岩手県・大船渡市で発生した大規模な山火事は発生から5日目。この時間も大船渡市には強風注意報と乾燥注意報が発表されています。立ち上る炎が避難所から見えるところにまで、火の手が迫っています。 ■強風に立ち上る炎・消火阻む“自然”
「山の斜面、ものすごい炎の勢いです」 風にあおられ激しく揺れる炎…未だ鎮火のメドはたっていません。東京消防庁は2日、消火活動の映像を公開。現場の最前線の様子が明らかになりました。 山の前方に上がる2つの炎…次第に炎が小さくなっていきます。すると次の瞬間… 大きな炎が立ち上がり黒い煙を上げながら燃え上がります。 「風向きがあまりにひどい…」 「(風)こっちに来てますね」 ■住宅地に迫る炎・土台のみ残し全焼
岩手県・大船渡市で発生した大規模な山火事は発生から5日目。被害はさらなる広がりを見せています。 (須田義一記者)「綾里地区東側の地域にも延焼が広がっています。住宅のすぐ近くまで火の手が迫って来ています。」 住宅地の裏山から立ち上がる煙。その近くには点々と炎が確認できます。住宅地への延焼を防ぐため、消防隊が最前線で消火活動を行う様子が伺えます。 46戸もの建物が焼失したとみられる三陸町綾里のこの地区では、土台だけ残し焼け崩れた家が点在しています。海から山を見てみると… (草薙和輝アナウンサー)「私の後方、山のいたる所から煙が上がっています。少し赤い炎も見えますね。赤くなっているのが分かります。」 煙に包まれた半島。熱を感知するサーモカメラで見ると、煙の出ていない場所でも、ところどころ、熱を帯びたポイントがあるのが確認できます。 (大船渡市の会見)「延焼拡大中でありますので、今後の鎮圧についてはメドはたっておりません」 平成以降、国内最大規模の山火事は焼失面積が約1800ヘクタールと被害が拡大しています。大船渡市は人口の1割以上となる、1896世帯、4596人に避難指示を出しています。少なくとも、住宅など建物84軒が被害を受けたと見られています。 2日午前7時時点の避難者数は1222人。今も多くの住民が、着の身着のままでの避難生活を送っています。綾里地区に自宅がある村上さんです。火災が自宅周辺に広がったと聞き、確認に向かいましたが…。 (自宅が被害を受けた 村上圭三さん)「あと1~2分で着くところで、もうダメだってなって。煙の状況がものすごくひどくて、移動している車両の中にも煙のにおいも充満してきちゃって、自分の身も危険を感じて…」 避難を余儀なくされるなか、知り合いの消防団員から1枚の写真が送られてきました。 (自宅が被害を受けた 村上圭三さん)「ここに自宅が。私の家屋は全焼しました。近所の知り合いの住宅もほぼ全焼に近い、ほぼ全焼ですね。家族の安否、全員無事だということで、それだけでも救いでした。」 ■養殖場に迫る炎・アワビも全滅か
古川さんも避難所に身を寄せる1人。綾里地区で経営している、アワビの養殖場に火が迫りました。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「これに驚いてみんな逃げたんですよ。」 映像には近くの山が赤々と燃える様子が。心配なのは炎だけではありません。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「仮に火事から免れたとしてもですね、電気が止まって3日くらい経つんですね。」 これは古川さんの養殖場を紹介した映像です。たくさんの水槽でアワビを育てています。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「モーターを回して海水を揚水しているんですね。それを陸上に設置した水槽に回しているので、それが止まっちゃうと、環境がかなり悪化してくるので、アワビが呼吸できなくなっちゃうんです。200万個以上のアワビを飼っていますので。」 実はこのアワビの養殖場、2011年、東日本大震災の津波で全壊。それでも、がれきの中から、生き残った親アワビを探し出し、同じ場所に施設を再建しました。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「2~3年前にやっと、震災から戻った感じなんですよ。売り上げもですね。一度、津波とか体験していますので、ある程度準備はしてきたつもりではいたんですが、まさか山火事とはちょっと想像していなくてですね。」 そして2日、養殖場は無事なのか。古川さんと一緒に、船で現地へと向かいました。 大船渡市の資料によると、養殖場周辺の山林の多くが焼失。養殖場に近づくにつれ、山から白い煙があがる様子がみられるように。さらに進むと… 「ちょうど正面にも焼けたような建物が見えますね」 ここが養殖場がある一角です。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「あの建物。あれがうちの社屋になります。屋根が茶色のクリーム色の。無事ですね、建物の方は。あっ、大丈夫っぽいな。」 社屋や水槽がある辺りは、火災を免れていたものの… (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「取水施設ですね。そっちがちょっとやっぱり焼けていますね。あのまま使えるかどうかっていうことですよね。そうか、配管いったか…」 この一帯には避難指示が出されているため、まだ上陸することはできません。 (元正榮・北日本水産 古川季宏社長)「入っているアワビはもう5日経っているので、当然電気止まっているんで、生きてはいないと思います。(被害の)額としては5~6億円くらいになっています。またゼロからですよね。(出荷できるアワビを)また作るには、3年かかっちゃうので。ただ社員も抱えているので、なんとかしなくちゃいけないので頑張ります。」 ■なぜ拡大?“特有な地形”延焼加速か
なぜ山林火災はここまで拡大しているのでしょうか?番組では専門家と共に、先月26日に鎮圧され、避難指示が解除されている大船渡市の山林火災現場を取材しました。 (草薙和輝アナウンサー)「あのあたりですね。建物の少し左のあたり、地面が黒くなっているのがわかります」 あたりに散乱する焼け焦げた樹木… (京都大学防災研究所 峠嘉哉 特定准教授)「木の幹についている燃え(痕)の高さがすごく高いので、地表が焼けた時の熱の強さっていうのは、だいぶ強かったんだろうなと」 こう話すのは、2017年に岩手県釜石市で起きた山林火災を調査した、峠准教授。着目したのは、地面を覆い尽くす“落ち葉”です。 (京都大学防災研究所 峠嘉哉 特定准教授)「これがマツの葉で、これがスギの葉なんですけど、一般的に燃えると熱の放出量が多いと言われる針葉樹がこの辺にはすごく多いのかなと、スギとかマツとか針葉樹は燃えやすいというのもあります」 峠准教授はまず落ち葉が燃え、火の勢いが幹から葉に伝わって、火災を拡大させた可能性があると言います。 (京都大学防災研究所 峠嘉哉 特定准教授)「火がどんどん高くなってきて、木の葉っぱのゾーンまで至ってしまう上に、葉っぱと葉っぱというところが連続していて(火災が)大きくなってしまうような感じですね」 拍車をかけたのは、1カ月で2.2mmという、統計史上最少となる大船渡の2月の降水量。加えて、大船渡で最初の火災が起きた26日に吹いていた、最大瞬間風速18.1mの強い風の影響です。 さらに峠教授は、この地域“特有の地形”も関与していた可能性を示唆します。 (京都大学防災研究所 峠嘉哉 特定准教授)「リアス海岸の地形があるところは斜面勾配が急なので、延焼の方向と斜面の方向が合うと、また延焼速度が速くなる。乾燥、強風、斜面勾配、延焼速度を速くするような要素があった上に、森林のサイズが大きいですから、可燃物が連続しているような形で(火災が)大きくなりうる」 大船渡付近では、3日にかけて、瞬間的に10m前後の強い北西の風が吹く予想で、天気が崩れる5日・水曜日ごろまで、空気の乾燥が続く見通しです。 3月2日『有働Times』より