2025年、クラブ史上初のJ1リーグに挑むファジアーノ岡山。夢舞台への挑戦を前に、クラブは厳しい現実と向き合いながら準備を重ねています。
Jリーグ参入から16年、悲願のJ1初昇格を成し遂げたファジアーノ岡山。プレーオフ決勝から1週間たった12月、森井悠社長に今の思いを聞きました。
(ファジアーノ岡山/森井 悠 社長)
「今で言うと、もう『次に向かっている』。是が非でも欲しかったJ1での活動の機会を皆さんと勝ち得たので、これを飛躍的に大きな成果にしていかなければいけない。企業の規模とか実績とかで申し上げればJ1の全クラブの中で最下位になるので、そういう中でしっかりJ1残留をしていく、定着をしていく、すぐに着手しなければいけない」
夢舞台を勝ち得た喜びも束の間、向き合わなければならない厳しい現実……。
2023年度の各クラブの売上高を見てみると、J1の平均が50億円を超えているのに対し、ファジアーノは約19億円と、J1クラブで比較すると最も低く、J2の中でも中位に位置しています。
ファジアーノによると2025年度は28億円程度まで売り上げを伸ばす見込みですが、J1の平均にはまだまだ届きません。
選手の年俸や移籍金などが含まれる「人件費」の支出を見ても、J1トップチームが30億円を超える中、ファジアーノは7億円余りと、規模の差は歴然です。
親会社や責任会社を持たない市民クラブとして厳しい戦いを生き抜くためには、収入をアップして、戦力強化につなげていかなければなりません。
まず着手した1つが、チケット価格の見直しです。席の種類に応じて400円から1200円の値上げとなります。
チケットを担当する部署はプレーオフからわずか2カ月後に開幕する新シーズンに向けて準備に追われていました。
(ファンエンゲージメント部/大森仁嗣 部長)
「(Q.どんな状況ですか?)バタバタで『てんやわんや』が一番合う言葉かもしれない。開幕が(例年より)かなり早いということがあって、シーズンパスの購入とか発送とかの期間が短い中でJ1昇格したことにより席種の変更、指定席を増やして変更点が多いので」
昨シーズンまでの座席と今シーズンの座席を比べると、自由席の割合が減り、指定席がかなり増えました。自由席での席の確保などの不安を取り除いて、フーズやグッズの購入などを安心して楽しんでもらおうという配慮です。
(ファンエンゲージメント部/大森仁嗣 部長)
「プレーオフの様子を踏まえて(決勝後の)週明けの1日2日で変えたこともあるので、その辺も含めてバタバタしているかな(Q.今までも考えられていたと思うけど現実を見て変えた?)そうですね。現実を見て、より良い選択をぎりぎりで変えたっていう感じですね。もうプレーオフ前からかなかれこれ1カ月くらいこんな感じのスケジュールでやっているかな…落ち着く日来ますかね(笑)」
今シーズンのシーズンパスの販売初日。シティライトスタジアムには臨時窓口が設置されました。
(シーズンパスを買った人は―)
「新規で買いました。これまで何回か見に来ていて。今年は受験だったんで、来年から(県内の)大学になるんでシーズン通して行きたいなと思って買いました。J1はやっぱりいろんな強いクラブがいるんで、今のファジアーノがどれだけできるか見てみたいので楽しみにしています」
「楽しみと怖さが半分ずつある」
「見るカテゴリがJ1になったのでどきどきします」
「テンション上がるよね。マリノスとか鹿島とか」
「浦和とか……」
「浦和怖えー、まじで」
ファジアーノによると、これまで3000枚ほどだったシーズンパスの売り上げが、今シーズンは6000枚を超える見込みだということです。
(ファンエンゲージメント部/大森仁嗣 部長)
「(いつもこういう臨時窓口は?)やってないです。本当に想定以上で……。うれしいのか……うれしいことなんですけど。(Q.うれしい悲鳴?)うれしい悲鳴です。これはもう会社に言うしかない。チケット担当が足りないです(笑)」
J1クラブとなり、ビッグクラブとの対戦が続く今シーズン。昨シーズンのJ1平均観客数は2万人を超えています。対してシティライトスタジアムの収容人数は1万6500人。今シーズンは多くの試合で満員になることが予想されます。
(ファジアーノ岡山/森井 悠 社長)
「入場料収入よりももっと私たちが大事にしたいのは、岡山の方々にしっかりとトップカテゴリのスポーツを観戦していただく、体感していただくということを大事にしていきたいと思っている中で、岡山の方が見たくても見られない、あるいは子どもたちも見たくても見られないという状況が起きてしまうと思います。私たちはそういう意味では今のスタジアムのあり方、最適なものが何なのかというのは相談させていただきながら、もしフットボール専用スタジアムが必要ということになれば積極的に進めていきたい」
期待と不安を胸に、J1での新たな戦いに臨むファジアーノ。絶対的守護神のブローダーセンや昨シーズンチーム得点王の岩渕ら主力のほとんどがチームに残留。
新戦力では、J1の柏や浦和で活躍し、昨シーズンは韓国1部リーグで優勝に貢献したアタッカー、江坂任。身長191cmの高さとテクニックも兼ね備えるディフェンダー、立田悠悟と、J1で100試合以上に出場し日本代表の経験もある2人が加入するなど、十分戦える戦力を整えました。
(ファジアーノ岡山/森井 悠 社長)
「大谷翔平選手の言葉を借りるなら『憧れるのをやめましょう』ということで。私たちはJ1クラブになったわけですから、足りないものはすごくたくさんあるので補っていく高めていくっていうところはしっかり意識しなくてはいけないですけど、まず私たちはJ1クラブという気概を持って挑みたいと思っています。加えて事業的には非常に大きなチャンスになります。これをただ漫然と過ごすんじゃなくてさらに飛躍する大きな機会とできるようにしっかり戦略を立てて生かしていきたいと思っています」