旧香川県立体育館の解体工事の一時中断が決まりました。体育館の設計を手掛けた故・丹下健三さんの長男で、14年前に耐震診断を行なった会社の代表、丹下憲孝さんが9日、声明を出し、「倒壊の危険性がある」とする香川県の見解を否定しました。
旧香川県立体育館の解体を巡る裁判で、争点となっている建物の耐震性を調べるため、被告の香川県は裁判所の要請を受けて9月15日から1カ月間解体工事の中断を決めました。
しかし香川県の池田知事は7日の記者会見で「1日も早い安全確保が求められる」として、中断期間を終えると鑑定結果が出るのを待たずに解体を再開する方針を示しました。
香川県が解体を急ぐ根拠にしているのが、2012年に行った耐震診断の結果です。
この診断を行なったTANGE建築都市設計の会長、丹下憲孝さんが解体中断を受けた声明を出しました。
丹下さんは「耐震診断で示したのは現状のままではどのような課題があるかであり、直ちに倒壊するとか補強不可能であるということではない」と説明しています。
「診断は解体のための免罪符ではない」として、香川県の判断について「見解を大きく異にする」、「強い葛藤と憤りを禁じ得ない」などと批判しています。
そして1カ月間の工事停止と現地調査は「客観的な事実に基づいた開かれた議論を再開するための絶好の機会」とし、「真に納得できるプロセスと説明がなされることを切に希望する」としています。
TANGE建築都市設計 丹下憲孝さんの声明全文
旧香川県立体育館の「解体工事一時停止(証拠保全)」決定に寄せた声明
旧香川県立体育館再生委員会の皆様をはじめ、この建築の価値を信じて原告として立ち上がってくださった皆様、そして強い思いを寄せてくださっている香川県民の皆様、日本、そして世界中で本件の行方を見守ってくださっているすべての皆様に、心より感謝申し上げます。
この度、高松地方裁判所において耐震性能を鑑みる現地調査(証拠保全)の実施に伴い、9月15日より1ヶ月間の「解体工事の停止」が決定いたしました。文化的価値を守るための大きな第一歩として、この決定を受け止めております。
しかし同時に、私は強い葛藤と憤りを禁じ得ません。香川県が推進している今回の解体方針が、平成24年(2012年)に私どもTANGE建築都市設計が県の下で実施した「耐震診断」を唯一の根拠として語られているからです。
私どもが当時お引き受けした耐震診断は、決して「解体のための免罪符」ではありません。旧香川県立体育館が持つ稀有な建築的・文化的価値を守り、今後も長く安全に使い続けていただくための「改修(補強)計画の起点」として実施したものです。耐震上の課題を客観的に明らかにし、適切な補強を施すことで文化的資産を次世代に継承する——それこそが文化的・社会的な利益につながると信じて診断を行いました。
診断後、香川県が利活用に向けた検討に時間を割いてくださったことには感謝しております。しかし、再生への道のりが厳しいと判断されるやいなや、県側は私どもの診断結果を唯一の一次資料として「倒壊の危険性があるから解体する」と判断されました。私どもの診断結果を解体の根拠とされることに対し、私は見解を大きく異にするものであります。
私どもが診断でお示ししたのは「現状のままではどのような課題があるか」であり、「直ちに倒壊する」とか「補強不可能である」ということではありません。建築において、いかなる建物であっても「絶対に倒壊しない」と断言できないのと同様に、「直ちに倒壊する」と極論付けることも不可能です。現に、構造界の権威である専門家の方々からも「直ちに解体を要するような危険性はない」という客観的な技術的指摘がなされています。
県が主張される「県民の生命と安全を守る」という大原則は尊重いたします。しかし、一度解体してしまえば、この貴重な世界的建築資産と保存・再生の可能性は永久に「ゼロ」となります。
この1ヶ月間の工事停止と現地調査は、香川県がかつて私どもに託した本来の思いに立ち返り、客観的な事実に基づいた開かれた議論を再開するための絶好の機会です。解体ありきで突き進むのではなく、県民の皆様、そして世界中の人々が真に納得できるプロセスと説明がなされることを切に希望いたします。
近代建築の宝であるこの作品を、不本意な形で失いたくない。一人の建築家として、そして父・丹下健三の志とこの建築の価値を知る者として、皆様に心よりお願い申し上げます。