世界的な建築家・丹下健三が設計し、「船の体育館」として親しまれてきた旧香川県立体育館。
閉館から間もなく7年。香川県教育委員会はこの建物の活用策について、民間から意見や提案を聞き取る「サウンディング型市場調査」の参加事業者を募集しています。
活用策は体育館以外の用途も可
(記者リポート)
「『あなたの提案で新たな息吹を』。県教委が作成したリーフレットでは、ミュージアムや宿泊施設、オフィスなど、体育館にこだわらない幅広い用途を例にあげています」
(香川県教育委員会/工代祐司 教育長)
「民間の方でこれをなんとか利活用したいという方がいらっしゃいましたら、お知恵とかアイデアをいただきたい」
旧香川県立体育館は世界的な建築家・丹下健三が設計し、前回の東京オリンピックが開催された1964年に開館しました。
老朽化で天井が落下する恐れがあることや、天井が低く、バレーボールなどの大会開催の基準を満たしていないことから2014年9月に閉館しました。
保存か解体か 「危機遺産」にも登録
その後、香川県は建物の保存か解体かの明確な方針を示さず。2017年には、歴史的建築物の保存に取り組むアメリカのワールド・モニュメント財団が「危機遺産」に登録しました。
丹下建築の代表作の1つとして、今でも建築を学ぶ人などが見学に訪れています。
(京都の大学で建築を学ぶ学生は―)
「授業で見た(写真)より飛び出てて、反りもきいてるんで、今じゃなかなか作れない形なのかなと思って、残してほしいなという気持ちはありますね」
「この年代のモダニズムの建築というのは、結構他でも保存ができなくて壊された事例も多いので、守られてほしいなと思います」
サウンディング型調査の“高いハードル”
今回、香川県教委が行う「サウンディング型市場調査」は公有の建物や土地の有効活用の検討にあたり、民間事業者と直接、対話して意見や提案を把握するものです。
しかし、県民から広くアイデアを募る、というものではなく、参加条件は保存・活用事業の「実施主体」となる意向がある法人や団体など。施設の改修費用は原則、事業者の負担となるなど高い「ハードル」が設けられています。
閉館前から体育館の保存、再生を訴えてきた高松市の建築家で「船の体育館再生の会」の代表・河西範幸さんは、「民間の声を聞こうという姿勢はありがたい」とする一方、こう指摘します。
(船の体育館再生の会/河西範幸 代表)
「用途変更に対してどれぐらいお金が掛かるかとかがあいまいな状態なままに、事業主体となるっていうことを前提としたサウンディングを行うということに対してはちょっと早急すぎるのではないか」
耐震改修工事 3度の入札不調の経緯は
(記者リポート)
「当初、耐震改修工事を目指した香川県ですが、3度にわたり工事の入札が不調に終わり、改修を断念しました。その最大のネックとなったのが、特殊な構造の屋根でした」
改修工事の3回目の入札では、8億円余りの予定価格に対し、応札がありませんでした。しかし、河西さんはこの価格がひとり歩きして高い壁になっていると言います。
(船の体育館再生の会/河西範幸 代表)
「(2014年当時は)建物を50年前の状態に完全再現するような工事の手法をとっていたがために、『難工事』だということで入札不調になったという経緯があるので。その辺、今の技術を使えば安く抑えられる可能性は十分にあると思っています」
低コストで耐震改修も 広がる可能性
9月8日、国内の建築家らが「船の体育館」の再生をテーマにオンラインで講演会を開きました。
河西さんたちは、サウンディング調査の話が出る前から建築構造の専門家の協力を得て再生計画を検討していました。その結果、コンクリート製の重い屋根をいったん取り除いても建物自体が崩壊しないことが分かり、低コストでの耐震改修の実現性が見えてきました。
河西さんは、屋根を取っ払ってこれまでのアリーナ部分を「半屋外」とし、オリンピックでも注目を集めたスケートボードやスポーツクライミングの殿堂にするという、斬新な再生案を紹介しました。
(船の体育館再生の会/河西範幸 代表)
「新しいスポーツを県民に伝えるという、新しい役目を与えられるのではないか」
建築家らで作る「船の体育館再生の会」では、他にも複数の活用プランを考えています。しかし、自ら資金調達をして事業主体になるような団体ではないため、関心がある企業などに改修方法や活用できる補助金などについてアドバイスし、調査への参加を呼び掛けています。
参加申し込みは9月末まで 船の体育館の行方は
Q.仮に実現性がある提案がなかった場合、解体の方向に進んでいく?
(香川県教育委員会/工代祐司 教育長)
「その後どうこうというよりは、今ご提案いただけるように、いろいろ発信もして頑張っていきたいなと思っています」
(船の体育館再生の会/河西範幸 代表)
「今までの県の姿勢を見れば、取り壊される可能性は十二分にあると、僕は肌感で思っています。悔いが残らないように、これやっとったら良かったとか、あれやっとったら良かったとかっていうことを思わないように、精一杯出来る限り頑張るだけです」
調査の参加申し込みは9月30日までで、10月21日までに提案書を提出する必要があります。