発表。イラン上空の制空権を確保したとされている。米軍はB52、B2、B1などの戦略爆撃機を投入し、ミサイル基地などへの攻撃を継続している。米戦争研究所(ISW)が3日から4日にかけての衛星写真を分析した結果、イスファハン南部のミサイル基地を含む5か所以上の基地が攻撃されたとみられる。
攻撃はイラン革命防衛隊にも及んでいる。戦争研究所の分析によると、米軍とイスラエル軍は5日、革命防衛隊のサラッラー本部の主要基地2か所を攻撃したほか、南西部では革命防衛隊地上軍の特殊部隊や即応部隊への攻撃を継続している。海上戦力への打撃も拡大している。米中央軍は、これまでに20隻以上のイラン艦船を攻撃または撃沈したと発表した。クーパー司令官は「アラビア湾、ホルムズ海峡、オマーン湾にはイラン艦船が1隻も航行していない」と述べ、イラン海軍の活動がほぼ停止しているとの認識を示した。また、米海軍の潜水艦がスリランカ南岸沖でイランのフリゲート艦を魚雷で撃沈した。こうした状況について、ヘグセス米国防長官は5日、「我々はまだ戦い始めたばかりだ」と述べ、今後さらに軍事行動を強化する考えを示した。戦闘機部隊や基地の増強を進めるとともに、イラン本土、とりわけ首都テヘランへの爆撃が大幅に拡大する可能性があるとした。
一方、民間人被害については、2月28日、イラン南部ミナーブの女子学校が攻撃を受け、生徒約150人が死亡したと国連のイラン大使が明らかにした。6日のロイター通信によると、米国当局者は、米軍が関与した可能性が高いとの見方を示しているが、調査は完了していない。ホワイトハウスのレビット報道官は、国防総省が調査を進めているとしたうえで、「民間人や子どもを標的にするのはイラン側であり、米国ではない」と関与を否定した。
今後の焦点の一つとなるのが、米軍の地上部隊投入の可能性。トランプ大統領は3月2日、ニューヨーク・ポストの取材に対し、「すべての大統領は『地上部隊は投入しない』と言うが、私はそうは言わない」と述べ、投入の可能性を排除しない姿勢を示した。一方で5日にはNBCテレビのインタビューで、現時点で地上部隊派遣を検討するのは「時間の無駄だ」とも発言しており、政権内でも方針は定まっていないとみられる。米メディアは、大規模な地上侵攻ではなく、特定任務を担う小規模部隊の派遣が検討されている可能性を報じている。これに対し、イランのアラグチ外相は「イランは米軍を待っている。(地上侵攻すれば)米軍にとって大惨事になる」と警告し、強く反発した。
トランプ大統領は今回の軍事行動の最終目標についても強硬な姿勢を示している。トランプ大統領は3月6日、自身のSNSで「無条件降伏以外に合意はない」と投稿し、イランに全面的な屈服を求めた。ホワイトハウスのレビット報道官は6日、「大統領が目標が達成されたと判断した時点で無条件降伏が成立する」と説明している。さらに、トランプ氏は3日、イラン体制の後継者問題にも言及し、「我々が想定していた人物は全員死亡した。次点も三番手も消えた」と述べた。5日には、イランの将来を導く人物を選ぶプロセスに関与したいとの考えを示した。また、6日には、「イランの指導者は必ずしも民主的である必要はない。宗教指導者であっても構わない」と発言した。
イランの後継者候補としては、死亡した最高指導者ハメネイ師の次男で革命防衛隊と関係が深いとされるモジタバ・ハメネイ師のほか、モホセニエジェイ司法府代表や、護憲評議会が選出したイスラム法学者アラフィ師などの名前が取り沙汰されている。ホワイトハウスのレビット報道官は、モジタバ師について米情報機関が動向を注視していることを明らかにした。また、米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は4日、イスラエル軍が革命防衛隊や警察の特殊部隊など、国内の治安維持機構を重点的に攻撃していると報じた。準軍事組織バシジの本部や警察司令部の特殊部隊本部などが標的となっており、体制の統治基盤を揺るがすことで民衆蜂起を促す狙いがあるとの見方も出ている。
米国とイスラエルによるイラン攻撃を受け、中東の海上交通にも深刻な影響が広がり始めている。世界有数の原油輸送ルートであるホルムズ海峡では、船舶の航行が大きく制限され、海運・保険市場にも緊張が走っている。攻撃前となる2月27日時点では、ホルムズ海峡は、通常の航行が可能だったものの、3月6日の時点では海峡を通過できない船舶が相次いでいる。海運関係者の間では、イラン革命防衛隊が海域を事実上封鎖した可能性が指摘されており、タンカーを含む商船の航行が大きく滞っているという。こうした事態を受け、米国政府はホルムズ海峡を通過するタンカーの護衛を「必要な場合、可能な限り早期に開始する」方針を示した。さらに、湾岸地域を通過する海上貿易について、政治リスク保険や保証を「極めて合理的な価格」で提供するよう関係機関に命じたとされる。
しかし、実際の運用には課題も多い。ノルウェーの海上保険組合「Skuld(スクルド)」によると、すでに戦争リスク保険料は従来の約12倍に急騰し、航行1回あたり数百万ドル規模の保険料が見積もられるケースもあるという。トランプ大統領が示した「必要な場合」という条件も曖昧で、具体的にどのような事態で保険が適用されるのか、また適正価格の基準や保険の適用範囲など制度設計には精査が必要とされている。湾岸の海上輸送が戦闘の影響を受けるのは今回が初めてではない。1980年代のイラン・イラク戦争では、いわゆる「タンカー戦争」が発生し、ペルシャ湾を航行するタンカーが双方の攻撃対象となった。当時は約400~500隻の船舶が被害を受け、少なくとも50隻が撃沈されたとされている。一方、軍事的緊張は周辺地域にも波及している。イランによる反撃とみられる動きは周辺各国に広がり、トルコ、アゼルバイジャン、イラク、サウジアラビア、オマーン、クウェート、ヨルダン、バーレーン、カタールなど、少なくとも11か国に影響が及んでいるとされる。各国政府はイランを念頭に自制を求める一方、軍事対応の可能性についても検討を始めている。
★ゲスト:今村卓(丸紅経済研究所社長)、田中浩一郎(慶応義塾大学大学院教授)、小谷哲男(明海大学教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)