「おうろい」という方言が香川にあることを、地元で生まれ育った私はこのクラフトビールと出会うまで知りませんでした。少雨で水不足に悩まされ続ける香川で「恵みの雨」を意味する言葉を冠した「OHLOY BREWING(オーロイブルーイング)」の新しい醸造所が高松市牟礼町で完成間近となり、5月17日(日)にお披露目されました。
(取材:グルメ情報番組「ヒルペコ」プロデューサー 喜多信博)
オーロイブルーイングを立ち上げたのは香川県坂出市出身の渡辺仁史さん(38)です。渡辺さんは地元の高校から専門学校を経て自動車の整備士としてキャリアをスタートさせました。
整備士として5年ほど勤務した後、スターバックスコーヒーに転職すると、社内選抜を勝ち抜いて狭き門である焙煎士となり、アメリカでの研修に参加します。そこで現地のクラフトビール文化に衝撃を受けたことが、後の人生を変えました。
「将来、自分でビールを作ろう」と決意して帰国。国内のクラフトビール会社を経て香川県高松市の瀬戸内ビールの設立に参加すると、「瀬戸内」のビール製造に携わりながら隙間時間にその施設を「間借り」する形で、2022年に自身のオリジナルブランド「OHLOY(オーロイ)」を立ち上げました。自前の設備を持たなくても独自の製品を出せることから、クラフトビールの世界では幽霊や幻影を意味する「ファントムブルワリー」と呼ばれるスタイルです。
こうしたビール造りやコーヒーの焙煎には当然ながら製造設備が必要です。渡辺さんは自動車整備の経験があったため、ビール醸造設備やコーヒー焙煎機の修理・改良を行うことはお手の物でした。全く関係がない仕事に見えても、渡辺さんにとってはすべての経験がその後の仕事につながったのです。
5月17日。高松市牟礼町の海を臨む真新しい醸造所は、大勢の若者やビール好きの人たちでにぎわっていました。オーロイブランドの立ち上げから4年。渡辺さんには多くの仲間ができました。
この日はイタリア料理とワインの「azuki.」をはじめ、人気のお店がおでんやラーメンなどビールに合う料理を提供しました。
真新しいビール工場は、訪れた人たちの笑い声とDJが紡ぐ音楽が溶け合い、オーロイ第2章のスタートを祝う幸せな空気に包まれました。長い時間をかけて仲間と一緒に作り上げた、そんな光景をみながら、渡辺さんは語ります。
「地元の若者に、香川県でも、いや香川県だからこそ、ここまでできるってことを見せたかった。そしていい会社づくりをしたいので、気持ちよく働ける環境を作りたかった。県外の方にはもっと訪れてもらえるように、地元の若手には香川県でも面白いことができるんだと、刺激を与えていけたらうれしいです」
自分を信じて夢を実現し続ける渡辺さんの言葉は、乾いた香川の大地にもたらされる恵みの雨(=おうろい)のように、夢を持つ若者の心に、いつもやさしく降り注いでいます。
※今後、タンクなどの設備を搬入し、2026年6月から醸造所が稼働予定。