医療機関も物価高の影響を受けています。マスクやガーゼなど医療資材の価格が上がる中で医療機関は収益が増えず、全国の約6割の病院が「赤字」になっています。このままでは経営が立ち行かなくなる医療機関も出てきそうです。
(香川県立中央病院/高口浩一 院長)
「新病院移転以降ですね。建物だけじゃなくて医療機器にもかなりのお金をかけていますので、それの減価償却が出てくるとどうしても経営的には厳しくなると」
香川県立中央病院は施設の老朽化などにより、2014年に高松市番町から朝日町に移転してから10年以上が経ちました。県立中央病院によると移転の費用は総額約250億円でした。
(香川県立中央病院/高口浩一 院長)
「当院が香川県の中で救急の最後のとりでになっていますので。必要な機器は更新していかないといけないと思っていますので。今後経営が厳しいと先送りになってしまう可能性があるんじゃないかなと」
物価高や賃上げが影響
全国的に医療機関の経営は今、厳しくなっています。
日本病院会など全国の病院で作る6つの団体が、全国1700ほどの病院の2024年6月から11月までの経営状況を調べたところ、経常利益が赤字となった病院は全体の61.2%となりました。
県立中央病院でも2024年度の純損失は(見込みで)14億8000万円と、2期連続の赤字決算となりました。
(香川県立中央病院/高口浩一 院長)
「人件費とか物価高騰によって費用が増えていることで経営的にはかなり厳しい状況がつづいているのが今の状況です」
厚生労働省によりますと、全国の病院の2023年度の100床あたりの損益を2018年度と比較すると、事業利益は約6200万円のマイナスとなりました。
経費として支出の伸び率が高くなったのは、清掃や医療事務などの委託費が25.9%、次いでガーゼやマスクなどの医療材料費で23.9%、このほか人件費も10.7%と高くなっています。
物価高による経費の増加に加え、賃上げも経営状況に影響を及ぼしています。香川県立中央病院でも2024年度の看護師の給与を前の年度より3.8%アップするなどしています。
(香川県立中央病院/高口浩一 院長)
「どこの病院でも医療はがんばってやってるんだけど、国立大学病院のお話もありましたけれども、前提の6~7割が赤字で全体的に280億ぐらいの赤字に大学病院がなっているということですので、それは国立大学病院だけではなくて、赤字が続いていて厳しい状況になっているのが現状かなと思いますね」
香川県の担当課は、新型コロナも影響していると分析しています。
(香川県 医療企画グループ/桂直希さん)
「新型コロナウイルス感染症の感染拡大により減少していた医療需要が、拡大前ほど戻っていないことも影響している可能性が指摘されているところでございます。厳しい経営状況が続きますと、地域の医療提供体制の維持にも影響を及ぼす可能性が懸念されております」
医療機関の倒産が過去最多に
経営が厳しく倒産する医療機関も増えています。帝国データバンクによると、2025年上半期に全国で倒産した医療機関は35件で、過去最多だった2024年上半期を上回りました。
病院は今、建物の「老朽化」も課題となっています。
病院の建物の法定の耐用年数は39年なんですが、帝国データバンクによりますと、病院を経営する全国5132事業者の医療法人設立時期を調べたところ、法定耐用年数の39年より前に設立されているのは5割を超えていたということです。
法人の設立と病院の建設はほぼ同じ時期だと推測すれば、半数以上で建て替えが必要となってきます。
専門家「診療報酬の引き上げを」
今後、地域医療を「維持」するためには何が必要なのでしょうか。香川県医師会の久米川会長は今後、人口が減少する中、先を見据えた対応が必要だと考えています。
(香川県医師会/久米川啓 会長)
「全国的にも倒産している病院増えていますので、これから香川県でもどうやって生き残るかという時代に入ってきていると思います。先を考えていかないと逆に医療が余っていくという時代も見えてくるんじゃないかと思います」
こうした中、収入面の見直しを訴える声も上がっています。
(川崎医療福祉大学 医療福祉経営学科/櫃石秀信 学科長)
「ほかの業界と同じように、人件費を上げる分だけは(診療報酬を)上げていかないと医療業界にこれから人材が来なくなってしまう恐れもあるんじゃないかと思います」
医療機関に支払われる「診療報酬」。2年に1度、国が改定していて、前回、2024年の改定では自己負担割合が3割の人は再診料を12円多く支払うことになりました。
自己負担分以外の医療費の残りは国が税金で補填するなどしているため、専門家は診療報酬が長年ほぼ据え置きとなっているのは医療をあまり受けない人にとって不公平だとし、診療報酬の「引き上げ」を訴えます。
(川崎医療福祉大学 医療福祉経営学科/櫃石秀信 学科長)
「病院を受診していない人には取られるばかりで負担感が高くなっていると思いますので、医療を受ける人に応分の負担をしていただく仕組みに変えていかないと不公平感はぬぐえないんじゃないかと感じています」
病院を守るために再編・統合を視野に
赤字経営に老朽化、医療機関を取り巻く環境が厳しくなる中、医療を維持するには何が必要なのでしょうか。
(香川県医師会/久米川啓 会長)
「各病院同士が医療機能を連携したり、最終的には統合とかを考えていかないと思っています」
専門家は危機感を募らせています。
(川崎医療福祉大学 医療福祉経営学科/櫃石秀信 学科長)
「単独の病院を良くするのではなく地域の住民、患者さんのことを考えた医療の再編統合をやっていかないと、このままでは病院がつぶれていくだけで、地域にある病院を守るためにも再編・統合を視野に入れる必要があるのではないか」
再編・統合には地域住民の合意や病院の法人を超えての連携などさまざまなクリアしなくてはならない壁があると思いますが、一般市民も一緒になって考えていく必要があるのではないかと感じます。