岡山市の路線バスについて考えます。今後バスの路線をどうしていくのか、岡山市や事業者らが話し合う協議会が6月5日、2年4カ月ぶりに開かれました。「再開前」と「再開後」で協議会の雰囲気は一変しました。
議論が紛糾し「再編」がなかなか前に進まず
バス路線再編に向けた協議会は2018年に立ち上がりました。
(松木梨菜リポート)
「岡山市の公共交通について考える初めての協議会が開かれます。全てのバス事業者が参加しました」
当時、岡山市では八晃運輸がJR岡山駅と西大寺地区を結ぶ新しい路線を開設したことに対して、両備グループが過度な競争を生むと激しく抗議。一時、路線の廃止届けを出すにまで問題が広がっていました。
法定協議会は、これらの問題を受けて公共交通に関する新しい計画を作るために立ち上がりました。しかし、その場でも事業者同士が対立しました。
(両備グループ/小嶋光信 代表)
「今回の件においても全く道路運送法の認可基準ということだけでみられてしまっている」
(八晃運輸/成石敏昭 社長)
「黒字路線の競争と赤字路線の維持の問題は切り離して、事業者本位ではなく、利用者の利益に資する方向で議論していただくことを……」
(宇野自動車/宇野泰正 社長)
「八晃運輸が両備のところで(運賃を)35%下げるというのは私から見ると『あり』」
(連合町内会の代表[当時])
「『やめる・やめる・やめる』ということでは、いくら問題を解決しようとしてもできません。利用者のことを考えてやっていただきたい」
その後も、八晃運輸が運行する「めぐりん」の岡山駅乗り入れなどを巡って事業者同士の主張がぶつかり、路線の再編はなかなか前に進みませんでした。
その後、新型コロナの感染拡大も相まって、再編についての話し合いの場は2021年2月を最後に開かれていませんでした。
紛糾一転 “共同運行”提案
しかし、2023年1月……。
(両備グループ/小嶋光信 代表)
「協議会の再開のお願いをさせていただきたい」
岡山県バス協会に加盟する岡山市のバス事業者9社のうち7社が、市に対して協議会の再開を申し入れました。
そして、6月5日。
(松木梨菜リポート)
「再開となった今回の協議会は、これまでとは違った雰囲気で始まりました」
2年4カ月ぶりの協議会では、両備グループの小嶋代表が八晃運輸の成石社長に握手を求める姿がありました。また、宇野自動車の宇野社長とは笑顔で肩をたたきあっていました。そして、会議で各社が提案したのは、事業者同士の「共同運行」という構想でした。
(両備ホールディングス バスユニット統括カンパニー長/大上真司さん)
「岡山市内のバス事業者が協調して交通連合を形成していく協議を提案したいと」
(宇野自動車/宇野泰正 社長)
「事業者の統廃合による収益力のアップ」
(下津井電鉄/永山久人 社長)
「無駄や無理をなくすしかない。交通連合であったり共同経営であったり」
(両備グループ/小嶋光信 代表)
「競争から協調へと。エリア一括協定運行を進めていきながら」
「共同運行」が提案された背景は
「紛糾」から一転……。「共同運行」が提案された背景について公共交通に詳しい専門家は――。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「これまで岡山市内で各社競争してきた、非常に激しい競争をしてきたんですけれども、コロナの2年~3年で競争が環境として苦しくなってきたと。今のタイミングだと、それしかないというか、そういう状態なんだと思います」
岡山市のまとめによると、新型コロナによる生活の変化などで2021年の路線バスの利用者はコロナ禍前より25%減少しました。運賃収入も大幅に減り、全体の9割が赤字路線となりました。
ほかにも……。
(松木梨菜リポート)
「こちらの張り紙には、運転手不足で路線を休止すると書かれています。バス業界は『運転手不足』にも悩まされています」
業種別の平均賃金をみると、岡山県の全業種の平均より岡山市のバス事業者の運転手の賃金は3割ほど低くなっています。
低い賃金に加え高齢化なども重なって、2021年の運転手の数は2019年より1割以上減りました。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「今まで通りの運行がしにくい環境になってきたと思います。いつまでも競争競争っていうのは無理があるんですね」
再開した協議会は、路線再編などを盛り込んだ地域公共交通計画を年内に策定することを目指しています。
(八晃運輸/成石敏昭 社長)
「事業者では各社思惑が全部違います。市が主導して会をやっていただきたいと思います」
(岡山市/大森雅夫 市長)
「事業者と一緒になって岡山の公共交通を考えていく」
「共同運行」何が大事?
今回、協議会で提案された複数の事業者でバス路線の運行を調整するという取り組みは、熊本市の路線バスで行われています。
ここでは民間の事業者5社が競合する4つの路線について調整した上で運行する事業者を決めるなどしています。
これは利用者の減少や運転手不足の影響で共倒れしかねないということで始まった取り組みです。
調整によってダイヤの重複を解消。全体の便数は1割ほど減りましたが、一定の間隔でバスを運行させることで利用者の利便性の向上を図りました。
全体の2021年度の収支は前の年度と比べて赤字額が約3300万円縮小しました。
岡山市の事業者が提案する「共同運行」でも経営状況の改善が期待できますが、専門家はいかに「利用者目線」を重視できるかが大切だと指摘します。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「事業者の視点だけでやっていくと利益に目がいって、利用者の目線が薄くなる可能性・懸念があるわけですね。そういう意味では岡山市、行政がきちんと音頭をとるのは大事だと思います」
また、「共同運行」に向けて岡山市が現在のバス路線についてニーズ調査を行い、どの路線をどう運行していくのか、調整することも必要だと考えています。
(岡山大学大学院/橋本成仁 教授)
「利用密度の低いところも走らせる必要があるわけですね。最初から赤字というところも出てきますので、行政(岡山市)がある程度お金を出すというのはしようがない話だろうと。どういうサービスが最適なのか、ここを考える。そういうことを実現してほしいですね」