ニュース

【意見陳述全文】選択的夫婦別姓巡る法案審議 香川の「事実婚」当事者が法務委員会に

ADVERTISEMENT

ADVERTISEMENT


 「選択的夫婦別姓制度」を巡る国会の法案審議が国会で進んでいます。制度の導入を望んで「事実婚」を選んだ香川県の男性が6月17日、参考人として法務委員会に出席しました。意見陳述の全文を掲載します。

割田伊織さん(30)の意見陳述

 皆さん、こんにちは。割田伊織と申します。きょうはこのような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。本日は、ここにいる妻・武井七海と共に、選択的夫婦別姓の実現を望む当事者として、香川県の瀬戸大橋のたもとから参りました。普段は会社員として働いており、このような場所に来るのは初めてですので、大変緊張しております。どうぞよろしくお願いいたします。 

自分の名字を変えてもいいと思っていたが…

 私たちは先月、結婚式を挙げたばかりの事実婚の夫婦です。妻とは大学生の時に出会いました。なぜ私たちが事実婚を選んだかについてお話しします。

 私たちは2023年から一緒に暮らしています。自然とこの人と一緒に生きていくんだろうなと感じるようになりました。しばらくすると、結婚の話題も増えてきました。名字の話にもなりました。妻からは武井七海という氏名を変えたくないと言われました。

 私は当初、自分が名字を変えてもいいと思っていました。なぜなら身近に結婚して名字を変えた男性もいたからです。小学生の頃には、社会の授業で先生から「将来結婚して名字を変えてもいいと思う人?」と聞かれ、手を挙げたこともおぼろげながら記憶しています。このように、私は以前から将来結婚して自分の名字が変わるかもしれない。そう思って生きてきました。

 ですから、名字の話になったとき、「僕が変えてもいいよ」と答えられるはずでした。でも、そうは答えられませんでした。妻と同じように、自分も名字を変えたくないかもしれないと気づいたからです。

 私は名字で呼ばれることも多くあり、「割田」という珍しい名字を気に入っていました。名字は自分を自分たらしめる大事な一部分でした。自分の名字を変えたくない気持ちに気づいた私は、しばらく結婚の話を避けるようになってしまいました。

じゃんけんで決める? 気付いた自分の思い

 そんな中、妻から「どっちの名字にするかじゃんけんで決める?」と言われました。はっとしました。じゃんけんで決めるということは、じゃんけんで負けたら変えなければならないということです。私はその時、やはり自分は絶対に名字を変えたくない。そう確信しました。

 かつては変えてもいいと思っていたはずの自分が、いざ現実に変えるかもしれないという状況に立たされたとき、はっきりと名字を変えたくない。そう思ってしまったのです。

 もしかしたら、心のどこかで妻が名字を変えてくれるかもしれないと思っていたのかもしれません。しかし、自分が嫌だと思うことを妻にさせるのは違うと思いました。そして私たちは結婚を一旦保留にしました。

 そんな中、妻から20243月に香川県内全ての自治体の議会で「選択的夫婦別姓」についての意見書が可決されたというニュースを聞きました。

 それまで選択的夫婦別姓という言葉は聞いたことはあったものの、そういうものを求めている人もいるんだなと他人事のように受け止めていました。それが突然、自分自身の問題になったのです。まさか自分がきょうここでこのような話をするとは夢にも思っていませんでした。

 私と妻は「選択的夫婦別姓が実現したら婚姻届を提出しよう。それまでの間は事実婚という形を取ろう」、そう話し合いました。

事実婚と法律婚の違い

 そして、婚姻届それ自体は出せないけれども、その代わりになるような何か結婚の証のようなものが欲しいと思い、インターネットで知った公正証書というものを作成することにしました。

 当初、公正証書を作成すれば、事実婚でも法律婚と同じように扱われると思っていました。しかし、作っていく過程で、それが2人だけの約束にすぎないことを知りました。弁護士に相談した際にもそう言われました。

 実際、公正証書を作った後も会社の慶弔休暇は取得できませんでしたし、社宅にも入れませんでした。自治体の新婚世帯向けの補助も受けられませんでした。結婚資金の贈与を受ける際の非課税制度も利用できませんでした。

 また、お互いの入院や手術など、万が一の時に事実婚では病院から夫婦として扱われないことがあるなど、さまざまな場面で法律婚と異なる扱いを受けるという話を聞き、ますます不安になっています。

事実婚という状態が将来を考えるハードルに

 公正証書を作った約半年後の今年4月、一般社団法人「あすには」の事実婚当事者の意識調査が発表されました。調査によれば、20代から50代で事実婚をしている人のうち、選択的夫婦別姓が実現したら婚姻届を提出するという、いわゆる「結婚待機人数」が全国で58.7万人いると推計されるとのことでした。

 私たちの考えが特殊なわけではなく、全国に同じような思いを抱いているカップルが大勢いるとして、とても勇気づけられました。

 また、調査には過去に事実婚をしていて、現在法律婚に移行した人への事実婚時代の困りごとについての質問もありました。事実婚では、「子どもを持つことに躊躇がある」という回答の割合が最も高く、20代、30代を見るとその傾向は顕著でした。

 妻も同じように感じていたそうです。将来子どもを育てたいという気持ちはあったものの、このまま事実婚の状態で子どもを育てていいのか、何かあった時に子どもを守ってあげられるのだろうか?などと考えてしまい、無意識のうちに子どもの話を避けていたことに気づいたそうです。

 事実婚という状態が、家族の将来を考えることへのハードルになっていたのだと思います。

周りから呼んでもらえればいいというわけではない

 事実婚であることを周りに伝えると、「割田という名字をビジネスネームにすればいいんじゃない?」と言われたこともあります。

 しかし、私にとっては、割田伊織という一つの氏名が私自身を表す唯一のものであり、この割田伊織という氏名を変えたくないと思っています。

 たとえ旧姓に法的な根拠が与えられ、さまざまな場面で使えるようになったとしても、私は戸籍名を変えることはしたくありません。使えればいい、周りから呼んでもらえればいいというわけではないのです。なぜなら戸籍名こそが私の本当の名前だと思うからです。

 妻も私と同じように武井七海という氏名を大切にしています。

 だからこそ、選択的夫婦別姓が実現しなければ、私たちは結婚することができないのです。どうか1日も早く選択的夫婦別姓を実現してください。よろしくお願いいたします。ご清聴ありがとうございました。

関連ニュース

全国ニュース(ANN NEWS)

新着ニュース