さまざまな事情で学び直しを必要とする人たちを支える「岡山自主夜間中学校」が、瀬戸内市の国立ハンセン病療養所で宿泊研修を行いました。
3月16日、瀬戸内市の「長島愛生園」を訪れたのは、「岡山自主夜間中学校」の生徒やスタッフら約40人です。
(長島愛生園歴史館/田村朋久 学芸員)
「だいたい全国で700人ぐらいの人が療養所で生活していますが、皆さんハンセン病は治っている。今入所している人がどういう人かというと、ハンセン病の後遺症がある障害者です」
ハンセン病問題について理解を深めようと、1泊2日の宿泊研修を行いました。
「らい菌」によって皮膚や末梢神経が侵されるハンセン病は感染力が非常に弱く、戦後には治療法も確立されました。
しかし、約90年に及んだ国の強制隔離政策によって、「恐ろしい病気」だという誤った認識が広まり、患者やその家族はいわれのない差別・偏見に苦しんだのです。
長島愛生園歴史館では、当時の過酷な歴史について学ぶことができます。一方で、逆境に負けず、たくましく生き抜いてきた入所者の姿を知ることもできます。
(岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表)
「後遺症で目が見えないという説明があった。点字は手で見るけど手の先の神経も(病気で)なくなっているから舌で字を読む。いろんなものを読んで、作品をつくるという気持ち、どんなに苦しくても」
(岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん)
「差別を受けながらもすごく頑張ってきたんだという『生きる力』というのがすごいと思って」
生徒の井上健司さん(39)は、子どもの頃から糖尿病を患い、不登校のまま小中学校を卒業しました。
(岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん)
「昔、僕も言われたことあります。『病気がうつるから近寄らないで』って。そう言われるとやっぱり傷付くから……」
病気に対する差別や偏見を自分の経験と重ね合わせていました。
井上さんが6年前から通っている岡山自主夜間中学校。義務教育を終えていない高齢者や不登校だった若者など、さまざまな事情で学び直しを必要とする人たちにボランティアが無償で勉強を教えています。
代表の城之内さんは、今回のような「課外活動」が夜間中学校にとって重要であると話します。
(岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表)
「そもそも、夜間中学校の生徒はそういう経験をしていない。読み書き計算も大切だけど、いろんな経験をここでしてほしい」
現在、長島愛生園では約80人が暮らしていて平均年齢は88歳を超えています。
井上さんたちは10代の頃に入所した男性と面会しました。
(岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表)
「小学校2年生の漢字が書けず、今やっと小学校6年、中1ぐらいまでできるようになった」
(10代で入所した男性)
「えらいなぁ、あんた。来てくれてありがとう」
(岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん)
「(お互いに)その人のことをよく知るのが一番大事だと思った。差別はできればなくしていきたい」
園内の納骨堂には、差別や偏見によって家族のもとに帰れなかった多くの入所者が眠っています。
2日目には、両親と姉がハンセン病の元患者だった黄光男(ファン・グァンナム)さんが体験を語りました。
(家族がハンセン病元患者だった/黄 光男さん)
「親がハンセン病だったということを誰にも言えない、ハンセン病患者と家族は苦しみ続けた。ハンセン病の学ぶべき点はここですよね。おかしなことがあったら、すぐみんなで声を上げてそのおかしな制度を変えましょう」
家族がハンセン病の元患者だったことを、50代になるまで秘めていた黄さん。
黄さんらは、国の誤った強制隔離政策で元患者の家族も被害を受けたとして裁判を起こし、2019年に勝訴しました。しかし、今も「名乗り出ることができない家族」が多くいるのが現実です。
(家族がハンセン病元患者だった/黄 光男さん)
「学校に行けなかったという原告の人はたくさんいる。文字は平仮名を書くのがやっとだという人がたくさんいた。それは学校に行けなかったから。皆さんも行けなかった、いろんな理由があって、今やっと岡山の夜間中学校に通っている。学ぶことは大事だけど、それだけで差別意識はなくならない。触れ合う、語り合う」
2日間の研修を終えて、生徒やスタッフが感想を伝え合いました。
(岡山自主夜間中学校の生徒)
「差別やいじめはなくなってほしい。私もいじめにあったから、そういうつらさは分かる」
(岡山自主夜間中学校のスタッフ)
「知らないことがいろんな差別を生む。当事者のつらい思いをみんなが知っていかないといけない」
(岡山自主夜間中学校 生徒/井上健司さん)
「僕も病気があるので共感するところがあって、もっと頑張らないといけないと勇気を逆にもらった」
(家族がハンセン病元患者だった/黄 光男さん)
「夜間中学校の生徒さんたちは自分の問題と引き付けて考えられるというのをひしひしと感じて、話してよかったと思う」
(岡山自主夜間中学校/城之内庸仁 代表)
「自分自身を改めて見つめ直して、もう1回前に進みたいという決意のような気持ちも伝わりました。自分の生活に生きていくそういう学びであったと思っています」