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【解説】JR芸備線の実証事業開始から約1カ月 現状と課題は

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 JR芸備線の存廃などを議論する再構築協議会は、7月19日から芸備線の潜在的な可能性を検証するための実証事業を行っています。開始から約1カ月、現状と課題を探りました。

(利用者[鳥取県から])
「増便。せっかくなので乗ろうかなと。車両ですとか景色ですとか(芸備線は)味わいのある路線だと考えています」

(利用者[大阪府から])
「(芸備線に)活気が出ればいい」

 7月19日、JR新見駅を発車する臨時列車に客が乗り込みました。

 国や沿線の自治体、JR西日本などでつくる再構築協議会が始めた増便の実証事業です。芸備線の潜在的な観光需要などを調べるため、新見駅から広島県の備後落合駅までの区間などで約4カ月間、土日祝日に上下1本ずつ臨時列車を運行します。

 再構築協議会は新見市の備中神代駅から広島県の備後庄原駅までを「特定区間」とし、存廃も含めて最適な交通の在り方を検討しています。

 特定区間に含まれる新見市哲西地区の矢神駅と野馳駅からは無料の周遊バスが運行しています。駅と観光スポットの「鯉が窪湿原」などを結ぶもので、こちらも実証事業の一つです。

 2次交通との連携強化で観光需要などの掘り起こしを図るのが狙いで、他にも予約型の乗り合いタクシーがあります。

(周遊バスの利用者)
「(これまで)この時間に芸備線もなかった。接続するバスもなかったですので回りやすくていいと思います」

現場の反応は

 新見駅の向かいにある観光案内所です。実証事業が始まって約1カ月が経つ中で、臨時列車にはある程度の数の客が乗っていると感じています。

(新見市観光協会/西村和夫さん)
「ここから広島へ行くとか『青春18きっぷ』で若い方もいらっしゃいますし、鉄道の『乗り鉄』と言われる方が結構いらっしゃっている感じです。観光タクシーとかレンタカーも使っていただける方もいらっしゃいますので、この辺での今後の伸びは期待できるかなと思っています」

 一方、実証事業の周遊バスと乗り合いタクシーを運行している地元の企業は、駅を降りて観光する人は少ないと感じています。

(妹尾タクシー/妹尾佳樹 社長)
「忙しいときは(1日に)10名弱ぐらいは(利用が)あったりしますけど、暑かったりすれば1~2名という形にはなっていますね。正直思っていた以下ですね。もうちょっと人が動いてくれればいいかなとは思っています」

 周遊バスがとまる道の駅鯉が窪です。

(宮川周三リポート)
「野菜や果物、お土産が並ぶ中、こちらにはSLのプレートが展示されています。鉄道ファンを呼び込むのが狙いです」

 7月上旬に設置したもので、鉄道ファンから好評だそうです。実証事業の効果は一定程度感じているものの、売り上げが大きく変わるほどではないと話します。

(道の駅鯉が窪/水上真一 駅長)
「最後だから乗ってみようとか趣味の世界、まあよく俗に言う『撮り鉄』の方であったりとか『乗り鉄』の方であったりとかっていう方が利用されているのが大半だと思います。(実証事業は)会議に出ておられる方が机の上だけで考えられているので、もっと現場でどういうふうにした方がいいかとかそういうふうなことをもう少し地元目線で考えていかなければいけないのかなと思います」

新見市「想定通りの手応え」

 再構築協議会の構成員でもある新見市は、「想定通りの手応えだ」とした上で、今後、イベントの開催やPRなどに力を入れていきたいと話します。

(新見市 市民生活部/山縣晴美 部長)
「地域の魅力が最大限発揮できるようなメインはイベントになると思うんですけれど企画していく。効果的なPRをして芸備線に乗っていただいて哲西地域で降りていただく、そういったことを思っております」

 今後予定されている実証事業を紹介します。「駅や周辺施設でのイベント」「地元食材を生かした商品を列車内などで提供」「周遊を促すスマホアプリと連携したタイアップイベント」などです。ただし、詳細な内容はまだ明かされていません。

広島県とJR「列車増便の実施期間」で意見ぶつかる

 一方、実証事業を巡っては開始前から指摘されている課題があります。しかし、1カ月経った今も解消されていないのが現状です。

 7月9日に岡山市で開かれたJR芸備線の再構築協議会です。実証事業のうち、列車の増便の実施期間について広島県とJRの間で意見がぶつかりました。

(広島県/横田美香 副知事)
「取り組みの周知から定着に一定の時間を要することや、春夏秋冬の季節に応じた移動需要の変化を踏まえるために、実証事業の土台となるダイヤの増便は1年間実施していただく必要があると」

(JR西日本広島支社/飯田稔督 支社長)
「どうしても運転士とか車両のリソースの関係で、2025年度は4カ月の実施が限界だと判断しておりまして」

 一方、岡山県の伊原木知事は7月15日の会見で……

(岡山県/伊原木隆太 知事)
「提案されている期間(約4カ月)があれば、私はそこそこのいろんなことは分かるのではないかと思っています」

専門家「数字の大きさ・持続可能性の両面で検証を」

 自治体の中でも意見が分かれる中、増便の期間が延長されるかはまだ分かりません。そして、再構築協議会では実証事業の検証について専門家が意見を述べました。

(呉工業高等専門学校/神田佑亮 教授)
「想定する数字が出なかった場合に元々のポテンシャルが原因なのか、あるいはやり方・仕組み・進め方が原因なのか。体制をしっかり整えて時間がかかれば(数字が)出る可能性はあるわけです。逆も然りで、数字が出ましたといったところに対して安心をしておくというものでも恐らくなくて。数字の大きさとともに持続可能性という両面で検証していく必要がある」

 協議会では、検証の方法を事前に検討すべきだという意見も出ましたが、評価の基準など具体的な内容は今もなお決まっていません。

 課題を早く解決するとともに、実証事業の実施そのものが目的にならないようにしてほしいと感じます。再構築協議会は協議開始から3年以内、2027年3月末までをめどに存廃などの結論を出す方針です。

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