世界経済を牽引する米国の象徴的都市・ニューヨークで、政治の潮流を変える選挙結果が生まれた。11月4日のニューヨーク市長選で当選したのは、民主党のゾーラン・マムダニ氏(34)。アフリカのウガンダに生まれたインド系イスラム教徒で、自らを「民主社会主義者」と称する。妻のラマ・ドゥワジ氏はシリア系のアニメーター。マムダニ氏は選挙戦で、「最低賃金を時給30ドル(約4500円)に引き上げ」「無料バス、市営スーパーマーケットの導入」「家賃上昇の凍結」など、生活支援を前面に掲げた。財源は富裕層や大企業への課税強化で賄うとし、所得格差の是正を訴えた。
一方、ニューヨーク出身のトランプ大統領はこの動きを強く警戒した。自身のSNSで「共産主義者のマムダニが市長になれば、連邦政府からはニューヨークに対して、法的に必要最小限の資金しか拠出しない」と発信。共和党候補ではなく、民主党予備選で敗れ無所属で出馬したクオモ氏への投票を呼びかけるなど、異例の行動に出た。しかし、結果は、マムダニ氏がクオモ氏を退けた。マムダニ氏は勝利演説で、「今夜、逆境を乗り越えた。我々は王朝を打ち破った」と宣言し、「トランプ、見ているはずだ。『Turn the volume up(よく聞け)』、我々の誰かに手出しするなら、我ら全員を相手にすることになる」と、挑戦的な言葉で選挙戦を振り返った。物価高に苦しむニューヨーク市民の生活実感も、こうした変化を後押しした。食パン1斤半ほど(約500グラム)が日本円で700円超、卵1ダースは1000円を超える。トマト1キロはテキサス州ヒューストンの倍以上。生活費の高騰に加え、マンハッタンの家賃中央値は月70万円に達し、住民の負担は限界に近い。
外交舞台では存在感を誇示するトランプ大統領だが、国内では政治、経済で異例の停滞に直面している。11月4日に行われた2州の知事選挙で、民主党が相次いで勝利を収めた。ニューヨーク市長選では、民主社会主義者を自称するゾーラン・マムダニ氏が勝利。一方、東部のニュージャージー州とバージニア州では、いずれも中道派の民主党候補が共和党から州政を奪還し、トランプ政権に対する明確な「民意の審判」となった。ニュージャージー州知事選では、元海軍パイロットで中道派の民主党、マイキー・シェリル下院議員が勝利。米CNNによる出口調査の分析によると、注目されたのはヒスパニック系有権者の動向だった。昨年の大統領選でトランプ氏が46%の支持を得たのに対し、今回シェリル氏は64%を獲得。共和党候補のチャタレリ氏は32%にとどまり、保守層への浸透に失敗した。
一方、首都ワシントンに隣接する東部バージニア州では、民主党中道派で元CIA職員のアビゲイル・スパンバーガー前下院議員が知事選を制し、州初の女性知事に就任する見通しとなった。バージニア州は連邦政府職員が多く居住する地域。スパンバーガー氏は、政府機関の一部閉鎖による雇用問題を鋭く追及した。トランプ政権による「解雇・再編」が逆風となり、共和党の牙城を崩す要因となった。同じ民主党でも、ニューヨークのマムダニ氏が「急進左派」と位置付けられるのに対し、シェリル氏とスパンバーガー氏はいずれも現実的な政策運営を重視する中道派とされている。トランプ大統領自身も、敗北の要因に「政府機関の閉鎖が共和党に大きなマイナスだった」と言及している。実際、10月1日から始まった政府閉鎖は11月9日で39日目を迎え、史上最長に。上院は11月4日、共和党主導の「つなぎ予算案」を否決し、14回目の不成立に陥った。
影響は広範に及んでいる。全米の空港では、航空管制官の無給勤務による欠勤が相次ぎ、11月7日には約1000便が欠航。米運輸省は「最大20%の削減」を検討している。さらに、低所得者向けの食料補助も中断され、農務省は11月1日から給付停止を発表。トランプ大統領は「民主党が政府再開に賛成票を投じるまで援助を止める」と強硬姿勢を崩していない。経済統計の発表も遅れ、「雇用統計」や「貿易収支」は未発表のまま。例外的に発表された「9月の消費者物価指数」も10日遅れとなった。米国大使館の公式サイトには「政府の予算失効により、業務再開まで更新は限定的」との告知が掲示された。 ★ゲスト: 前嶋和弘(上智大学教授)、津山恵子(NY在住ジャーナリスト) ★アンカー: 杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)