まもなく迎える行楽の秋、各地でクマによる被害が増える恐れもあり、警戒が強まっています。(9月27日OA「サタデーステーション」)
■行楽地に走る緊張 初の登山道閉鎖も
見渡す限りに広がる北アルプスの山々。そして青空。サタデーステーションが27日に向かったのは、富山県の立山です。
立山自然保護センター 近堂純所長 「ここが一番チングルマがきれいかもしれません。今ちょうど紅葉しています」
標高2450メートルにある立山・室堂平では、紅葉が見ごろを迎えていました。
栃木からの観光客 「最高です。山とのコントラストが本当にきれいで何回も振り返った」 愛知と三重からの観光客 「ずっと絶景という感じで、疲れるはずなんですけど疲れないみたいな」
一方で…
報告・仁科健吾アナウンサー 「バス降りたすぐのところに『クマ注意』という張り紙がされてますね」
秋の行楽地にも、クマの出没によって緊張が走っています。23日に立山の雷鳥沢キャンプ場で撮影された映像には、1人で歩く登山客と岩場を歩くクマが。このまま歩き続けると、鉢合わせするような状況でしたが、登山客もクマもお互いに気づき、クマは引き返していったと言います。
実は、室堂平付近でのクマの目撃情報は、ここ数年、年に1件程度しかありませんでした。しかし、今年に入ってからは目撃証言が相次ぎ、およそ2か月間で20件以上に。クマ対策として初めて登山道の一部が閉鎖される事態になっていました。
東京からの観光客 「(クマ出没の)情報を個人で調べるのには限界があるので、規制していただけると安心感はある」
立山自然保護センター 近堂純所長 「生ごみなどを捨てない。(クマの)写真撮影も控える。とにかくクマと距離をとることがまず第一だと思っています」
■クマ被害10月に急増?子グマ多いのに…ブナの実大凶作
26日から27日にかけての2日間でクマに襲われたのは、全国で少なくとも9人。10月にかけては、さらに増える懸念もあります。被害が過去最多だったおととしは9月と10月に被害が急増しており、今年も8月まで、この時と同じペースで人身被害が増えているためです。
その一因として指摘されているのが、「ブナの実」です。去年は豊作傾向だったのが、今年は一転、大凶作の地域が多くなっています。
福島大学 望月翔太准教授 「去年はブナがたくさん実をつけたので、今年子どもがたくさん産まれている。一昔前は母グマと子グマ1頭で計2頭でセットで動いていたが、今は双子がたくさん産まれているので、母グマ1頭に対して2匹の子グマ、計3頭で動いているケースが多い」
今年は子グマが多いのに山にエサが少ない状況になり、人里での被害につながっているといいます。
■全国初の“緊急銃猟”課題は?市職員語る緊迫の1時間
クマ対策も大きな転換点を迎えていました。
警察(山形・鶴岡市 20日) 「現在、付近にクマがおります。買い物の時間をずらす、なるべく車外に出ない、店外に出ない。このような対応を願います」
山形県鶴岡市では、20日、全国で初めて、「緊急銃猟」を実施する判断が出ました。これまでは、クマが襲って来た場合などに限り、警察の判断で発砲が可能でしたが、今月からは「緊急銃猟」によって、クマが襲ってくる前に、市町村の判断で発砲が可能になりました。
報告・富樫知之ディレクター 「こちらの鶴岡駅からおよそ300メートル離れた住宅の敷地内でクマが出没したということです」
クマを目撃した住民 「この木が揺れて、えっ?て見たらクマがここにいて。ゴールデンレトリバーより一回り大きいぐらい」
全国初の「緊急銃猟」で対応にあたった鶴岡市職員の五十嵐さん。当時を振り返ってもらうと、いくつかの課題がみえてきました。
住宅の庭で寝ているクマが見つかったのは、20日午前11時10分ごろ。まず、「緊急銃猟」に必要な手順は、周辺の通行制限、住民避難、そして、防災無線やSNSを使った通知です。
次に必要なのが、4つの条件のチェック。 1.人の生活圏に侵入している、または侵入のおそれが大きいこと 2.緊急性があること 3.迅速に捕獲できる手段がほかにないこと 4.人に弾丸が到達するおそれがないこと
さらにここから、市長による発砲許可が必要になります。今回は、現場の職員から市庁舎にいる職員へ連絡。その職員が市長からの了承を得て、ようやく現場に“GOサイン”が出ました。
ところが、市職員がハンターに発砲許可を示す腕章を渡そうとしたところで、寝ていたクマが再び動き出し、現場にいた人たちに接近。そのため、「緊急銃猟」ではなく、「警察官職務執行法」に基づいた、警察官の命令で発砲することになりました。クマの発見から捕獲まで、およそ1時間15分。
鶴岡市職員 五十嵐崇さん 「厳格さを確保しながらも、どこまでスピーディーにできるか、その辺りの調整がカギかなと。全く規制されていないところにクマが行ってしまった場合は、全部最初からになってしまう」 「(Q.それは市長の許可を含めて全部?)はい」
課題となった発砲許可までのスピード。環境省は「緊急銃猟」の権限を現場の担当者に委任しておくことが望ましいとしています。
また、特に神経を使ったというのが、発砲した弾が人に当たらないようにするための壁や地面、「バックストップ」です。今回のように、市街地のど真ん中でクマが出た場合は、この「バックストップ」の確保が難しいといいます。
鶴岡市職員 五十嵐崇さん 「ちょうど木の下にクマがいる、見える状態である。ただ、この距離から撃つと角度が水平に近いので、鶴岡市の場合は近寄って、きつい角度で撃つ、ということでないと発砲はできないと考えている」
鶴岡市は、市街地で「緊急銃猟」を実施する場合、2メートルほどの距離までクマに近づき、威力の弱い散弾銃を下に向けて使う方針をとっているといいます。
鶴岡市職員 五十嵐崇さん 「弱い弾でもクマを確実に捕獲できる、腕を持ったハンターでないと現場に連れて来られない。安全確保の大きな課題、人作りの部分が課題となっている」