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【解説】「誰にも相談できなかった」赤ちゃん遺棄・殺人の裁判から考える“相談のハードル” 香川

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 自分が産んだ赤ちゃん3人の遺体を遺棄し、うち1人を殺害した罪に問われた女の裁判員裁判が2月、高松地裁で開かれました。家族や社会から孤立していたという女は、法廷で「誰にも頼ることができなかった」と述べました。今回の事件の背景にある「相談のハードル」について考えます。

(裁判員を務めた40代男性)
「周りの環境とか人間関係が成り立っていて初めて誰かに頼ることができる。簡単そうで難しいのかなと」

(裁判員を務めた50代女性)
「『頼ったら?』とか『頼りなさい』と言葉で投げ掛けるのは難しいのかなと思うけど、彼女の場合はそれが、更生につながる第一歩かなと思う」

 裁判員を経験した人たちが判決後の記者会見で口にしたのが「頼ることの難しさ」でした。

(記者)
「誰かに頼る。助けを求める。相談する。結果的にそれができず被告人となった母親。その理由を考えます」

被告「誰にも相談できなかった」

 高松市の元風俗店従業員の女(36)は、2018年から2023年にかけて望まぬ妊娠で孤立出産した3人の赤ちゃんの遺体を自宅の押し入れに遺棄。そのうち1人を殺害した罪に問われました。

 検察側は、行政の匿名での相談先など「他に頼る手段があったのに選択しなかった」と指摘。

 一方、弁護側は被告が家族や社会からの孤立などにより「誰にも相談できなかった」と主張しました。

 被告は2020年の出産の際、親が育てられない子どもを匿名で預かる、熊本県の慈恵病院のいわゆる「赤ちゃんポスト」の利用を検討していましたが、電気代の支払いのため、旅費が出せず断念していました。

 その慈恵病院の院長で、産婦人科医の蓮田健さんは弁護側の証人として出廷し、「被告は八方ふさがりだったと思う」と述べました。そして孤立出産する女性の共通点として、「知られたくないという強い思いがある」と指摘します。

(慈恵病院[産婦人科医]/蓮田健 院長)
「相談窓口も窓口だけでは解決できないから『家族に相談しないとね』とか『病院に行かないとね』とか『生活保護とか行政に相談しないといけないね』そういうのが、彼女たちにとっては、ものすごく敷居が高い」

医師自身が地域に出てケアを

 被告は法廷で赤ちゃんを殺害した当時は「その場のことしか考えることができなかった」と述べました。

 弁護側は、逮捕後に判明した被告のADHD(注意欠如・多動症)の障害特性も犯行に影響したと主張しました。

 弁護側の証人として出廷した精神科医の興野康也さん。今回の事件も含めて似たような8件の事件で精神鑑定を行ってきた経験から、発達障害やいわゆる境界知能の人が「相談することの難しさ」を感じたといいます。

(被告の精神鑑定をした/興野康也 医師)
「まず自分が困っているということを感じられる。それから、困ったことを言語的に誰かに伝えようとできる。これも発達症(障害)の方は苦手な方が多い。また、相手を信じて心を開いて打ち明けられる。これはトラウマを抱えた方は極めて難しくて。さらに相談先がどこか分かる。検索するなりして調べられる。なかなかこれができない方が多い」

 その上で、病院に来られない人とつながるために、学校や市町の窓口など地域に医師自身が出ていく必要があると訴えます。

(被告の精神鑑定をした/興野康也 医師)
「病院に来る人だけをケアする精神科医療であれば不十分だと思っている。地域に出て、相談を受けて、必要なら病院につないで、そっちでケアをするみたいな、そういう活動もしないといけない」

被告の弁護人「障害特性が責任を減少させる要素になりうる」

 今回の裁判では、被告の今後の福祉的支援について、社会福祉士が更生支援計画を立てました。

 その中では、対策として信頼できる人を見つけて相談先を確保することが盛り込まれました。

 被告は、亡くなった3人に謝罪しつつ支援を受け入れる意思を表明。「恥ずかしくなく自慢できる母親になりたい。なるという決意で刑に服したい」と語りました。

 検察の求刑は懲役7年。弁護側は懲役3年が相当だと主張。下された判決は、懲役6年でした。

 判決では、「生活困窮に至った点や、他に救済を求める手段を検討しなかった点にADHDの影響があった可能性は否定できないが、与えた影響は大きくない」と評価されました。

 被告の弁護人を務めた田中拓弁護士は、取材に対し、「責任能力に問題がない事案でも、障害特性が事件の責任を減少させる要素にはなりうると理解してもらいたい。また、裁判を、当事者が自分自身の障害特性と向き合い、自分を理解する場にし、再出発の礎としたい。そのような思いで、今後も医療や福祉と連携した弁護に取り組んでいく」としています。

「妊娠や出産の悩み」を匿名で相談

 この裁判のほかにも香川・岡山で赤ちゃんが犠牲になる事件が相次いでいます。妊娠や出産の悩みについての電話相談を担当している香川県の助産師にその思いを聞きました。

 香川県助産師会が2000年から開いている電話相談の窓口です。朝6時から夜10時までベテランの助産師が対応していて、妊娠・出産・子育てなどの疑問や心配事を匿名で相談できます。

(担当の助産師)
「とりあえず今の状態あなたは一生懸命生きていて、一生懸命何とかしようと思って、ここに電話をかけてきているんだから、その姿勢について非難したり(せず)、原則すべて受け入れましょうと。受け入れた上で何ができるかを一緒に考えましょうと」

 2023年度の相談は431件で、約2割が妊娠についてでした。中には、予期せぬ妊娠の相談もあったといいます。原則、匿名での相談ですが、危険な場合などには本人に了承を得て名前を聞き、関係機関につなぐこともあるといいます。

(担当の助産師)
「実際、非常に困っている人は電話対応だけでは助けられない。生活を見直すとかしないと。やっぱり身近にサポートしてくれるところへご紹介して、そこでサポートしていただくことが大事かな」

 電話相談の限界を感じつつ、それでも、誰かに悩みを話すことがその後何かにつながっていくことを願っています。

(担当の助産師)
「必ずしも妊娠・出産を喜んで、おめでたいこととして、受け止めてない人もたくさんいる。いま困っていることに、『こうしたらいいんだよ』みたいなことを言ってあげられて、その瞬間ホッとしていただく。相談できない人が少しでも少なくなるように、安心して相談していただきたい」

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香川県「妊娠出産サポート」
電話・面談で相談受け付け
電話番号 087-843-5588 午前6時~午後10時(年中無休)

岡山県「おかやま妊娠・出産サポートセンター」
電話・メール・面談で相談受け付け
電話番号 086-235-7899 木曜を除く平日の午前9時~正午(祝日は休み)
メール  ninshin@okayama-u.ac.jp(随時受付)

 その他にも「妊娠SOS」と検索して出てくる「全国妊娠SOSネットワーク」のホームページから、岡山県・岡山市・香川県にある相談窓口の案内も見ることができます。

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