日本での就労を通して開発途上国の人材を育成するという国際貢献を目的とする「外国人技能実習制度」。
「技能実習制度」を巡っては、単に労働力不足解消の手段となり、賃金の不払いやパワハラが横行しているなどとして、国内外から批判されています。
この制度が今、変わろうとしています。
国内外から批判…「技能実習制度」
岐阜県の縫製会社で、技能実習生として働くベトナム人のレー・ティー・ミータンさん(39)。以前は、岡山県倉敷市児島地区の縫製会社で働いていました。
(レー・ティー・ミータンさん)
「前の会社は残業が多かったですが、法律で決められた通りの残業代を支払ってくれませんでした」
レーさんは2022年秋まで2年半以上、児島地区の縫製会社で働きました。しかし、残業代の一部は最低賃金を大きく下回る額で計算されていたということです。
(レー・ティー・ミータンさん)
「会社には『支払ってほしい』と何度も訴えました。でも、『会社の決まりなので支払えない、嫌なら残業しなくていい』と言われました」
レーさんが残業代の未払いを2年半にわたって我慢し続けた最大の理由は、「技能実習制度」が職場を移る「転籍」を就労開始から3年間は原則として認めていないからです。
またこの制度では、人材を斡旋する「監理団体」は中立な立場で受け入れ、企業を指導する責任があるとしています。しかし一部の監理団体は、受け入れ企業の利益を優先し、技能実習生の保護をないがしろにしていると指摘されています。
(レー・ティー・ミータンさん)
「監理団体にも残業代のことを何度も訴えましたが、『相談してみます』という答えしか返ってきませんでした」
政府は「技能実習制度」のこうした問題点を改善するため、2022年12月に有識者会議を設置しました。
その有識者会議がまとめた「最終報告書」では、「1年以上働いた上で一定の日本語能力などがあれば、本人の意向による転籍が可能」としています。
一方、転籍可能になる時期については「受け入れ対象分野によっては、当分の間、経過措置として1年を超える期間を設定できる」という文言も盛り込まれました。
これによって、実際には1年を超えても「転籍」できないケースが生まれるのではないかと懸念されています。
(外国人労働者の問題を研究 神戸大学大学院 国際協力研究科/斉藤善久 准教授)
「技能実習制度がずっと批判されてきた大きな理由の一つは、転籍・転職ができない、そのことによる強制的な働き方、働かせ方ということがあったが、技能実習制度を利用して労働者を集めていた人手不足の産業とかから言わせると、まさにその転職・転籍が難しい、できないからこそ労働者を確実に確保できる。それがうまみだったわけでそこは変えたくないんですよね」
また、最終報告書では、監理団体の問題に関して抜本的な提言はなされませんでした。
倉敷市児島地区の会社で働いていたレーさんは、ベトナム人を支援する団体のサポートを受けて、2022年秋に岐阜県の会社に「転籍」することができました。また児島地区の会社は不備を認め、「未払い分の残業代」として約100万円が支払われたということです。
レーさんを受け入れた会社の代表は、受け入れ企業や監理団体を指導する「外国人技能実習機構」の体制を強化する必要があると考えています。
(レーさんが転籍した縫製会社 フォーエヴァー/井川貴裕 社長)
「技能実習生を受け入れている事業主数がたくさんある。監理団体もたくさんある。今いる人員で必ずできるかもわからないような仕事量が入っている中で、技能実習機構は運営されている。明らかにマンパワーが不足している。指導体制が脆弱になったりを正しい方向に向かうためには、しっかり予算をつけていただいて、大きな組織に改めるべき」
「我慢するしか…」多額の借金を背負って来日する技能実習生
岡山市の建設会社の従業員らが、技能実習生だったベトナム人男性を暴行しけがをさせたなどとして、2022年には書類送検された事件。
被害にあったベトナム人男性は、広島県福山市の労働組合に保護されたあと、現在は、広島市の建設会社で働いています。
(被害に遭ったベトナム人男性[43])
「日本に来るためにベトナムでたくさんお金を借りました。それに自分は年をとっているし、日本語能力も高くないので職場から失踪したら、借金が返せなくなると思い、我慢するしかありませんでした」
多くの技能実習生は、来日するために多額の借金を背負っています。ベトナム人男性を保護した労働組合はその点を改善すべきだと指摘します。
(福山ユニオンたんぽぽ/武藤 貢 執行委員長)
「実習生は(会社を選ぶ)選択肢も与えられずに来てるわけじゃないですか。そこで借金を抱えて債務労働って言われている訳だけど、このことに対して、最終報告書でもきちっとメスは入れてないわけで、そこが大きな問題でもあると思います」
日本が「選ばれるよう」になるには?
技能実習制度は、労働力不足を補い、産業の維持や発展に貢献してきた側面があります。一方で、円安や人権侵害の問題などの影響で、来日を希望する外国人は減少していると言われています。
2023年に示された有識者会議の最終報告書には、制度の見直しの方向性の一つに「我が国が選ばれるよう」という文言が盛り込まれました。
(外国人労働者の問題を研究 神戸大学大学院 国際協力研究科/斉藤善久 准教授)
「転職をしようと思えばできる、というのが大きな安心材料になるでしょうね。さらにもっと日本が魅力的な国になるためには、長くいようと思えば長くいられる。家族を呼ぼうと思ったら呼べる。ここで子どもを産もうと思ったら産める。そういうふうな状態にするのが選ばれる国になるためにはいいと思います」