岡山市の美術館で2回目となる「学芸員ラップバトル」が開かれ、会場は熱気に包まれました。美術館や博物館の魅力を伝える学芸員らの思いと熱い戦いを取材しました。
(学芸員ラップバトル)
「Hey! きょう俺はここに阿弥陀のすごさ 阿弥陀の美術の素晴らしさを掲げに来た」
3日と2日、岡山県立美術館で開かれた「学芸員ラップバトル」。県内7つの美術館・博物館の学芸員らが火花を散らしました。
もちろん、ほとんどの人がラップ初挑戦。それでも……。
(阿弥陀推し 岡山県立美術館 学芸員/鈴木恒志さん)
「予選は阿弥陀(推し)なんですけど、決勝は秘密です。チャンピオンしかないです」
(イギリス美術推し 総社吉備路文化館 学芸員/豊嶋乃女さん)
「あまり知られていないイギリスの美術のマイナーさを知ってもらいたい」
(エジプト考古学推し オリエント美術館 学芸員/伊藤結華さん)
「そもそもオリエントって何かを知らない人もいると思うので広く伝えたい」
(日本画家・池田遙邨推し 倉敷市立美術館 学芸員/佐々木千恵さん)
「池田遙邨の人柄とかどんな絵を描いてきたかとかできる限り伝えたい」
愛してやまない「推し」の魅力を伝えたい……。
1988年に開館した「総社市まちかど郷土館」。明治時代の洋風建築「旧総社警察署」の建物を活用しています。
メインの展示は地元の伝統産業だった「備中売薬」、置き薬の製造・販売に関する資料です。
Q.ここに来れば備中売薬の歴史が全部分かる?
(総社市まちかど郷土館/浅野智英 館長)
「そうですね、もっと極端なことを言いますと、日本の国全体の売薬の流れを見ていただけると思います」
さまざまな種類の生薬や薬を作るための道具、レトロなパッケージまで貴重なものがそろっているものの……。
(総社市まちかど郷土館/浅野智英 館長)
「とても知名度が低くて、来られる方と話をしても『え? 岡山が?』ということをよく言われますね」
子どもたちの学びの場としても親しまれている「総社市まちかど郷土館」を広くPRしたいと、浅野館長はラップバトルへの出場を決めました。
Q.準備はしていますか?
(総社市まちかど郷土館/浅野智英 館長)
「いろんな方がアドバイスしてくれて、とにかく『韻を踏め』ということなので、岡山弁で攻めて「じゃ じゃ じゃ」ぐらいしか攻めようがないかなと……。『ここは総社じゃ』ぐらいでね」
一方、16日にリニューアルオープンする「笠岡市立竹喬美術館」。地元出身の日本画家・小野竹喬(ちっきょう)は、89歳で亡くなるまでみずみずしい感性で日本画の表現を探究し続けました。
竹喬が晩年に描いた「樹間の茜」。
(竹喬美術館 学芸員/小松美月さん)
「白いはずの雲が青色の表情をして赤い空に浮かんでいるビビッドな取り合わせが素敵だなと。70代、80代になってこんな鮮やかな色を使いこなして作品を生み出すエネルギーがすごいですね」
竹喬の魅力を熱く語るのは、ラップバトルに出場する学芸員の小松さん。
(竹喬美術館 学芸員/小松美月さん)
「PRができるなら私ができる仕事としてさせていただきたい。(来館者には)ぜひ自分の目で『こういう色合いなんだ』『こういう描き方をしているんだ』ということを知っていただければ」
「ラップバトルということでラップっぽい歌詞を書いたのですが、フリースタイルだったのでお蔵入りしました……」
(お蔵入りになったラップ)
「彼が描くのはきらめく光 絵の具の粒はザラメみたい 海の青と葉っぱの緑 まばゆいほどの鮮やかさ 松の枝葉はくっきりとがり ひきつけられるこの筆さばき!」
記者「めっちゃよくできてますね」
「そうなんですよ頑張って作ったのにフリースタイルか……」
2日の予選トーナメント。浅野さんは、薬売りの衣装に身を包み、倉敷市立美術館の佐々木さんと対戦です。
(日本画家・池田遙邨推し 倉敷市立美術館 学芸員/佐々木千恵さん)
「旅と自然を愛した日本画家 優しい笑顔に気さくな人柄 みんなで呼んでみようCall him 遙邨さん Yeah!」
(備中売薬推し 総社市まちかど郷土館/浅野智英 館長)
「遙邨さんは有名でいいですね 備中売薬は本当に皆さん知られていなくてショックです この機会に覚えて帰ってくださいね」
ベテラン同士のバトルは……まさかの引き分け!
(じゃんけんで勝負)
「最初はグー、じゃんけんぽん! 赤コーナー、佐々木さんの勝利!」
浅野さん、無念の敗退……。
(総社市まちかど郷土館/浅野智英 館長)
「ドローまで持ち込めたというそれだけで十分です。こういう時にじゃんけんが弱いのはだめですね」
続いて、応援団が見守る中……竹喬美術館の小松さんが登場。衣装は「スケッチに行く竹喬さん」をイメージしました。
(イギリス美術推し 総社吉備路文化館/豊嶋乃女さん)
「実はフランスの印象派よりターナー(イギリス人画家)の方が早いんです! イギリスが先なんです、フランスじゃないんです!」
対戦相手の勢いに押され出遅れてしまった小松さん……しかし……。
(日本画家・小野竹喬推し 竹喬美術館 学芸員/小松美月さん)
「竹喬さんたちの画壇は今まで通りの日本画を壊したいと思っていました 新しい世界を見たい新しい価値観が見たい! そういう思いでみんな筆をとりました!」
(判定)
「勝者は青コーナー、豊嶋さん!」
惜しくも敗退しましたが、文字通り「フリースタイル」を貫き、魂の叫びを届けました。
(竹喬美術館 学芸員/小松美月さん)
「いろんな方が応援に来てくれていたのでうれしかったです。竹喬さんが新しい日本画を描きたかったというのは伝えられてよかった」
決勝トーナメントでは、2023年の王者、林原美術館が敗れる波乱もあり……。
総社吉備路文化館の豊嶋さんが倉敷市立美術館とのバトルを制し、2代目チャンピオンに!
ちなみに……大の鉄道好きでもある総社市まちかど郷土館の浅野さん。
決勝のために用意していた「鉄道ラップ」をエキシビションマッチで披露し、会場を沸かせました。
(来場者は―)
「今から博物館に行きたい。美術館にもすごく楽しそう」
「ここまでバラエティに富んだ美術館があると知らなくて興味がわきました」
「想像以上におもしろかった。まさかこんな推しへの愛でこんなに熱く語ってもらえると思わなかった」
(イベントを主催した 岡山県立美術館/福冨幸 学芸課長)
「作品を見に来てくださるというのもあるんですけど、学芸員を推してくれるお客さん、学芸員ファンも今回開拓できたのではないか」
学芸員ならではの情熱と愛情がこもったラップバトルに、会場から温かい拍手が贈られました。