2021年の衆議院選挙、香川1区の選挙戦を追ったドキュメンタリー映画が1月21日、全国公開されました。野党議員の17年間に密着し、ヒット作となった『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編にあたるこの映画。
全国的に注目された選挙区の候補者や支援者、有権者の姿を追うことで見えてきたものとは? 大島新監督に聞きました。
全国的に注目された香川1区を追う
7回目の対決となった自民党前職の平井卓也さんと立憲民主党前職の小川淳也さんに、日本維新の会新人の町川順子さんが加わった衆院選・香川1区。
この選挙戦中、各陣営の動きをカメラで追っていたのが大島新さんの映画撮影チームです。
(映画「香川1区」/大島新 監督 [2021年10月30日])
「政治って何だろうとか選挙って何だろうというのを見た人がちょっとでも考えていただけるようなそういうものになるといいなと思ってます」
大島監督は、小川淳也さんの初出馬からの17年間の政治活動に密着したドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を2020年に公開。
『なぜ君』という略称で口コミが広がり、約3万5000人を動員するヒット作となりました。
その後も5年から10年のスパンで小川さんを追いかけようと考えていた大島さんですが、2020年9月に発足した菅内閣で平井さんが入閣したのを機に、「香川1区」の選挙戦をテーマにした続編の製作を思い立ちました。
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「小川さんは小川さんで映画もあって全国的な知名度が上がり、平井卓也さんは平井卓也さんでデジタル改革担当大臣っていう目玉大臣になって次の選挙は注目が集まるなって」
支援者の熱が伝播…12年ぶりの小選挙区当選
今回の選挙戦、小川さんの陣営には若い世代や県外からもボランティアが加わり、選挙期間中には対話重視の「青空集会」を各地で開催。
投票が締め切られた午後8時に当選が伝えられると事務所は歓喜に包まれました。平井さんに約2万票の差をつけ、小川さんにとっては12年ぶりの小選挙区での勝利となりました。
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「ちょっと『祭り』になっていたと思うんですよね。人の熱が人の熱を伝播していくというんですか、その力が強かったんだろうなっていうふうに思いましたね」
(Q.熱が起こった要因としてご自身の映画というのはどのぐらい影響があったと考えますか?)
「どのぐらいって数値化はできないけれどもあったんだろうなとは思います。きっかけはきっと作ったのだろうというふうに思いますし、それによって平井さんの陣営からPR映画じゃないかっていう批判もありました」
『なぜ君』はPR映画?平井氏陣営が批判
2021年8月、デジタル改革担当大臣だった平井さんは大島さんのインタビューに応じ、『なぜ君』についてこう語っていました。
(映画『香川1区』より)
大島監督「ちなみに映画はご覧になっていただけましたか?」
平井氏「すみません、見てません。ただね、ものすごいキャッチーなタイトルで」
大島監督「平井大臣にとってはご迷惑な面もあったのでは?」
平井氏「政治に関心を持つ層が増えるということはいいことじゃないかなと」
ところが、選挙戦が中盤に差し掛かると……
(映画『香川1区』より)
平井氏の街頭演説
「私は今回の選挙は非常に腹が立っています。フェアではありません。一方的なPR映画ばっかりやられて。あれが選挙運動だとしたら日本中の国会議員は映画をつくるようになりますよ」
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「最初本当にびっくりしましたけど、どうしたんだろうという。やっぱり情勢調査などで追い詰められているのでそういうふうになっていったのかなというふうに思いましたね」
「結果として小川さんのある種のPRにつながったということは認めます。ただ私はそういうふうに意図して作ったわけではないですし全く。『なぜ君』を見て、これは離合集散を繰り返す野党のダメさを描いた映画じゃないかという方もいましたし、小川さんのこともやっぱりあんなに青臭い政治家が総理大臣になれるわけがないじゃないか。そういう声もありましたし」
選挙が人間をむき出しに…維新候補の出馬取り下げ要請
今回の衆院選では公示直前、日本維新の会が新人の町川順子さんの擁立を発表。小川さんが野党候補一本化のため、本人や党幹部に出馬取り下げを要請したことが報じられ、批判を集めました。
大島さんのカメラは政治ジャーナリストの田崎史郎さんに食って掛かる小川さんの姿を映します。
(映画『香川1区』より)
田崎氏「維新がどの党の票を食うか小川さんの票を食うとは限らないから」
小川氏「食おうが食うまいが、野党は揃うべきだというのが私の考えです。相手がそれに乗るかどうかは知らない。しかし、お願いするのが間違ってるというのはどういう意味かわからない!」
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「あんなに感情的に不安定になる小川さんを見たことはなかったですし。選挙が人を追い詰めて人間をむき出しにするっていうことなんですよね。さっきの平井さんのこともそうですし」
地域に根付く自民党の“強さ”
そして、大島さんが今回の映画で描きたかった大きなテーマの一つが……
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「自民党の強さ。やっぱり日本の地域社会に根付いている強さっていうんですかね。やっぱりそこは本当にあるなというのは思いましたね。県議さん市議さん町議さんとか地元の顔役とかそういった方々には自民党系の方が圧倒的に多いですよね」
映画では、大島さんたちが期日前投票所近くのビルに出入りする人たちを取材したシーンもありました。
(映画「香川1区」/大島新 監督 [舞台挨拶])
「祈るように投じる1票も会社に言われて期日前投票をしに行くというようなそういうからくりの中での1票というのも全く同じ1票で、この民主主義ってのは一体何なんだろうというふうに思う場面もあって。小川さんであり平井さんや町川さんも重要な登場人物なんですけれども、私の中ではやはり有権者というのがすごく大きな存在だなというふうになってきまして」
(観客は―)
「(投票には)毎回行っているんですけども、そんなに演説を聞く機会がなかったんですよね。立候補している方の熱い思いとかというのを知ることができたから、両方知ることができたので私は中立の立場で見ていきたいなって思いました」
「だんだん切羽詰まってくるとその人の人間性が出るシーンが結構大島さんが映していくのがすごく分かった。政治にも興味を持ったり投票につながると思うんで本当にすごくいいと思いますね」
映画を議論のきっかけに
(映画「香川1区」/大島新 監督)
「私が、変な言い方なんですけど東京から来てこの地域のことをああいう視点で切り取ったわけじゃないですか、それを地元の方がどういうふうにご覧になるかっていうことを逆にお聞きしたいっていうのがありますね。当然反発も考えられますし。でもそれによっていろいろな議論、意見とか議論が出てくると映画を見て何か誰かと話したくなるみたいなことっていうのはそういう映画というのは作った側としてはうれしいことですからぜひそんなふうに見てもらえたらいいなっていうふうに思います」
映画「香川1区」は香川県では、イオンシネマ高松東、綾川、宇多津と高松ソレイユ、岡山県ではシネマ・クレールで上映中です。