高松市にある知的障害者の入所施設から契約を解除された9人の利用者とその家族が、裁判所に利用の継続などを求めた仮処分の申し立てが3月、却下されました。
突然、居場所を失ってから7カ月……。利用者らは新たに民事裁判を起こすことを決め、問題は長期化しています。
(契約を解除された利用者の母親/木内眞由美さん[68])
「18年間慣れ親しんだ場所、施設で今まで通り暮らすというこの幸せを拒否してもいいのかどうか、これからそれを、司法の場で確かめたい」
4月12日、記者会見でこう訴えたのは、高松市三谷町にある知的障害者の入所施設「ウインドヒル」に契約を解除された利用者の保護者です。
(契約解除された利用者の父親/岩部雅人さん[70])
「みんなで作った施設の中から断腸の思いか何かわかりませんけど、こういう(契約を)解除するということはあってはならないと思う」
この施設は、自閉症の人たちが親が亡くなった後も安心して暮らせるよう保護者らが寄付金を出し合い2004年に開設しました。2023年9月までは自閉症と診断された重度の知的障害者を中心に47人が利用していましたが、2023年の6月から7月にかけて職員全体の約3割に当たる11人が退職。
施設は「安全を確保できない」として定員を36人に変更し、2023年9月、利用者9人を指名して契約を解除しました。
契約を解除された利用者と保護者は利用の継続と補償を求めて「仮処分」を申し立てました。仮処分は緊急性が高い事案について裁判所が暫定的な措置を決める民事上の手続きです。
高松地裁は「職員が減少した現状では利用者を47人としたままで運営するのは困難」だとして3月27日、申し立てを却下しました。
(契約解除された利用者の父親/三木隆文さん[73])
「却下ということで残念のひと言。人(職員)がいなくなったから定員を下げます。そこで浮かびあがった人は出ていってください。これは絶対におかしい」
(利用者側の代理人/菊池昌晴 弁護士)
「裁判所は事の重大性を軽視している。とても受け入れられるものではない」
一方で、裁判所は「契約を解除された利用者と保護者の状況を容認するものではない」とし、「一日も早く、責務を有する福祉行政において迅速な対応が図られることを切に願う」としました。
運営法人を指導監督する高松市の大西市長は香川県知的障害者福祉協会に対し、4月4日、施設への職員派遣を依頼したことを明らかにしました。
利用者が自宅に戻ってから半年以上が経っての動きです。
(高松市/大西秀人 市長)
「これを受けるかどうかは法人(施設側)の判断になるけれど、それによってどうにか職員が確保できれば(利用者が)戻ることも可能なのではないか」
記者質問「契約解除は2023年9月だったんですけど、このタイミングでのこの結論(職員派遣依頼)になった理由を教えてください」
大西市長「仮処分の申請が出ておりまして、その結果が出ておりませんでしたのでそれを見ていた」
(契約解除された利用者の父親/三木隆文さん[73])
「遅いと。なぜ6カ月前にそういうふうに言っていただけないのか。高松市としての主体性を求めたかった」
さいたま市の障害者福祉の施策に20年以上関わってきた専門家は、高松市の判断に疑問を呈します。
(元埼玉大学准教授/宗澤忠雄さん)
「職員派遣の依頼をウインドヒルが受け止めるかどうかも分からない。仮に受け止めたとしても定員を元に戻して契約を解除された人たちが元に戻れるかも分からない。つまり、問題がどのように動くのか、克服に向けて動くのかということは全て丸投げしたまま。職員派遣の要請は、裁判所が『福祉行政が積極的に関与しろ』と言っているからやりましたと、これはほとんどアリバイ工作に過ぎないのでないか」
その上で専門家は、「契約を解除された利用者の権利を真ん中に据え、保護者、利用者、高松市行政、地域の障害者生活相談支援センター、このような人たちが一堂に会して事態の改善について速やかに話し合うべきだ」と指摘します。
契約を解除された利用者のうち1人が亡くなり、8人となりました。現在8人は日中は通所施設を利用し、自宅では、保護者が介助を続けています。
利用者と保護者は、仮処分の申し立て却下を不服として高松高裁に即時抗告するとともに、5月中を目途に民事訴訟を起こすことを決めました。
(契約解除された利用者の母親/藤田美代子さん[69])
「どうして親たちが、年いってきた親たちが後見人になってまで弁護士を立てて、申し立てをしなければならないんですか。高松市は親に代わってなぜ法人と戦ってくれないのですか。今回なぜここまでやるかと言えば、このような法人の一方的なやり方を許してしまっては、今後の障害者の安定した生活は望めないと思う」