米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃をめぐり、米国内では作戦決定の経緯やその正当性をめぐる議論が広がっている。ルビオ米国務長官は3月2日、イラン攻撃について「我々はイスラエルが行動を起こすことを知っていた。それが米軍への攻撃を招くことも理解していた。先制的に攻撃しなければ、より多くの犠牲者が出ることも分かっていた」と述べ、米国がイスラエルの動きを前提に軍事行動に踏み切ったとの認識を示した。発言は、米国がイスラエルの軍事判断を踏まえて先制攻撃を決断したと受け取られかねない内容で、国内のMAGA(トランプ氏支持層)派からも批判の声が上がっている。オンライン活動家のマイク・サーノビッチ氏は、ルビオ氏の発言について「多くの人が推測していたことが事実だと明らかになった」と述べ、米国がイスラエルの動きに引き込まれた形で戦争に関与した可能性を指摘した。保守系論客のマット・ウォルシュ氏も「ルビオ氏は、イスラエルに追い込まれてイランとの戦争に入ったと認めたに等しい」と批判し、いわゆる「MAGA(トランプ支持層)」の間でも疑問の声が広がっている。
こうした中、今回の軍事行動が決定されるまでの経緯について、米メディアが報じた。3月2日付の米紙「ニューヨーク・タイムズ」は、トランプ大統領が戦争を決断するに至った背景として、2月11日にホワイトハウスで行われたトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相との首脳会談に焦点を当てた。ネタニヤフ首相は「トランプ大統領を戦争への道に導く決意を固めて大統領執務室に入った」とされ、約3時間に及ぶ会談では、軍事行動の可能性や攻撃の時期、さらにはトランプ政権がイランと核問題で合意する可能性などが議論されたという。同紙はまた、ネタニヤフ首相が数か月にわたり、弱体化したイラン政権への攻撃の必要性をトランプ大統領に訴えてきたと指摘している。とりわけ、昨年12月の会談では、ネタニヤフ首相が「今後数か月以内にイスラエルがイランのミサイル基地を攻撃する計画について、トランプ大統領の承認を求めた」と報じている。同紙は、「その約2か月後、ネタニヤフ首相は「イラン指導部を打倒する戦争における完全なパートナー」を得た」と記している。
今回のイラン攻撃をめぐっては、米国とイスラエルの間で世論の温度差も顕著となっている。米CNNが実施した世論調査によると、米国ではイラン攻撃に「反対」が59%、「賛成」が41%だった。特に「強く反対」が31%に上り、「強く賛成」の16%を大きく上回っている。一方、イスラエルの世論調査では、イランへの攻撃に「賛成」が約8割を占め、そのうち「強く賛成」は6割に達するなど、両国の世論は対照的な結果となっている。日本政府も対応に慎重な姿勢を見せている。高市総理は3月2日、衆院予算委員会で米国とイスラエルによるイラン攻撃について「我が国として法的評価は差し控える」と答弁した。一方で5日には、ドイツのメルツ首相との電話会談で、イランによる反撃がエネルギー施設や外交施設など民間施設に及び、民間人の死者も出ているとして、その行動を非難した。
一方、中東情勢の緊迫化に伴い、エネルギー市場への影響も顕在化している。海運大手の日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社は、イラン攻撃の翌日となる3月1日、ホルムズ海峡の航行を停止したと発表した。中東情勢の悪化を受け、船舶を安全な海域で待機させるなどの措置を取っているという。日本の石油備蓄は、国家備蓄と民間備蓄を合わせて約254日分とされるが、原油価格は急速に上昇している。中東原油の指標となるドバイ原油の取引価格は6日、1バレルあたり99.14ドル。米国によるイラン攻撃前は約68ドルで推移していたことから、短期間で大幅な上昇となった。航空燃料の価格も急騰している。アジアの燃料取引拠点であるシンガポールのジェット燃料価格は4日、72%以上上昇し、1バレル225.44ドルと過去最高値を記録した。航空会社が徴収する燃料サーチャージの引き上げにつながる可能性も指摘されている。
原油高が日本経済に与える影響について、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは複数のシナリオを試算している。軍事衝突が比較的限定的にとどまる「楽観シナリオ」では、原油価格は14.9%上昇し、日本のガソリン価格は1リットルあたり181円程度になると見込む。原油輸送の混乱が長期化する「メインシナリオ」では、原油価格は29.9%上昇し、ガソリン価格は204円程度まで上昇する可能性がある。さらに、中東全域に軍事衝突が拡大する「悲観シナリオ」では、原油価格は109%上昇し、ガソリン価格は1リットルあたり328円に達する可能性があるとしている。木内氏はまた、原油価格の上昇が電気料金を約6%押し上げ、ガス料金は2~3割程度上昇する可能性があると試算している。食料品にも波及し、卵1パックの価格が10~20円程度上昇する可能性があると指摘している。
★ゲスト:今村卓(丸紅経済研究所社長)、田中浩一郎(慶応義塾大学大学院教授)、小谷哲男(明海大学教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)