Jリーグに参入して15年目のシーズンを戦うファジアーノ岡山が新たなサッカー専用スタジアムの建設を目指しています。クラブの初代社長を務めた男性がチームに戻り、「夢」に向かって再び歩み始めました。
4月3日の試合前。多くのサポーターに拍手で迎えられたのは、ファジアーノ岡山の初代社長で現在はオーナーの木村正明さんです。
この場で宣言したことがあります。
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「スタジアムを一緒に作りたいと思っていますので、ぜひよろしくお願いします」
木村さんがファジアーノの運営会社、「ファジアーノ岡山 スポーツクラブ」の社長に就任したのは2006年。「ふるさとに恩返しをしたい」と当時勤めていた外資系の証券会社を退社しての挑戦でした。
就任時には資本金の一部を自ら出資し、無報酬でクラブの先頭に立ちました。
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「Jリーグに行くんだという強い意志を持って動いていたつもりなんですが、もう、ちょっと二度とできないかもしれない。黎明期っていうのは本当にしんどかったなというのを思い出します」
木村さんの就任から3年でクラブは悲願のJリーグ昇格を達成。2010年には28万人の署名を市に提出し、3年後に専用練習場完成にこぎつけるなど、着実に歩みを進めてきました。
そんな中、社長就任から12年、2018年のシーズン開幕直後……。
(ファジアーノ岡山/木村正明 社長[当時])
「集大成の年にする心づもりでしたので複雑な思い」
木村さんの手腕を評価した当時のJリーグのチェアマン、村井満さんからの誘いを受け、Jリーグの専務理事に就任することが決まりました。それは同時に、社長の退任、愛するクラブとの別れを意味しました。
(ファジアーノ岡山/木村正明 社長[当時])
「私は必ず岡山に戻ってきます。その時点でファジアーノが最も弱いところをサポートしたい。それは、財務基盤なのか、フットボールスタジアムなのか、育成なのか、自分が戻ってくるタイミングで判断してサポートしたい」
その5年後、約束通り木村さんは、サポーターの前に戻ってきました。
Jリーグの運営に4年間携わり、2022年3月に専務理事を退任した木村さん。2022年4月から「オーナー」としてファジアーノの運営をサポートしています。
(サポーター)
「うれしかったです、こちらに来てくれて。頼もしいというか大好きな存在です」
「『木村さん=ファジアーノ』というイメージが私にはあるので心強い感じがして。(現社長の)北川さんもいい社長なので、2人がタッグを組んでもっともっと盛り上げていけばいいな」
オーナーとなって1年間は現経営陣への配慮もあり、表に出てこなかった木村さん。このタイミングでサポーターの前に現れたのは「決意表明」のためでした。
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「1つ足りていないのはスタジアムです。きょうここで話を聞いてくださった方は、『必ずスタジアムを一緒に作るんだ』ということで拍手をいただけませんでしょうか」
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「Jリーグで勤めて岡山はスタジアムに関してはまだ遅れています。これは訴えていきたい」
木村さんが、西日本のJ1クラブとJ2の岡山、徳島を比較した表を使って現状を説明してくれました。
新スタジアムを建設中の広島を含めた8クラブすべてが「収容人数2万人以上」で「スタジアムの両側が屋根におおわれている」「サッカー専用スタジアム」をホームとしています。
一方、ファジアーノのホーム、シティライトスタジアムの収容人数は1万6500人。サッカー専用ではなく陸上競技場のため、客席とピッチの距離も離れているほか、スタジアムの片側にしか屋根がついていません。
将来的には「サッカー専用スタジアム」を持つことがJ1昇格の条件になる可能性もあると言います。
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「J1平均で2万人(2019年)。自分が専務理事の時に2万人入ったので、J1に上がって浦和から1万人やってきて、地元の人が入れない状況になって、『うわ!』となったのでは遅いと思うし。今から必要なんだ。もっと言うと、J1に上がった瞬間に『さあ作りましょう』という準備ができていないととても間に合わない」
2021年に専門の部署を立ち上げ新スタジアムに向けた準備を進めているファジアーノ。4月24日には北川真也社長が岡山商工会議所の委員会で現状を説明しました。
委員「(建設を目指す)専用スタジアムはどのレベルなんですか」
北川社長「まずは2万5000人を目指したい。なぜ2万5000人にこだわるかというと、われわれの試合だけではなくて日本代表の試合を呼んでこれる可能性もある。これが2万人だと一切呼べなくなってしまう。岡山にいながら岡山の子どもたちが日本代表の試合を岡山で見られる」
委員「予算的にはどれくらい必要?」
北川社長「今は物価高騰で1席10万円と言われています。スタジアム外の整備も入れてですので、岡山の規模で言うと180から200億円くらい」
一方、現在のホーム、シティライトスタジアムを所有するのは岡山県。伊原木知事は定例会見で、新スタジアムの必要性について理解を示しました。
(岡山県/伊原木隆太 知事)
「これだけ岡山でサッカーが盛り上がると、いずれサッカー専用スタジアムがあっても宝の持ち腐れということにはならないだろう。みんなで(専用スタジアムを)どういうふうにするのか考えておかなければいけない時期にきたと思った」
創業者の帰還と共に動き始めた「スタジアム構想」。
サポーターは……。
(サポーターは―)
「いやめちゃくちゃ欲しいです、サッカースタジアム。いっぱい行ってますけど全然違うので」
「欲しいと思いますけど家からここが近いので、もしできるとしたら離れてしまうのかなと思うと……」
「欲しいのはやまやまだけどこの成績では……。ここのスタジアムでもまだあまりが出るような。結局は勝たないとだめ」
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「困っているんだという現実を今までクラブから伝えられていなかったと思うので、そういった会話を本当に極端な話じゃなく、県民一人一人、皆さんとしていかないと。練習場を作った時もそんな感じだったんですよね」
木村さんが社長時代から求めてきたサッカー専用スタジアム。実現すれば、誰よりもクラブを愛する木村さんの大きな「夢」に近づくはずです。
(ファジアーノ岡山/木村正明 オーナー)
「4年間コロナもありましたが、日本サッカーのために十二分に尽くした思いは持ってるんですけれども、やっぱり、われらがファジアーノ岡山がそういう舞台に立つことがないと自分の中の何かが満たされないんですよね。われらがファジアーノ岡山が、タイトルを取る瞬間を見たいというのが一番の思いです」