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【特集】シベリア抑留の記憶を次世代につなぐ…大学生らが演劇公演へ 香川

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 香川県善通寺市で戦争を題材にした演劇の公演が12月5日から行われます。第2次世界大戦後、多くの日本人が極寒の地で過酷な労働を強いられた「シベリア抑留」の演劇です。戦後80年、戦争体験者から直接話を聴く機会が減る中、その「記憶」を次世代につなぎます。

 四国学院大学で演劇を教える仙石桂子さん(44)。学生や、自身が主催する劇団のメンバーと一緒に稽古に励んでいます。仙石さんが脚本、演出を務めるこの作品には実在のモデルがいます。

70歳から抑留の記憶を描いた祖父

 さぬき市の川田一一(かずいち)さん。2011年に取材した際、肺を患い、酸素吸入器をつけてキャンバスに向かっていました。描いていたのは「シベリア抑留」の記憶です。

 第2次大戦後、旧ソ連軍に連行された約60万人の日本人が極寒の地で過酷な労働を強いられた「シベリア抑留」。約5万5000人が亡くなったとされています。

 川田さんは20歳のときに旧満州で終戦を迎えて捕虜となり、現在のカザフスタンで約3年間、炭鉱作業などに従事しました。

(川田一一さん[当時86歳])
「帰りたいと、食べたいと、寝たいということはおそらく日に日に思とったと思います」

 川田さんは帰国後、抑留経験を誰にも語らず、70歳になってから絵筆を握りました。シベリアで亡くなり、故郷に帰ることがかなわなかった仲間への「鎮魂の思い」を絵に込めました。

 川田さんの孫で画家の千田豊実さん(43)はその姿を隣で見てきました。

(画家/千田豊実さん)
「ちょっとキャンバスの前でうずくまって動かないなとかって思っていたら、ちょっと涙していたりとか。見て、私もいたたまれなくなった」

 川田さんが2012年に87歳で亡くなった後も千田さんが思いを引き継ぎ、シベリア抑留をテーマにした絵画を制作し、祖父が遺した絵と一緒に展示してきました。

 しかし、ある「課題」を感じていました。

(画家/千田豊実さん)
「抑留に関心がある方っていうのは来てくださっていたんですけど、どうしても限られてしまうというか。絵画の展覧会以外の表現でできないかなと思って」

演劇制作のためシベリア抑留について学ぶ

 そこで、10数年来の友人だった仙石さんに話を持ち掛け、川田さんと千田さんをモチーフにした演劇を作るプロジェクトを立ち上げました。

(四国学院大学/仙石桂子さん)
「描くにしても、1カ月やそこらでちょっと調べてどうのっていうことでもないなと思って」

 演じる学生や劇団員の多くは、祖父母も戦争を経験していない世代です。約1年半の制作期間中、シベリア抑留者の遺族や語り部らを招いた座談会を合わせて4回、企画しました。

(四国学院大学4年/池内怜士さん[22])
「おじいちゃん、おばあちゃんは若くてまだ60代で、親族から戦争とかの話を聞いたことはあんまりなくて。長いリサーチの時間をかけてやっていくということが大事だと思う」

 シベリア抑留生活や引き揚げに関する資料などを展示する京都の舞鶴引揚記念館にも演劇に関わる学生や劇団員らが足を運びました。

多くの抑留経験者が口にする「言葉」

 記念館の元館長で、現在は語り部活動をしている宮本光彦さん(78)。復元された引揚桟橋に抑留経験者を案内すると、多くの人が「ある言葉」を口にするといいます。

(舞鶴引揚記念館 元館長/宮本光彦さん)
「涙ぐみながら『申し訳ない』です。叫んでおられる方、つぶやく方、いろんな方がおられました。もちろん千田さんのおじいちゃんもつぶやかれました。申し訳ないという意味は、わしだけこうして帰ってきた。そして今も生きている」

 画家の千田さんをモデルにした役を演じる劇団員の北村茉由さん(30)は……

(千田さんをモデルにした役を演じる/北村茉由さん)
「私もたぶん同じ立場だったら申し訳ないなという気持ちになると思うんですけど、そういう方たちがものすごい頑張って帰ってきてくださったから私たちもそのことを知れる、知ることができたっていう帰ってきてくださった意味みたいなものを演劇の作品の中で、日本に帰ってこられた方も、帰ってこられなかった方にも届いたらいいなという気持ちに今、なりました」

テーマは抑留経験者の「沈黙」

 約1年をかけた座談会や取材を終え、四国学院大学の仙石さんは脚本の執筆に取り掛かりました。作品のタイトルは「沈黙を聴く」。

 70歳で絵を描き始めるまで、家族にも抑留体験を語っていなかった川田さんら抑留者の「沈黙」にスポットを当てます。

(四国学院大学/仙石桂子さん)
「語らなかった人自身の心の中は開けて見られないし、話も聞けないから周りで起きたこととか昔のことがたぶん出てくるみたいなことを今描こうとしてる」

 全ての座談会に参加した四国学院大学の池内怜士さんは、川田一一さんをモデルにした役を演じることになりました。

(川田さんをモデルにした役を演じる/池内怜士さん・セリフの練習)
「シベリア抑留者を乗せた引き揚げ船が舞鶴港に近づくにつれて祖国の山々が見えだし、私の胸は高まってきた」
「極寒、雪ばかりのシベリアから……」

(脚本・演出/仙石桂子さん)
「もっとゆっくりでいいと思うよ。リズムっていうか、何を聞かせたいのか。結局、二度とこのような抑留や戦争を起こしてはならないっていうことを言いたいわけじゃないですか。そこはかなり強めに言ったほうがいい」

(川田さんをモデルにした役を演じる/池内怜士さん)
「(Q.プレッシャーはある?)あります。僕なりにですけど、(川田)一一さんの遺したかったものみたいなものを理解して演劇でお客さんにつないでいけたらなということは思っていろいろ今試行錯誤してます」

(脚本・演出/仙石桂子さん)
「こんな普通にお芝居とか作れていること自体が奇跡的なことだと思うから、その時(戦中・終戦後)のことを考えてみたら。代弁者としてどう演じていくかというところを、俳優もそうだけど、私も模索しているかなと思います」

 これまで祖父のシベリア抑留の「記憶」を絵で伝えてきた画家の千田豊実さん。今回の演劇では舞台美術を担当します。

(画家/千田豊実さん)
「はじめの去年の座談会のときから比べると関わってくれる方のまなざしとか雰囲気とかっていうのがすごい変化があって、真剣に取り組んでいただけることがすごくありがたいなと思います。難しいテーマではありますけれど、一緒に取り組むことで若い人たちが考えるきっかけになるといいなと思う。それがまた見てくれる人にも何か伝わればいいなと思います」

 演劇『沈黙を聴く~記憶のしらべ~』は、善通寺市の四国学院大学ノトススタジオで12月5日(金)~7日(日)に3回の公演が行われます。チケットの予約はWEBやメール、電話で受け付けています。

 詳しくはノトススタジオのホームページ、または四国学院大学パフォーミング・アーツ研究所(E-mail : sipa@sg-u.ac.jp Tel : 0877-62-2324 平日午前10時~午後5時)まで。

(2025年11月27日放送「News Park KSB」より)

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