岡山刑務所を取り囲む灰色の塀。実は、その内側は41年前から多くの絵で明るく彩られています。絵の制作者や受刑者、多くの人の思いを受け、劣化した絵を保存する取り組みが始まろうとしています。
明るいイラストから水墨画風の作品まで運動場に面する塀、約190メートルにわたって大きな絵が並んでいます。
塀に絵筆が入ったのは1979年でした。
(当時の岡山刑務所長/佐々木満さん)
「これはもう期待以上のものができるんじゃないかと思ってますよ。希望とか安らぎを与えさせるということと、もう一つは市民が決して犯罪者を見放してはならんのだという気持ちを壁画を通じて収容者によく体得させたいと」
岡山刑務所の呼び掛けに集まった地域住民や大学生約120人が、壁に思いを込めて絵を描きました。
塀の一角に描かれたこの絵。描いたのは岡山刑務所の近くに住む安藤喜美子さん(85)です。
(41年前に絵を描く/安藤喜美子さん)
「こういう計画があるいうのを聞いたから、地元も何か参加したほうがええんじゃないかって背中を押された感じ」
題名は「望郷」。誰の故郷にも共通するような自然の景色を黒のペンキのみで描いた「山水画」です。
(41年前に絵を描く/安藤喜美子さん)
「『望郷』っていったりして名前書いたりしたら、受刑者の方もここで古里、両親のこととか古里のことを思われる、思ってくださったらいいな」
岡山刑務所に収容されている受刑者は全員が刑期10年以上。半数以上が無期懲役です。塀の絵はそんな受刑者の心を支え続けました。
(42年前から服役する受刑者)
「刑務所のイメージっていうのが、自分が新入りで入ってきた時にものすごい暗いイメージがあったので、内側にこういう絵を描いていただいて、気持ちが少し塞いだ部分が少し楽になったというか」
(41年前から服役する受刑者)
「私は1番気に入ってたのはこの山水画。山水画ってのは見てると、古里のような感じ、地元に帰ったような感じ、懐かしさを覚えるような。親元を離れてこっちへ来て、ホームシックじゃないですけど古里を懐かしむ気持ちっていうのはやっぱり強くなりましたね」
ただ41年間、雨風を受け続けた塀の絵から元の色鮮やかさや細かい描写は消えつつあります。
(42年前から服役する受刑者)
「自分も元々きれいなの見てるので、もうちょっときれいにまた復元するっていうかしていただければ、っていう希望はあります」
そこで岡山刑務所は、体育館で壁画を保存しようと計画しています。
(岡山刑務所/望月英也 所長)
「あの場所で復元するのは非常に厳しいと思いました。それでここも受刑者の運動の場面として、いろいろ活用してますのでこの壁面を使って、壁画を飾って後世に伝えられたらいいなと思って、いま考えてるところなんです」
保存作業は2021年3月までに行う予定です。受刑者の改善更生のための安らぎの風景。
多くの人の思いを伝え続けます。