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【特集】シベリア抑留の記憶をつなぐ…演劇制作を経て学生に変化は 香川

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 2025年12月、善通寺市の四国学院大学で、第2次世界大戦後の「シベリア抑留」をテーマにした演劇の公演が行われました。遺族から話を聞くなど制作期間は1年半以上。この演劇づくりを通じて、学生たちにどんな変化があったのでしょうか?

 3月13日に行われた四国学院大学の卒業式。3つの学部の合わせて203人が門出を迎えました。中四国で唯一の「演劇コース」で学んだ池内怜士さん(22)と原麻名実さん(22)。

 彼らが参加したのが2025年12月に行われた公演「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」。第2次大戦後、旧ソ連軍に連行された多くの日本人が、極寒の地で過酷な労働を強いられた「シベリア抑留」がテーマです。

(演劇「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」)
「ここは炭鉱の町で、働かざる者食うべからずのノルマ主義で働かされた」

 池内さんが演じた役には実在のモデルがいます。さぬき市の川田一一(かわだ・かずいち)さん(当時86歳)。20歳のときに旧満州で終戦を迎えて捕虜となり、現在のカザフスタンで約3年間、炭鉱作業などに従事しました。

(川田一一さん[当時86歳])
「帰りたいと、食べたいと、寝たいということはおそらく日に日に思とったと思います」

 川田さんは70歳になってから絵筆を握り、仲間への「鎮魂の思い」を描き始めました。

 そんな川田さんとキャンバスを並べていた孫の千田豊実さん。川田さんが亡くなった後もシベリア抑留をテーマにした絵画を制作し、祖父が遺した絵と一緒に展示してきましたが、若い世代にも「記憶」をつなごうと今回の公演を企画しました。

(画家/千田豊実さん[2024年11月])
「演劇に関しては多くのスタッフで作り上げていくというのがあるので。特に学生の俳優さん方に知ってもらえる」

 脚本・演出を務めたのは、千田さんの10数年来の友人で、四国学院大学で演劇を教える仙石桂子さんです。日々、学生と接する中である課題を感じていました。

(四国学院大学/仙石桂子 教授[2024年11月])
「学生たちは戦争ということが今、世界の中では起きているけれども、ちょっと目を背けたくなったり、知ろうとするっていうことがすごく少なくなってる」

 そこで、約1年半の制作期間をとり、シベリア抑留者の遺族や語り部らを招いた座談会を4回、開きました。

(四国学院大学4年/原 麻名実さん)
「シベリア抑留という言葉をちゃんと耳にしたのは最近です」

(四国学院大学4年/池内怜士さん)
「おじいちゃん、おばあちゃんは若くてまだ60代で、親族から戦争とかの話を聞いたことはあんまりなくて」

 仙石さんは抑留経験者の手記や遺族から聞き取ったエピソードに加え、等身大の大学生の役を劇に登場させることにしました。

(四国学院大学/仙石桂子 教授[2025年6月])
「学生たちが授業に参加している様子とかを見て、これは学生たちのこのままを描いたほうがいいなと思ったんですよ」

 劇は、授業の課題で、学生たちが抑留者の遺族らを訪ねていくストーリーです。聞いた話をしっかりと受け止める学生がいる一方、「レポートさえ完成すればいい」という学生もいて、「温度差」が浮き彫りになります。

(演劇「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」)
「戦争って昔あったことで終わらせてええん?」
「なんなん、また始まった?」
「世界中で起きてる戦争にいちいち心痛めてたら生きてけないでしょ」
「いいんじゃない?考え方もそれぞれあるしさ」
「それぞれで逃げんなよ。俺たちは選べる。見て見ぬふりもできる。でも爆撃の中におる人たちは選べんので」

 4年生の原麻名実さんは、抑留経験者の娘の役を演じました。

(演劇「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」)
「それまでお父さんは何も言わなかったんですか?」
「若い頃は語りませんでした。でも、晩年になって歌を詠んでいたんです。短歌にして」

 役のモデルになったのは西岡秀子さん(79)です。香川県さぬき市出身の父親が4年間の抑留経験を短歌にして残していました。

 寒さや重労働よりも辛かったというソ連軍による「政治教育」や、故郷に帰った後の社会的な差別について触れた歌もありました。

(父親がシベリア抑留を経験/西岡秀子さん)
「『どれくらい 赤くなったか人々は 興味津々我が言葉聞く』。もう、ソ連帰りは『アカ(共産主義者)』だと」

 そんな父親が口癖のように語っていたのが「シベリア思ったらなんちゃでない(何でもない)」という言葉でした。

(父親がシベリア抑留を経験/西岡秀子さん)
「『わしが死んだからいうてなんちゃ悲しまんでええんで。幸せな一生やった』って言うんですよ。え?っと思ったら『戦争のない時代に死ねる』と」

 父親の短歌を「歌集」にして自費出版し、積極的に講演も行ってきた西岡さんは現在79歳。原さんたちは演劇を通じて「記憶のバトン」をつなごうとしていました。

(四国学院大学4年/原 麻名実さん)
「直接聞いたわけじゃないし体験したわけでもないけど、表現者として舞台に立つということは、もう語る側としての立場になるということなので」

 公演初日、西岡さんも劇場に足を運びました。西岡さんをモデルにした役の父親との回想シーン。

(演劇「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」)
「誰かがアカ(共産主義者)は危険だって。警察が来るかもしれないって。どうして自分の考えを持つと悪いの? みんな同じでなければ生きられないの?」
「自分の考えを持つことは大切だ。心の中にだけでも自由を持つんだ。……シベリア思ったら、なんちゃでない」
「シベリア思ったら、なんちゃでない……」

 終演後、西岡さんが原さんの元に――。

西岡さん「いや~すごい上品で、素敵と思って。ありがとう。なんか父の言葉がね、今まで理解してたよりもう一つ深くね、人が言ってくれるとまた入ってきて」
原さん「……(涙ぐむ)」
西岡さん「よかった、ありがとう」

(四国学院大学4年/原 麻名実さん)
「そんなふうに受け取ってくださると思わなかったので、うれしかったです。西岡さんにああやって言っていただけたなら伝える側に一歩近づけたのかなっていう」

(父親がシベリア抑留を経験/西岡秀子さん)
「若い人に伝える、伝え方としてやっぱり演じてもらうっていうそれを仲間に広げてもらうっていうのはね、ただ見てもらったり聞いてもらったりするのと違う。主人公になるでしょう、若い人は」

(演劇「沈黙を聴く~記憶のしらべ~」)

「もう戦争は二度と繰り返すことはあるまい。私たち戦争を体験したものの祈りであり、責任であるとつくづく感じている」

「ねえ、おじいちゃん。描いているとき、どんな気持ちで描いてたの? 私たち家族はあなたの支えになりましたか?」

(画家/千田豊実さん)
「祖父と肩を並べた制作の時間と祖父が亡くなってからの時間というのがあったので、それを客観的に、見た、見せてもらったっていう感じです。実際演じてもらうことによってすごく肌で感じたというか、改めて多くの人に伝わったんじゃないかと思います」

(卒業式あいさつ 四国学院大学/仙石桂子 教授)
「今、世界の中でもいろんなことが起きている中で、もしからしたらここで皆でこういうお祝いができるってことはすごく幸せなことなんじゃないか」

 「沈黙を聴く」は、2026年10月25日、高松市のレクザムホール小ホールで再演されることが決まりました。池内さんや原さんらが出演するかはまだ決まっていませんが、2人は就職後も演劇を続けるつもりです。

 「シベリア抑留」と向き合った1年半あまりを経て、変化は……。

(四国学院大学4年/原 麻名実さん)
「戦争だったり、世界で起こってるちょっと怖い、悲惨って思うことを、目をそらしてしまいがちだったんですね。少しでも何か意識を向けていないと取りこぼしてしまうことがいっぱいあるなと感じました」

(四国学院大学4年/池内怜士さん)
「戦争は多分無くならないし、これからも続いていくと思うんですけど、ニュースとかを無視しない、現実はちゃんと受け入れるっていうことをこれからはやらなきゃいけないんだろうなと思います」

(2026年3月17日放送「News Park KSB」より)

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