夫婦が希望すれば、結婚後もそれぞれの名字でいられる「選択的夫婦別姓制度」について取り上げます。経済界からも政府に早期導入を求める声が上がり、今回の衆院選でも注目を集めました。選挙を経て、どう動いていくのでしょうか?
経済界が提言…自民党総裁選で議論に
2024年6月、経団連が「選択的夫婦別姓」の早期導入を求める提言書をまとめ、法務大臣ら3人の閣僚に手渡しました。
(経団連 ダイバーシティ推進委員長/魚谷雅彦さん[資生堂会長])
「ぜひ国会で建設的な議論を1日も早く進めていただきますようよろしくお願いします」
(小泉龍司 法務大臣[当時])
「つつしんで承りました」
提言では「旧姓の通称使用は海外では理解されづらく、ビジネス上のリスクになりうる」としています。
主要政党では唯一、導入に慎重な姿勢を示してきた自民党ですが、9月の総裁選で小泉進次郎さんが「1年以内に実現させる」と打ち出したことで議論が活発になりました。
石破茂さんも総裁選中は賛成の立場を示していましたが、総裁・総理に就任後は党内の保守系議員に配慮してか一気にトーンダウン。そのまま衆議院を解散しました。
自民党のキーマン 夫婦別姓を語る座談会に
そんな中、10月12日、選択的夫婦別姓の実現に取り組む一般社団法人「あすには」のメンバーが岡山市で開いた座談会。
自民党のベテランで、岡山1区の逢沢一郎さんがゲストとして参加しました。逢沢さんは、経団連の要望を受け、約3年ぶりに再開した自民党の「氏制度のあり方に関する検討ワーキングチーム」の座長を務めています。
(自民党の検討ワーキングチーム座長/逢沢一郎 氏)
「社会の中でこの問題について一つの大きな結論を出してほしいという要請は非常に強いものがあると感じています。拙速にというわけにもいかないかもしれないけれど、よく議論をして、政党として一つの大きな方向を取りまとめることができればと考えています」
座談会では、夫婦のどちらかが姓を変えることを強制される現在の制度に対する「モヤモヤ」を参加者が打ち明けました。
(去年結婚し改姓/堀田夏菜さん[31])
「女性が名字を変えるのが当たり前かなと思って変えたんですけど、アイデンティティの喪失に永遠に悩み続けているという状態です」
杉原美帆さん(33)と禎章さん(32)は結婚式を挙げたあとも1年ほど婚姻届を出さず、「事実婚」の状態でした。
(事実婚を経て改姓/杉原美帆さん[33])
「家父長制で、夫の所有物として妻がいるみたいな感覚がすごい嫌だなというのがあって、それでしばらく。反抗心じゃないですけど」
(事実婚を経て妻が改姓/杉原禎章さん[32])
「自分の(姓)に統一してもらうことに結構負い目があったというか。選べるってことがなぜできるようにならないのかというのがすごく疑問」
今回の座談会を企画した「あすには」のメンバー・松川絵里さん(44)は、学生時代から哲学に関する論文や著書があり、夫と事実婚を続けていましたが、病気をきっかけに法律婚をし、夫の姓になりました。
(事実婚を経て改姓/松川絵里さん[44])
「配偶者じゃない立場でどこまでパートナーを支えられるかというお互いの不安があったのが、3年ぐらい事実婚をした後にそういう不安が拭いきれずに法律婚をした」
逢沢さんは約1時間、参加した7人の話に耳を傾けました。
(自民党の検討ワーキングチーム座長/逢沢一郎 氏)
「やっぱり生活の中でモヤモヤ感っていうかさまざまやっぱり、心の問題にもつながるような立場の方、そういった感性の方もいらっしゃるということを受け止めなきゃいけないなと思いましたね」
Q.(選択的夫婦別姓は)選挙の争点にはなりますか?
「『争点』ということではないかもしれないけれども、国民の皆さんが非常に強い関心を持っておりますから、一人ひとりの候補者がどういう考え方を持ってるかということは今まで以上に関心を持って有権者の方がチェックをするというか、確認をするというか、今まで以上にそういう選挙になるような気がしますね」
(座談会を企画した「あすには」/松川絵里さん[44])
「30年以上前からずっと当事者によって、ちゃんと考えてほしいというのが訴え続けられている問題で、今度こそ……過去一番で期待しています」
衆院選で選択的夫婦別姓は争点になった?
そして始まった衆院選……。「選択的夫婦別姓」の導入について、岡山の自民党の候補者では3区の加藤さんが「どちらかと言えば反対」の立場を明らかにしています。
(自民党[岡山3区]/加藤勝信さん)
「家族で同じ姓を使う(現行)制度は維持すべきだということは申し上げております。一方で、やはり姓を変えた側が大変いろんな不便がある。そういった意味において、旧姓を続けて使える旧姓俗称制度というのを総裁選挙の時に申し上げました」
一方で、1区の逢沢さん、2区の山下さん、4区の橋本さんは「どちらとも言えない」、または「回答しない」として、賛否を明確にしませんでした。
有権者に今回の衆院選の「争点」について聞くと、選択的夫婦別姓を挙げる人はあまり見られませんでした。
Q.選択的夫婦別姓の問題は?
(会社員[30代])
「それは特に僕は興味がないですね」
Q.選択的夫婦別姓は争点になる?
(主婦)
「働いてる方にとっては不便なことだと思いますけど、私の感じではそれほど争点にならないと思ってますけど」
(会社員[30代])
「それでもって大きく選挙に影響するかっていうと、そんなにしないんじゃないか」
日本のフェミニズムや右派の運動などを研究する立命館大学の山口智美教授は……。
(立命館大学 国際関係研究科/山口智美 教授)
「私個人的にはもっとスポットが当たってもいいんじゃないかと思っていたんですけれども、案外そんなに選択的夫婦別姓について、すごく発言をする候補者とかはそこまでいなくて、やっぱり裏金問題の方にかなり興味関心が向いたかなというふうには思います」
自公過半数割れ 制度導入の議論は?
開票の結果、自民、公明の与党が公示前の279議席から215議席へと大きく議席を減らし、15年ぶりに過半数を割り込みました。選択的夫婦別姓の議論に影響はあるのでしょうか?
(立命館大学 国際関係研究科/山口智美 教授)
「反対派の中心になっていた議員さんたちが、やっぱりそれなりには通っているということもあり、今回の選挙でわりと勢力を伸ばしたのが参政党だとか、日本保守党。その辺はもう完全に反対の勢力ですから、必ずしも『ああ、よかったね、これで(法案が)通るね』と安心していられるような状況ではないと思います」
国連が日本政府に4度目の導入勧告
法務省によると、「夫婦同姓」を法律で義務付けている国は日本だけで、29日、国連の女性差別撤廃委員会が日本政府に対し「選択的夫婦別姓」を導入するよう勧告しました。
勧告は2003年以降4回目で、「差別的な条項があるとしたこれまでの勧告に対し、何の行動も取られていない」と指摘しています。
立命館大学の山口教授は、「また『たなざらし』の状態にしないためには、選挙が終わっても国会での議論の行方をしっかり監視して、自分たちの声を届けていくことが大切だ」と話しています。