岡山市の「路線バス」について考えます。岡山市内を循環するバス「めぐりん」が4月1日からJR岡山駅前広場に乗り入れることになりました。この乗り入れを巡っては、バス事業者同士で議論が紛糾するなどし、約10年実現しませんでした。それが、なぜここにきて乗り入れが可能になったのでしょうか。
過去の申請では法定協議会の場で議論が紛糾
岡山市中心部を循環するバス「めぐりん」。現在は2つの路線合わせて1日に31便運行しています。
(松木梨菜リポート)
「こちらの9番乗り場に、めぐりん2路線が乗り入れることになります」
現在、JR岡山駅前広場にはバス事業者7社が乗り入れています。4月1日からはここに「めぐりん」が加わります。
「めぐりん」は岡山市中心部を循環するバスとして2012年7月に運行が始まりました。
運行する八晃運輸は、当初から岡山駅への乗り入れを求め、駅前広場を管理するJR西日本に署名を提出するなどしていました。しかし、JR西日本は「まずは既存のバス会社で調整してほしい」などと回答。乗り入れは実現しませんでした。
その後、八晃運輸は中国運輸局に対して、2019年と2021年の2度にわたって広場への乗り入れを申請しました。
この申請を巡っては、バス会社が集まる岡山市の法定協議会の場で議論が紛糾しました。
(両備グループ/小嶋光信 代表)
「めぐりんさんはこの(2021年)1月の初めに、この協議会に何の話もなく申請を出された」
(八晃運輸/成石敏昭 社長)
「岡山駅の乗り入れに対して当社は、全く取り下げる気持ちはありません」
(両備グループ/小嶋光信 代表)
「岡山市の方が議論しろということを指導するのが筋ではありませんか」
([当時]岡山市都市整備局/平澤重之 都市・交通・公園担当局長)
「岡山市が手続き上で何かすることはできないので、事業者が国に申請をして、国が審査して判断する」
結局、八晃運輸が行った2019年と2021年の申請はいずれも「却下」されました。当時、中国運輸局は却下の理由について「管理者の承諾がないため」としていました。また、駅前広場を管理するJR西日本は「回答できる立場にない」としました。
そうした中、2022年11月、八晃運輸は中国運輸局に3度目の申請を提出し、2023年2月、乗り入れが「認可」されました。
では今回は、なぜ認可が下りたのか。
(松木梨菜リポート)
「こちらの駅前広場の運用ルールが変わったことで、認可が下りたんです」
こちらの1枚の文書。これは駅前広場の「新規乗り入れの条件」について管理するJR西日本と岡山市が連名で出した文書です。
(八晃運輸/成石敏昭 社長)
「岡山市とJRの話し合いで決められた。大きな前進だったと思います」
認可の背景にある「新条件」とは
こちらが、2022年11月にJR西日本と岡山市が連名で出した「新規乗り入れの条件」です。
関係者によると、これまではJR西日本がバスターミナルを使う他の事業者に「安全確保」ができるかどうか意見を聞き、了承を得ることが新たに乗り入れるための条件となっていました。
一方、2022年11月に示された「新しい条件」では、「安全確保」について、JR西日本が新規乗り入れ事業者に確認するとなっています。
つまり今回の場合、JRは「他の事業者」ではなく「めぐりん」側に確認して承認。その後、中国運輸局が認可しました。
認可について岡山県バス協会は「安全安心を基本に、利用者利便の向上につなげていただきたい」とコメントしています。
また、今回の認可を巡っては、岡山市の存在感が大きくなったことも影響しているとみられます。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「事業者同士の話し合いでは合意ができないと、そういう意味では岡山市が責任を持って、利用者の利便性の確保をすると、そういう意思表示だと思っています。行政が(間に)入ったから、やっと一つ進んだと」
めぐりんの乗り入れについて岡山市は――。
(岡山市都市整備局/平澤重之 局長)
「バス事業者を選ばず、できるだけ早く目的地に行きたいということで、来たバスに乗りたいという人もいらっしゃいますので。利便性向上に寄与するものだと思っています」
また、岡山市のバス路線を巡っては事業者側でも動きがありました。
(岡山県バス協会/小嶋光信 会長)
「協議会の再開をお願いさせていただきたい」
2023年1月、岡山県バス協会に加盟する7つの事業者が、バス路線などを考える法定協議会の「再開」を岡山市に申し入れました。
この法定協議会は、バス路線の再編について話し合うため、2018年に立ち上がりました。
しかし、事業者同士の意見はまとまらず……。新型コロナの影響もあって、2021年2月を最後に「中断」しています。
「再開」の申し入れの背景について橋本教授は――。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「この2年間で、外出しない生活、働き方も変わってきたし、利用が1割2割減っていると。(このままでは)いずれ破綻するのは目に見えてると。そういうことで、一歩進めたいなということだろう」
法定協議会について岡山市は、新年度に開く意向を示しています。
(岡山市都市整備局/平澤重之 局長)
「将来に向けて、あるべき姿はどうなのかということを、広く議論していきたいと思っています」
協議が再開されることで岡山市がめざす「路線再編」は進むのでしょうか。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「協同するところは協同して運行することも必要になるだろうし、事業者も、自分の主張だけでは通らないということを認識しておかないといけないですね。この2年間が冷却期間になったと(事業者が)考えればいいんですけど、本当にそうなっているかどうかは、これからの行方を見るしかないですね」