新型コロナウイルスの影響で、立ち会い出産ができないなど環境が激変しています。そんな中、新米のパパ・ママを支える1枚の写真があります。新生児を撮影し、アートに仕上げる「ニューボーンフォト」。高松市を拠点に活動する写真家を取材しました。
#1.奇跡の写真「ニューボーンフォト」
お父さんとお母さんの手に包まれてまるでお腹の中にいるような赤ちゃん。 生後1週間から3週間までの「新生児」と呼ばれる時期に撮影された写真です。ニューボーンフォトと呼ばれています。
撮影したのはポーランド出身の写真家Gregさん。2017年に妻Tomokoさんの実家がある高松市に移住してニューボーンフォトを撮り続けています。
(DOREMI PHOTOGRAPHY/写真家Gregさん) Q.なぜニューボーンフォトに取り組み始めたのですか? 「元々サウンドエンジニアだったのですが、耳鳴りを患いフォトグラファーへ転身しました。第2子誕生の際にニューボーンフォトと出会い、感動! 私達のように1人目の時に撮れなかったと後悔してほしくないという思いと、この感動を香川の皆さんにも知ってもらいたいと思ったのがきっかけです」
Q.ニューボーンフォトの魅力とは? 「子どもが誕生した時のかけがえのない瞬間を残すことができるニューボーンフォトは、トツキトオカを乗り越えたママへの最高のプレゼントになると思っています。また、毎日の育児に奮闘しているママ達の心の安らぎになってほしい。写真を飾ることが子どもの自己肯定感を高めてくれたり、家族のコミュニケーションを深めることができると思っています」
#2.ニューボーンフォトの撮影って?
どうやって撮影しているんでしょう。 10月、生まれたばかりの森本銀ちゃんをGregさんが訪ねました。
カメラを持つ前に、Gregさんは…。ミルクをあげてごあいさつ。スタジオではなく、赤ちゃんの自宅へ出張し、1日1組限定で、時間をかけてゆったりと撮影します。 その間は産後のお母さんに少しでも休んでもらいたいと、授乳以外のお世話ならミルクもおむつ替えもGregさんと妻のTomokoさんが行っているんです。
そしていよいよ撮影に。クマのぬいぐるみを小さなお手手でぎゅっと握り、銀ちゃんもクマの帽子をかぶってパシャリ。
(銀ちゃんのお母さん/森本慈香さん(28)) Q.ニューボーンフォトを撮ろうと思ったのは? 「撮影する予定はなかったけれど、産んだ瞬間、我が子がかわいすぎて」
森本さんは兵庫県尼崎市で暮らしていますが、夫を残し一人で里帰り出産に臨みました。
新型コロナウイルスの感染防止対策として、立ち会い出産はもちろんできず、入院していた5日間は家族ですら廊下越しでも銀ちゃんに会えなかったと言います。
#3.コロナ禍で一変した出産を取り巻く環境
撮影助手を務めるTomokoさんは、撮影で接する産後すぐのママの話に、これまで以上に耳を傾けることに気を付けています。
出産後の女性の体はホルモンバランスの急激な変化と、不眠不休の育児によって、心身ともに不調を引き起こしやすくなります。
さらに新型コロナの影響で、人に会えない、赤ちゃんと孤立するなど精神的にこたえているママが多いとひしひしと感じているからです。
#4.コロナだから向き合えた夫婦も
10月に撮影した宮坂錬ちゃん。東京から里帰りしたお母さん、加奈さん(35)は初めての出産でした。コロナで母親学級などがなくなり、情報に手が届かず不安を抱えてのお産だったと言います。
でも、コロナでよかったこともありました。リモートワークをしている夫が東京から一緒に里帰りしてくれたことです。
(宮坂加奈さん) 「夫婦一緒にいられる時間がすごく増えました。お腹がだんだん大きくなっていく過程も一緒に過ごすことができたし、体調が悪い日もお互いに共有できて、不安がむしろなくなり、お互いこれだったらやっていけるなと思うことができました」
#5.1枚の写真が長く続く子育てを支える
Gregさんは年間100人を超える赤ちゃんを撮影し続けています。
写真はそのままデータで渡すのではなく、丁寧な編集を施してアートに仕上げ、プリントして届けることにこだわっています。
現在1歳10カ月になる幸和(さわ)ちゃんのお母さんは、ニューボーンフォトを見ることで原点に帰れると話します。
(幸和ちゃんのお母さん) 「育児でうまくいかないことも多く、大変大変と思っているときに(写真を眺めることで)ふと原点に帰って、また全力で愛して守りたいと思う自分がいます」
(2018年に撮影した瑠生ちゃんの母/藤田朋巳さん(33)) 「生活感あふれる写真じゃないので、しんどかった部分とかを抜きにして生まれてきてくれたときの幸せな気持ちだけが蘇ります」
ニューボーンフォト。生まれてきてくれた命の輝きをずっと残してくれる奇跡の一枚です。
(DOREMI PHOTOGRAPHY/写真家 Gregさん) 「コロナもあって、当たり前のことが当たり前じゃなくなった今、生まれてきてくれた命を新生児の等身大サイズで残すことをより大切に、宝物に思います。コロナで遠くに住むパパやおじいちゃん、おばあちゃんのために等身大を残したいという方がいらっしゃいました。産まれてすぐの赤ちゃんを、遠く離れていても近くに感じてもらう事ができる写真はかけがえのない宝物になると思います」
#6.おわりに
免疫力が低い新生児の撮影を、GregさんとTomokoさんは細心の注意を払って行っています。 コロナの感染を防ぐためにも撮影はできる限り少人数が望ましいため、今回の取材には記者は同行せず、Tomokoさんにご協力をいただきました。
取材協力:DOREMI PHOTOGRAPHY Tomokoさん 構成:田嶌万友香