スポーツ庁の有識者会議が公立中学の運動部の活動を「学校」から「地域」に移す改革案を提言。休日の活動を地域のスポーツクラブやスポーツ少年団に委託していくとしています。地域への移行を先進的に進めている学校で見えてきた課題とは?
6月6日、スポーツ庁の室伏長官に有識者からある提言案が提出されました。それは、公立中学校の休日の運動部の活動を「学校」から「地域」に移すためのものです。
提言では2023年度以降、3年間かけて、運動部の活動を段階的に地域のスポーツクラブやスポーツ少年団などに委託していくとしています。
部活動の地域への移行に関して岡山県は2021年度からモデル校を定めて取り組みを進めています。
岡山県のモデル校・早島中学校では――
(松木梨菜リポート)
「指導を行っているのは、こちらの教員に加えて、あちらの男性の指導員です」
岡山県早島町の早島中学校です。2021年度から県の「地域運動部活動推進事業」のモデル校に選ばれています。
剣道部で2021年度から指導しているのは、地元のスポーツ少年団で22年間指導している男性です。
(部活動指導員[剣道部]/植田秀樹さん)
「5人います。スポ少から中学校にあがって剣道部に入っているっていう(生徒は)。あだ名で呼んだりとかはしてますけれども」
(部員[スポーツ少年団にも所属])
「習い事で知ってる先生なのでやりやすいっていうのもありますし、目標があってそれを一緒に頑張ってくれる」
剣道部は2021年、数年ぶりに県大会に出場しました。
(部員は―)
「礼儀を学べていい機会になっていると思います」
「自分たち一人一人の練習方法を考えてくれて、今年も県大会行く予定で練習頑張ってます」
早島町では2022年度、11の部活動の指導を「地域」に委託する方針です。地域から指導員を採用し、人件費は国の補助金を活用したり、町が負担したりしています。
現在は顧問の教員と一緒に指導員が平日や土日の部活動を指導しています。
(早島中学校 剣道部顧問/中務恭武 教員)
「全く経験ないもんですから、作法とか礼儀とかの部分からどう教えていいか困っていたんですけど、今でも一緒に教えてもらっているところです」
部活動の地域移行は「働き方改革」につながるか
(指導の様子)
「声をいれよう。入ったら『よし』でいこう。失敗したら『どんまい』でいこう」
卓球部の指導員の男性は、中学校の元教員で卓球部顧問も務めていました。
(部活動導員[卓球部]/内田隆志さん)
「これを入れたら(卓球指導)40年です。基本は技術ですよね。あとはマナー、あいさつとか」
そして元教員だからこそ感じているのが――。
(部活動導員[卓球部]/内田隆志さん)
「一番は先生方にとって働き方改革っていうけど、そうなっているかどうかいつも気にしてる。僕らのときには休みなかったですから。部活と遅くまで仕事してから。それが当たり前だったからよく分かるんよ」
部活動を地域に移行するという取り組みの背景には教員を取り巻く環境があります。
(早島町教育委員会 学校教育課/赤堀恵一さん)
「令和5年から7年の3年間かけて、土日の部活動の在り方とか教員の働き方について研究が進んでいく中で、地域に移行していくときに家庭の時間が増えたりとか、家でゆっくりする時間が増えたりして、負担軽減というところで表れてくるんじゃないかと考えています」
地域に移行しようとしている背景の一つに教員の長時間労働があります。
岡山県教委が2021年度に行った勤務実態調査によると、中学校教員の1カ月の時間外業務、いわゆる残業は平均で67時間。前の年度より約8時間増えました。
休日の部活動の指導には月に平均で約13時間と、長時間労働の要因の1つになっていると考えられます。
部活動の地域への移行のスケジュールは?
では、部活動の地域への移行は今後どのように進められていくのか。
国は2023年度から2025年度を「改革集中期間」として各自治体に推進計画の策定を求める方針です。岡山県は休日の指導をお願いする地域のスポーツクラブ、スポーツ団体に対し、7月から説明会を開く予定です。
一方で香川県では、市や町、地域らと意見交換しながら地域の実情を踏まえて今年度、計画案を策定する予定です。
3年間での段階的な移行を、部活動を受け入れる側はどう感じているのか。そこにはある課題も――。
「OSKスポーツクラブ岡山」のスイミングスクールでは、すでに地域移行が行われていました。
(OSKスポーツクラブ岡山 水泳指導部/和気利治 マネージャー)
「冬場は学校のプールが使えないので、スイミングスクールに来ていただいて練習に参加っていう形をとっています」
OSKによると水泳についてはスイミングスクールに温水プールがあることや、指導者が多いことなどから早くから民間委託が行われているといいます。そうした中で――。
(OSKスポーツクラブ岡山 水泳指導部/和気利治 マネージャー)
「多くの点ではうまく進んでいると感じているんですけど、責任がどこまであるのかというのは現場の方では感じております」
また、今は生徒たちがスクールに通って指導を受けていますが、地域への移行が進み、指導員の学校への派遣を求められた場合は「人材の確保」に課題があるといいます。
(OSKスポーツクラブ岡山/江尻博子 社長)
「女性の社会進出が盛んになってから土日に通われる子どもさんの数がすごく増えてますので、学校に出向いて土日に指導者を派遣するっていうのは、どこの民間クラブも非常に難しいんじゃないかと思います」
専門家は「子どもへの影響」を懸念
部活動の地域への移行について、中等教育に詳しい専門家は「子どもへの影響」を懸念しています。
(ノートルダム清心女子大学/森泰三 教授)
「2つの指導者(教員と指導員)がベクトルを合わせて生徒指導していく。そうしないと生徒が全く別のことを言われたときに困ることが起きる、そんなことも心配しています」
さらに懸念されるのが「地域格差」です。
(ノートルダム清心女子大学/森泰三 教授)
「都市部にはいろんな人材がいるし、スポーツクラブのようなものもあるし、場所もあると思うんですけど、中山間地域にいくとそういう指導者の確保が難しい。もともと地域格差はあると思うんです。でもその格差が余計に広がる可能性もあるんじゃないかなと」
森教授は、学校とは別の運営主体を作った上で人材の調整や人件費などを工面する必要があると指摘しています。
人件費に関しては家庭からの会費だけでなく、地元の企業などからのスポンサー料などを募れば家庭の負担も減らせるのではということです。