飲食店を経営することが夢だった岡山市の26歳の男性は、オープンを迎えたその日に火事で店を失いました。火事から約1カ月が経ち、男性に生まれた心境の変化とは。
岡山市北区にあるワインショップ「スロウカーヴ」の従業員・奥埜翔夢(おくの・しょうむ)さん(26)。12月25日に働き始めたばかりです。
(奥埜翔夢さん)
「僕も本来であればお店でこうやってお客さんと話したりして営業してたんだろうな。まさかそういうこと(火事)になるとは思ってませんでしたし」
念願の飲食店をオープンする予定だった奥埜さん
倉敷市出身の奥埜さんは広島で飲食業の経験を積み、2021年12月に岡山市北区表町でお好み焼きやワインを提供する飲食店「LOVE SONG」をオープンさせる予定でした。
(奥埜翔夢さん)
「僕自身お好み焼きが好きで、ソースの味とワインが合うだろうなという思いがあったので。曲とかは80年代とかのを流してて、でも内装はちょっと今風の、アンバランスだけど心地いいみたいなのを目指して作っていました、お店は」
貯金と借り入れた資金合わせて約800万円を店の内装工事やワインの購入などに充てました。12月は本格的なオープンを前に2日間だけプレオープンし、自慢の店にお客さんを招待しました。
(奥埜翔夢さん)
「褒めてくれるお客さんもいて、こういう音楽とワインいいねって。すごく嬉しかった」
まさか……オープン当日に店が全焼
そして迎えた、オープン当日(12月13日)の夕方、表町の繁華街で雑居ビルや飲食店、住宅など8棟を焼く火事が起きました。奥埜さんの店も全焼。火元や出火の原因はまだ分かっていません。
オープン初日、奥埜さんが店を開ける1時間半前の出来事でした。
(奥埜翔夢さん)
「夢かと思って、きょうからというところだったので、それが終わっていく感じ」
火事から約2週間が経った年の瀬。奥埜さんは片付けの準備をするため自分の店にやって来ました。
(奥埜翔夢さん)
「来るだけでも力がいる。片付けるのも大変、1個1個燃えているもの見ながらするのは。火事があった時はこのキッチンで仕込みしてて、それで煙に気付いて。ただただ逃げるしかなくて、何も持てずに……ひどいな、改めて見ると」
「2階にワインセラー置いてて、そこに100本くらい集めてて1年くらいかけて。それ本当に1本も残ってなかったので、それがショックだった」
取材中にサイレンの音が聞こえると、奥埜さんは「いま結構思い出しましたね。この場所にいて聞くと思い出す」と話していました。
一度は引きこもる感じになるも「頑張らないと」と再起
火事から約1カ月。今、奥埜さんは客としてよく通っていたワインショップで働いています。
(奥埜翔夢さん)
「(火事の後)3日間は引きこもる感じになってしまったので、元気な姿を見せないといけないと思ってこことかに顔を出していくうちに、『頑張らないと』と思ってきて徐々に切り替えられた」
(スロウカーヴ/渡辺隆之 店主)
「彼自身が興味あることを彼自身のペースで知っていってもらえたらというのと、僕だったり周りのお客様にもいろいろなことを教えてもらいながら次のチャレンジにつながればいいと思っています」
(スロウカーヴに訪れた客と奥埜さんとのやり取り)
客「頑張ってほしい」
奥埜さん「頑張ります」
客「早く新しいお店作って」
(奥埜翔夢さん)
「支えがあっていろいろな方が声を掛けてくれたので、次のステップに移れるように準備をできるような気持ちにようやくなれているかなと。もう一度、岡山のどこかでお店を開けたらいい」
自分の店を、もう一度。力となったのはオープンを楽しみにしてくれていた人たちの存在でした。
(奥埜翔夢さん)
「この辺はプレオープンでお客さんが空けてくださった、唯一お店で開いたワイン。2日間だけでもやれたことが次もう1回やろうっていうことにつながってます。あそこで来てくださったお客様は心の支えになっている」
岡山にもう一度「LOVE SONG」を
店の開業資金を募るため、早ければ1月中旬にクラウドファンディングを始める予定です。
(奥埜翔夢さん)
「名刺が残ってました、ひとつ。CHAGE and ASKAの『LOVE SONG』っていう歌があるんですけれど、それが好きで、(店名は)そこから取りました。店名はもう一度『LOVE SONG』にしようかなと思います」
年が明けてからまたワインを集め始めました。叶わなかった夢をもう一度、自分の手で手繰り寄せます。
(奥埜翔夢さん)
「本来お店ができるまでの自分より成長できることなのかなと思うので、全ての面でレベルアップできたらいいなと思ってて、そういう1年にできたらいいなと思ってます」