千葉県の動植物園で、絶滅の危機に直面しているオランウータンを繁殖させる挑戦が先月から始まっている。現場を取材すると、見えてきたのは国内繁殖の難しさだった。
■「近絶滅種」指定のスマトラオランウータン
千葉県の市川市動植物園。ここに先月、愛知の豊橋総合動植物公園から19歳のメス、ウランがやってきた。その理由は…。
市川市動植物園課 オランウータン担当 水品廣子さん 「今、繁殖しないと日本の動物園の中では、もう(スマトラオランウータンが)いなくなってしまう恐れがある」
2011年には国内に14頭いたスマトラオランウータンだが、繁殖が難しく、現在わずか7頭にまで減少。スマトラオランウータンは、国際自然保護連合によって絶滅の恐れのある「近絶滅種」に指定されている。
この動植物園ではこれまで、スマトラオランウータン3頭の繁殖に成功している。
そして今回、メスのウランのお相手となるのは、オスのイーバン、37歳。強くて優しい、この園の人気者だ。
経験豊富なイーバンとの可能性にかけ、3年間の予定でウランを借り受けた。
水品さん 「すごくプレッシャーが多いなと思っています」
■繁殖難しいオランウータン
プレッシャーの背景にあるのが、この動植物園とオランウータンの歴史。初めてオランウータンがきたのは1992年。インドネシアから“友好の証”としてオスのイーバンとメスのスーミーが贈られた。
だが、オランウータンは環境の変化に敏感なうえ、相性が合わず、けんかが絶えなかった。そのうち、イーバンがスーミーを恐れるようになり、繁殖どころではなくなってしまった。
当時、飼育担当だったのが、水品さんの夫の繁和さんだ。
市川市動植物園課 水品管理長 「どうしていいか、どう世話をしていいかが全く分からなくて、途方にくれた記憶があります」
その後8年が過ぎ、繁殖のことを忘れかけていた時、ある出来事が起こった。
水品管理長 「スーミーを強く叱ったっていうんですかね。そうしたら、急にスーミーがショボンとしてしまって。それでイーバンが大丈夫ってのぞき込むような感じで気遣いをしたんです」
来園から11年経った2003年、ついに待望の赤ちゃんが生まれた。
状況をすぐには変えられないが、この活動を知ってもらい動物の命への理解を深めてほしいという。
水品管理長 「生息地の環境が、どんどん暮らしにくい状況になっている。動物園の一つの使命としては、人も動物も一緒に生きていける社会にするための啓蒙(けいもう)活動が非常に重要なところなので。動物園のオランウータンを守る=野生のオランウータンたちを守ることにつながっていくと思います」
■「種の保存」の壁
絶滅危惧種の「種の保存」への取り組みは、厳しさを増しているという。
スマトラオランウータンは、ワシントン条約に規定され、商取引は禁止されていて、学術目的に限って取り引きが許されている。
ただ、ストレスをかけずに動物を移動させる難しさや政府同士の話し合いが必要となるので、簡単に海外から連れてこられない現実があるという。
そこで、国内繁殖が頼みの綱となるわけだが、そこにも2つの課題があるという。
最初は年齢という課題だ。国内7頭のオランウータンのうち、オスは4頭。そのうち浜松市動物園と、愛媛県立とべ動物園にいる34歳と28歳のオスは、これまで繁殖の経験がないという。
市川市動植物園課の水品管理長によると、「国内での繁殖の経験則から、22歳を過ぎても経験がないオスは、その後も繁殖活動する可能性が低い」ということだ。
そうなると、残るオスはイーバンと息子のウータンの2頭となる。ここに2つ目の課題「血統」がある。
オス2頭に対して、メスはイーバンの娘である2頭と、豊橋総合動植物園のウランの3頭となる。オスのウータンはウランと繁殖を試みたが、進展がみられなかった。残された組み合わせは、ウランとイーバンとなっている。
こうしたギリギリの状況での繁殖に、日本各地の動物園が協力している状況だが、水品さんは「みなさんが生で動物を見ることによって、その動物の置かれた状況を肌で感じてもらい、動物園の使命として種の保存を継続してやっていきたい」と話していた。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年4月24日放送分より)