2025年4月に日本を訪れた外国人は390万人を超え、1カ月としては過去最多となりました。今後も外国人観光客が増えると予想されていますが、観光業界では今、「人手不足」の課題が浮き彫りになっています。香川県有数の観光地、琴平町の金刀比羅宮でも対策が進んでいます。
年間約400万人が参拝に訪れる香川県琴平町の「金刀比羅宮」です。外国人観光客が増えていて、全体の約3割を占めています。
(金刀比羅宮/岸本庄平 権禰宜)
「高松空港に着く直行便とか増えていると聞きますので、海外の方もうちの神社によく参拝にきていただけるのではないかと思っております」
(松木梨菜リポート)
「境内には外国人観光客に対応しようと英語表記のものもあります。お守りの説明が英語で書かれています」
これまでお守りやお札などの初穂料は「現金」のみでしたが、2025年4月から専用レジを導入し、クレジット決済も可能になりました。
(参拝客 香川から)
「知らなかったです。便利ですね」
「(神社で)クレジットカードで支払ったの初めてかもしれないです」
(参拝客 大阪から)
「海外の方も多いしいいでしょうね、カードの方が」
「伝統を守る業務」に重点を
専用レジを導入した背景には深刻な「人手不足」があります。
(金刀比羅宮/岸本庄平 権禰宜)
「特殊な業種でもございますので。求人に応募される方はヒットしづらいところはありますね」
専用レジの導入で、これまでの3分の2ほどの労力で対応できるようになったそうです。
神職や巫女の職員が初穂料を集計したり、お守りの在庫を管理したりしていますが、本来の業務とのギャップを感じるケースも少なくないそうです。
事務などの業務を効率化することで、今後は「伝統を守る業務」に重点を置きたいとしています。
(金刀比羅宮/岸本庄平 権禰宜)
「実際巫女さんをしたい、舞を舞いたいという希望をもってこられた方が、業務の中で思っていたところと違うというような部分が軽減されれば、空いた時間をそちらの伝統の部分、神社としてつなげていかないといけない部分に使えると思っております」
サービス業の人手不足が深刻化
観光だけでなく宿泊する外国人も増えています。
四国運輸局観光部がまとめた宿泊旅行統計調査によりますと、2025年3月の外国人の延べ宿泊者数は四国全体で19万2210人で、前の年の同じ月と比べて57.5%増えました。
四国4県で外国人の宿泊者数が最も多かったのは香川県です。全体の約半数にあたる9万7680人が宿泊し、前年より約7割増えています。
ただ受け入れ側のホテルなど「宿泊業」も人手不足が深刻化しています。
香川労働局によると、ホテルのフロント業務などが含まれるサービス業の6月の有効求人倍率は3.21倍で、人手不足となっています。
アバターが利用客をお出迎え
こうした中、スタッフの数を最小限に絞って人手不足に対応するホテルが高松市にあります。
(高松パークホテル/芥祥吾 支配人)
「特に今年は瀬戸内国際芸術祭や、香川県だとあなぶきアリーナがオープンしていますので。コロナ以降どんどん右肩上がりで増えているイメージで」
高松市中心部、ことでん瓦町駅から歩いて5分ほどのところにある「高松パークホテル」。フロントで出迎えるスタッフの姿はなく、代わりにモニターの中の「アバター」が利用客を出迎えます。
(宿泊客 横浜から)
「アバターにお出迎えいただいてびっくりしました。情報だけで(チェックイン)できるのでスムーズにできました」
(宿泊客 奈良から)
「違う言語も使えるとあったので、外国人の人も使いやすいんじゃないかなと思いました」
高松パークホテルでは2023年、アバターが対応する自動チェックインを導入しました。事前に支払いを済ませた場合、発行されたQRコードをかざすだけでチェックインが完了します。最短10秒で終わるそうです。
手続きが分からないお客さんにも「アバター」が丁寧に対応してくれます。
(アバター)
「タブレットの手元もしっかり見えていますので、どこでお客様が困っているかというのもこちらで把握できております」
アバターで会話をしているスタッフはホテルの外からリモートで対応。こんな困りごとにも……
(アバター)
「たまにこのあたりのおいしいごはん屋さんを聞かれたりとか。そのときは簡単にお答えするようにしています」
(高松パークホテル/芥祥吾 支配人)
「省人化=サービスの低下っていうのが一般的なイメージだと思うんですけど、サービスをいかに低下せずにお客さんに満足していただけるか。努力はしております」
省人化しつつ便利になったサービスも。
(松木梨菜リポート)
「荷物を一時的にあずけるクロークも省人化しています。お客さん自身が鍵をかけて置いておく仕組みです」
お客さん自身が対応しないといけませんが、「24時間」荷物を預けられるようになっています。
素泊まりで1人1泊6500円から。1日に稼働するスタッフの数は通常の半分に抑えていますが、客室稼働率は目標の約1.5倍と好調です。
(高松パークホテル/芥祥吾 支配人)
「不満なく満足できる滞在が省人化に対しての目標になりますが、ただその一方で人っていうサービスは大事だと思っているので、そのバランスがうまいこといけばいいなと思います」
専門家「地方活性化の鍵は『観光』が握る」
今後、ますます外国人観光客が増えると予想される中、地域経済に詳しい専門家は地方活性化の鍵は「観光」が握っていると指摘します。
(日本政策投資銀行 四国支店/藤岡亜希子 調査役)
「縮小していく地域経済を支える要素って限られているので、外国人観光客、域外からの需要をいかに取り込んで域内で消費をしてもらうかって観点は、地域にとって不可欠だと思っています」
人口減少や高齢化が進む中、デジタル技術を活用して生産性の向上を図る「DX」と、「人」による業務をうまくすみ分け、業務改革を進めてほしいと言います。
(日本政策投資銀行 四国支店/藤岡亜希子 調査役)
「人よりもロボットが得意で効率的にこなせる業務はやってもらう、任せる。その空いた時間を人にしかできない部分にシフトしていく。DXを導入していくことによって人の生産性があがる、仕事のやりがいが出てくる。両輪で好循環が生まれるんじゃないかとおもいます」
経済活性化のためにも観光客にリピーターになってもらうことは大切です。そのためにも、人が人にしかできない「おもてなし」に注力できるよう、DX導入にかかる費用の補助制度や導入に向けた仕組みの拡充を国には進めてほしいと感じます。