岡山県津山市で自閉症の次女を育てる家族の話題です。自閉症の次女が最近ハマっている意外な趣味と、初めての「推し活」の様子を取材しました。
由希絵さん「結衣菜、なんて応援する?」
結衣菜さん「カモーン!」
由希絵さん「カモーン! って言うの? カモーン! って言ったら来るんじゃない?」
結衣菜さん「カモーン! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ!」
由希絵さん「(爆笑)」
津山市に住む蓬郷由希絵さんと次女の結衣菜さん。この日は楽しみにしていた「推し活」の日です。
(蓬郷結衣菜さん)
「えっと、プロレスはおでかけに行きますわって思ったんだよね。(Q.プロレス見に行くんだ。結衣菜ちゃんはプロレス好きなんですか?)もちろんプロレスが好き」
由希絵さん「怖くないの?」
結衣菜さん「怖いよ」
由希絵さん「怖いけど見たいの?」
結衣菜さん「見たいよ」
由希絵さん「おらぁ、いくぞー! みたいなこと言ってるんだよ」
結衣菜さん「おらぁ、いくぞー!」
由希絵さん「っていうのを見たいの?」
結衣菜さん「見たいよ」
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「楽しみでしかないということで……きのうの夕方ぐらいから『プロレス』っていう言葉が何回も出てました」
結衣菜さんは重度知的障がいを伴う自閉症。アニメと料理が好きな中学2年生ですが、最近、プロレスの動画に興味を持ち始めたそうです。
娘がハマった意外な趣味に両親は……
哲資さん「いい子で寝てね。結衣菜、プロレスのチケット取れたよ」
結衣菜さん「うん、やった!」
哲資さん「見に行こうね」
結衣菜さん「見にいこっか」
結衣菜さんを初めてのプロレス観戦に連れて行くことにしました。
由希絵さん「結衣菜にとってはプロレスは初めての場所じゃが。入場とかすごい爆音じゃけん、そこにおれんかも分からん」
哲資さん「でもあれよ、『結衣菜、プロレス好きなん?』って聞いたら『うん、もちろん』って言うからこれは見に行きたいんかなと思って」
由希絵さん「プロレスのお面とか欲しいって言い出すかもしれん」
哲資さん「タイガーマスクとかそういう感じのじゃろ?」
由希絵さん「あれめちゃくちゃ高い……」
哲資さん「知っとる知っとる」
由希絵さん「それを被って家で過ごすかもしれん」
哲資さん「おもしろいな!」
由希絵さん「美保ちゃん(記者)いらっしゃいって」
哲資さん「マスク被っとるんやで想像してみて、やべえじゃろ」
なんだかんだで、楽しそうな父と母。
由希絵さん「でもそうやって、ひるまずに行くのがええとこかもな、うちら家族の」
哲資さん「おもしろがっとるんかもしれん。結衣菜を育てるのを。そうじゃないとやっていけんもん」
由希絵さん「やっとおもしろがれるところまで来たんかもしれん、結衣菜をな」
由希絵さんは結衣菜さんや家族との日常をSNSで毎日発信していて、約20万人のフォロワーがいます。子育ての悩みや経験を本音で語る姿が大きな反響を呼び、全国から講演会の依頼が寄せられています。
2歳で自閉症と診断され、当時は言葉を話せなかった結衣菜さん。日常生活や家族での外出もままならない状態でした。
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「毎回出かけては、『もう次行かない』って言って終わる。ルールがまず分からん時が一番しんどかった。他人の物、自分の物が分からない時、並ばないといけない時。地面に寝転がって大泣きすることもあったし、それはもう冷たい冷たい目線をたくさん浴びてきた。出かけるのがめちゃくちゃ苦痛だったけど、だけどこの子が出かけなかったら何の経験もできないし、失敗も成功もさせられない」
家族で「失敗」と「成功」を繰り返して十数年。結衣菜さんはおでかけが大好きな女の子に成長しました。今は由希絵さんと予定を確認して、「見通し」が立つことで安心して外出できます。
結衣菜さん「きょうは、プロレスで強くなって勝ってやる~! く~ら~え~」
由希絵さん「勝ってやるって言った?」
由希絵さんたちが観戦したのは、6月に岡山市で開かれた女子プロレス「スターダム」の試合です。
約500人の観客と大きな音。自閉症の結衣菜さんにはとても苦手な空間ですが、パンフレットを見て目を輝かせました!
(蓬郷結衣菜さん)
「ゆりあ、ゆりあ!」
そして、応援の練習にノリノリで参加! 大きなゴングの音も、目を閉じて気持ちを落ち着かせます。
そしてついに、本物のプロレスラーと対面。あこがれの眼差しで見つめています!
(蓬郷結衣菜さん)
「がんばれ~、2人とも~!」
ここで劣勢に立たされたのは鉄アキラ選手。
(蓬郷結衣菜さん)
「アキラ、頑張って! 頑張って!」
(鉄アキラ 選手)
「なめんなオラァ!」
応援が届いたのか、アキラ選手が反撃! そして、最後の力を振りしぼり……
(アナウンス)
「10分21秒、勝者、鉄アキラ!」
見事、アキラ選手が勝利をおさめました!
由希絵さん「楽しい?」
結衣菜さん「うん」
6試合合わせて約2時間半の長丁場。
(蓬郷結衣菜さん)
「頑張れ~!」
迫力満点の大技に、ドキドキが止まりません。推しの選手が技を決めるとテンションはマックスに。あこがれの2人を真似して「勝利のポーズ」!
続いて現れたのはいかにも怖そうな悪役レスラー!
対するはきらびやかな衣装をまとった選手です。まるでアイドルのようですが、ひとたびリングに立つと、闘志をむき出しにして悪役に立ち向かいます!
ところが、連続で技を決められまさに絶体絶命。推しの選手が負けてしまい、呆然とする結衣菜さん。
それでも、諦めずに何度でも立ち上がる選手たち。熱き戦いに家族で声援を送ります。リングに立つプロレスラーのように、蓬郷家もタッグを組んで困難を乗り越えてきました。
そしていよいよ、最後の試合。10人の選手がリングに上がりました。
覆面レスラーが技を決めると、悪役レスラーもすかさず反撃! 勝負の行方をじっと見守ります。
するとここで、推しの選手たちが悪役レスラーをとらえ、力を合わせて華麗な大技を連発します。
これには結衣菜さんも大喜び! そして、いよいよ待ちに待った瞬間が……
(蓬郷結衣菜さん)
「やったー!」
悪役レスラーを倒し、見事勝利! そして結衣菜さんも最後まで試合を楽しむことができました。
さらに、退場する選手たちが結衣菜さんたちに歩み寄り、一緒に写真を撮ってくれました。
結衣菜さん「ゆいキーック! おりゃあ」
由希絵さん「悪者を倒したかったみたいで悪者が負けてよかったね」
結衣菜さん「うん」
由希絵さん「すごい顔で悪者を見ていたから」
由希絵さん「私もプロレス初めてだったけど、私も興奮しちゃって。最初は怖かったけど、結衣菜の興奮が私の方にも伝わって、『いけ~!』みたいな! 楽しかったな」
結衣菜さん「楽しかったよ。(Q.テッチににやってみる?)テッチにやってみる」
哲資さん「テッチにしないでね、仲良くしようね」
プロレスの余韻が冷めやらぬ蓬郷家。結衣菜さんの枕元にはプロレスのパンフレットが。
そして、母もしっかりハマっていました。
由希絵さん「(結衣菜さんが)寝る前に『母さん楽しかったね』って」
哲資さん「苦手の勢ぞろいの場所に行っとるんじゃけん、大したもんやで。結果オーライじゃ、あんだけ楽しみよったんじゃけん」
由希絵さん「それぐらいがええんかもな。困り果てずに、『どうにかなるだろう』ぐらいが、新しいことに挑戦できるかもしれん」
家族で臨んだ初めての「推し活」。結衣菜さんにとっても、由希絵さんたちにとっても忘れられない1日になりました。