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【特集】精神障害者の「生きづらさ」を演劇に 大学と就労支援施設の共同企画 香川・善通寺市

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 香川県善通寺市にある四国学院大学で、精神障害がある人の実体験を基に作られた演劇が上演されました。出演したのは学生と、障害があり就労支援施設を利用している人たちです。演劇に施設の利用者が込めた思いとは……。

(演劇「ダンデライオンズ」より)
「どうも。町村です。町村修です。僕は、今、ここ、九州の鹿児島にある、桜島が見える精神病院に入院しています」

 精神障害がある個人の人生を振り返り、その「生きづらさ」を表現した演劇「ダンデライオンズ」。18日、善通寺市の四国学院大学で上演されました。

演劇には就労継続支援B型事業所の利用者も参加

 脚本・演出を担当したのは四国学院大学・社会学部の准教授、仙石桂子さんです。演劇「ダンデライオンズ」には学生の他、丸亀市の就労継続支援B型事業所「たんぽぽ」の利用者も演劇に参加します。

(四国学院大学 社会学部/仙石桂子 准教授)
「メンバーさん(利用者)とお芝居を作ることで、メンバーさんにとっても新たな発見があったり、私たちとか学生にとって新たな気付きがあるんじゃないかなと思って」

 仙石さんは3年前からB型事業所「たんぽぽ」で即興演劇のワークショップを開いていました。そんな中、発表の場を設けたいと、今回は利用者と学生が一緒に演劇を作ることにしました。

(香西健作さん)
「生かされる命なんやから。まだ世の中に必要とされてるんやで」

(周囲の人)
「香西さん、めっちゃいいじゃないですか。すごい。すばらしいですね」
「アドリブまで入れてる」
「アドリブ、さぬき弁」

 出演者の1人、香西健作さん(48)は「たんぽぽ」の利用者です。本番に向けて2カ月ほど前から稽古を重ねてきました。観客により伝わるようにと、せりふに方言を取り入れました。

(香西健作さん)
「できるだけ自然にやるように、さぬき弁でしゃべるようにしたり、そういう工夫をしています。初めてやることなので、感情移入とかそういうのが、工夫するのが楽しいです」

約20人が利用する就労継続支援B型事業所「たんぽぽ」

 丸亀市天満町にある就労継続支援B型事業所「たんぽぽ」は、精神障害などさまざまな障害がある人、約20人が利用しています。利用者はお菓子の袋詰めをしたり雑貨を手作りしたりしていて、香西さんもほとんど毎日通っています。

 統合失調症と診断されている香西さんは、人よりも多くの睡眠が必要で、事業所でもそれに合わせた作業をしています。

(香西健作さん)
「(Q.香西さんは、普段はどういう作業をされているんですか?)主に寝てる。そこで寝よることが多いんですけど、ときどき駄菓子したり、ひもをほどいたりしてます」

(「たんぽぽ」の利用者)
「(香西さんは)一生懸命してます。(Q.作業を一生懸命してる?)はい。し出したら(笑)」

 香西さんの場合、夜は12時間ほどの睡眠が必要です。夕方から夜にかけて行われる稽古への参加には負担もありましたが、香西さんは可能な限り参加し続けました。

(「たんぽぽ」スタッフ)
「生活リズムを変えてやっていこうという。すごい努力されているな」

(香西健作さん)
「私としては、自分の病気の啓発活動にも参加しようと思っていたので、そういう意味ではものすごくありがたい機会だったと思います。私たち病気ですけど、みんな頑張って生きているので、応援してほしいですね」

総勢50人で作り上げる演劇「ダンデライオンズ」

 演劇「ダンデライオンズ」は「たんぽぽ」の利用者とスタッフ、四国学院大学の学生と卒業生、教職員ら総勢50人で作り上げます。

 上演する3つの短編作品はいずれも「たんぽぽ」の利用者の実体験を基に、仙石さんが脚本を書きました。

(四国学院大学 社会学部/仙石桂子 准教授)
「結構みんな悩みとか苦しみとかそういうことを、自分だけって思いがちだけど、実はこう三次元でみんながやっているのを見たら、私も私もっていうことはたくさんあって。(この舞台は)きっと個人のことなんだけど、たぶんみんなが共有できる社会のことにもつながっているじゃないかな」

 精神障害がある人を演じる学生たちは、当事者であり出演者でもある「たんぽぽ」の利用者と対話を重ねて演技を固めていきました。

([統合失調症がある人を演じる]四国学院大学 学生/岡田祐介さん)
「(当事者が)いらっしゃるので、一緒に話したりしてて、自分との共通点を見つけることだったりとか。案外多いんですよね、探してみると」

([演出助手]四国学院大学 学生/宮地友希乃さん)
「やるにつれて、あの人たちは障害を持った人っていう区別ではなくて、私たちと同じ人間であって、いまを生きている人たちなんだって思って、今はすごく楽しいです」

迎えた本番当日――

(香西健作さん)
「もうやり切るだけだと思うので、頑張ります。それ以上に言いようがない」

 大学時代に統合失調症を発症し、入退院を繰り返していた青年・町村修。精神的に不安定となり川に飛び込んだ町村はしばらく病院の「保護室」に入っていました。香西さんが演じるのは、町村が精神病院で出会った「おじいさん」です。

(演劇「ダンデライオンズ」より)
おじいさん「また出てきたか」
町村「はい。残念です」
おじいさん「あんたも好きやなー。保護室が」
町村「はい」
おじいさん「でも、川に飛び込んだのに今まだ生きてるんやから、生かされる命なんやから。あんた世の中に必要とされてるんやで」

 2日間行われた公演はいずれもチケットが完売。70ほどある席はいっぱいになりました。

 実体験を基にした3つの物語。利用者と学生たちが対話して作り上げた演劇が、精神障害がある人、一人一人の人生と観客をつなぎます。

(B型事業所「たんぽぽ」理事 四国学院大学 社会福祉学部/西谷清美 教授)
「私たちの物語の中に彼ら入っていただくっていうことではなくて、彼らの物語に私たちが入ることで初めて私たちの人生につながっている部分が見えてくるというか。そういう意味では、社会福祉と演劇のエッセンスは大きな関連があるんじゃないか」

(四国学院大学 社会学部/仙石桂子 准教授)
「(利用者から)すごく学ばせてもらうこともあったし、学生たちもいい仲間ができたなと思っていて、私の個人的なことが社会的に対話をできて、演劇ができたっていうことが私自身の喜びにもなった」

(香西健作さん)
「歌の名前の通り『This Is Me』という感じで堂々と歌いました。ちょっと寝不足だったりしたんですけど、それも今となっては楽しい思い出だなと。あしたからないのが少し寂しいような感じがしますね。学生さんとも会えなくなるし」

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