カラスはなぜ、黒いのか?
古くはギリシャ神話に「白く美しかったカラスは、嘘をついたため、真っ黒にされた」という話もありますが、この有史以来の問に、科学的にアプローチしているのが岡山大学環境生命自然科学学域の竹内栄教授です。
竹内教授は、ハシブトガラスの細胞を培養して解析し、分子レベルでカラスの羽が「黒い理由」を解き明かしました。鍵を握るのはカラスの「止まらないスイッチ」です。
研究成果について竹内教授は「カラスに魅せられ、関心を抱いてきたひとりのカラス好きとして、結果が出てうれしい限り」と話しています。
■鳥類の羽の色を決めるメカニズム(これまでの研究)
竹内教授は、長年、鳥類の体色について研究を続けていて、鳥類の羽の色の決定には、「MC1R」と呼ばれるタンパク質が大きく関わっていることを、これまでのニワトリを使った研究(1996年)などで解明しています。
竹内教授によると、鳥類の羽の色は2つのメラニン色素「ユーメラニン(黒~褐色)」と「フェオメラニン(黄~赤褐色)」のバランスで決まっていて、そのバランスを「調整」するのが「MC1R」だということです。竹内教授は「MC1R」のことを〝色の切り替えスイッチ”と呼んでいます。
色の切り替えのメカニズムは、下記のようなものです。MC1Rは、MSHと言われるホルモンの刺激が高くなると活性化し、これにより、ユーメラニン(黒系色素)を多く作り、その結果、鳥の羽は黒くなります。竹内教授はこの状態を、「スイッチが‶オン″の状態」と呼んでいます。反対に、ホルモンの刺激が低いとMC1Rの活性が下がり、羽は明るい色になります。
ところで、‶スイッチ″を刺激するというホルモン(MSH)は、一体どこからやってくるのか?竹内教授によると、鳥の羽を形成する「羽包(うほう)」という組織で分泌されます。羽包は、羽の根元のいわゆる鳥肌の‶ぶつぶつ″したところにあるということです。
■新たに分かったこと(カラスが黒い理由に迫る)
さて、ここからが、新たな研究の成果です。
竹内教授によりますと、一般的な生き物の場合、MC1Rが「オン」の状態になになるのは「一時的」なもので、成長段階や季節、性別などさまざまな要因で、スイッチの「オン」「オフ」が切り替わります。
しかし、竹内教授は、ハシブトガラスの細胞などを培養して解析し、カラスの仲間については、「常に」スイッチが「オン」の状態であることを突き止めました。ホルモン(MSH)の刺激がない時でも、黒い色素を「作り続けている」ということです。
竹内教授はこれを「カラスの止まらないスイッチ」と呼んでいます。
なお、実験により、人為的にホルモン(MSH)を添加した場合も、MC1Rの活性がさらに上がることがほぼないことから、カラスのスイッチは「いつも」最大出力の状態になっていると竹内教授は考えています。
■カラス特有の進化の可能性
竹内教授は、一般的な鳥類と異なるカラスの性質について、他の鳥類と比較研究を行ったところ、「生命の設計図」といわれるDNAの塩基配列について、複数の領域で特徴的な変異(アミノ酸置換)が確認されました。しかし、特定の一つの変異(単一のアミノ酸置換)から「止まらないスイッチ」について説明することはできませんでした。
竹内教授は、複数の変異の組み合わせによる作用で「止まらないスイッチ」が安定的に働いている可能性が高いとしています。これはカラス特有の「進化」に由来する可能性が高いとしています。
■研究の意義
竹内教授は、今回の研究について「生物の進化は非常に複雑な要素が絡み合った予測不可能なもの」ということを示すものだとしています。
また、「黒さ」を生み出す〝スイッチ”であるMC1Rは、ヒトを含む多くの動物の皮ふや髪の色、紫外線対応にも関与することで知られていて、研究の成果は、色素細胞の機能や働きの「一般原理」についても理解を進めるきっかけになる可能性があると期待しています。
研究の成果は研究グループが、2026年4月に国際学術誌「「General and Comparative Endocrinology」オンライン版で発表したものです。