香川県は、旧県立体育館の耐震性を調査するため、解体工事の「一時中断」を決めました。建物本体の解体に入る直前、ギリギリのタイミングで事実上の「待った」をかけたのは、司法でした。これまでの経緯と今後の行方を解説します。
3日午後1時ごろ、報道機関に届いた香川県と県教委からのお知らせ。解体に向けた動きが初めてストップすることになりました。
世界的な建築家、丹下健三が設計し、1964年に完成した「船の体育館」こと旧香川県立体育館。老朽化のため2014年に閉館し、県は有効な利活用策がないことや安全面を考慮して約10億円かけて解体することを決めました。
再生か解体か…続く平行線
事態が動いたのは2025年7月。建築家らで作る「旧香川県立体育館再生委員会」が土地と建物を買い取るなどして民間資金で耐震補強を行い、ホテルなどに再生することを提案しました。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「県が抱えてた問題は、たぶんこの形で解決できることはいっぱいあると思うんでそれを含めて協議の場を設けてほしい」
これに対し、県は……
(香川県/池田豊人 知事)
「安全確保のためにも予定通りの解体を進めてまいりたいと考えております」
再生委員会が求めた「協議」には応じず、翌月には解体工事業者を決める入札手続きを開始。
当初「県と対立する意図はない」としていた再生委員会は、県を相手取り解体費用の差し止めを求める住民訴訟に踏み切りました。
高松地裁での審理が始まった1カ月後の2026年4月……
(記者リポート)
「旧香川県立体育館に作業員や工事車両が入っています。雨が降る中、これから解体工事に着手します」
訴訟の争点は「耐震性」 双方の主張は
訴訟を起こしただけでは解体工事を止める法的な効力はありません。そこで、原告側が行ったのが「証拠保全」の申し立てです。
裁判では「建物の耐震性」が最大の争点になっています。香川県側は、解体を急ぐ理由として2012年に行った耐震診断の結果をもとに「大地震が発生した際、建物が倒壊する危険性がある」ことを挙げています。
一方、原告側は、元日本建築学会の会長で、日本大学名誉教授の斎藤公男さんらの意見をもとに、「建物全体が倒壊する危険は想定されず、再生に向けた協議に応じる時間はある」と主張しています。
さらに、地震による耐震性能にも詳しい東京大学名誉教授の神田順さんは2026年3月、裁判官立ち会いの下、現地で建物の状態を確認しました。
(東京大学/神田順 名誉教授)
「非常に健全なコンクリート構造物で、60年経ってるんだけど、すごいしっかりしているんだなということを改めて思いました」
その上で、阪神・淡路大震災の際の統計的調査や、耐震診断書などをもとにした大柱の耐力評価を行い、「建築基準法で規定している安全と同等以上の耐震性を有し、南海トラフ地震の際でも倒壊にいたるとは考えにくい」などとする意見書を裁判所に提出しました。
日本を代表する建築構造の専門家たちによる意見書に対し、被告の香川県は……
(記者)
「(裁判で)別の専門家なりに本当に倒壊の危険があるんだという意見書を出してもらうなどの考えはありますか?」
(香川県/池田豊人 知事)
「今私たちは2012年の(耐震診断)結果について責任を持って不十分だという判断のもとで進めているところでございます」
「14年前の耐震診断は国のルールにのっとり、今でも広く用いられている診断法で行なっていて適切な評価ができている」と主張する香川県。神田さんは……
(東京大学/神田順 名誉教授)
「『倒壊の恐れがあるから解体する』という、その倒壊の恐れの説明が専門家の言葉のようには聞こえないんですよね。だから、もし専門家がそういうふうに言うんだったら、そうじゃないっていう人とみんなで議論して、どっちが言っていることが正しいのかなって。何かそういうふうに決めていかないと」
異例の工事中断へ 今後は?
今回の裁判では、裁判官に専門的な知見から助言などを行う「専門委員」として建築構造の専門家ら5人が選任されました。
高松地裁は、解体工事が着々と進んでいる状況を踏まえ、時間がかかる証拠保全の「決定」ではなく、県に自発的な工事中断を促しました。
原告の長田さんは、「公共建築の保存をめぐる住民訴訟で事実上の証拠保全がなされるのは極めて異例で、裁判官や専門委員が県の主張に疑問を抱いている表れだ」と話します。
一方で、工事が止められるのは1カ月間だけです。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「鑑定をするために必要なデータを今回1カ月間かけてとるということなので。現地調査をしてる間だけ工事は止まりますけど、その後、本当に大事な鑑定期間中はまた工事に着手できるという状態に移り変わる」
県は「中断期間が終了した後はただちに解体工事を再開する」としています。
8月の県知事選挙中、現職の池田知事に証拠保全が行われた場合を想定して質問をしていました。
(記者)
「(耐震性の鑑定で)すぐには壊れないという結果が出た場合、解体を急ぐ理由というのが根底から崩れると思うのですが、もしそうなった場合、いったん工事を止めて裁判の判決を待つとか、再生委員会ともう一度協議の場を持つという考えはありますか?」
(香川県/池田豊人 知事)
「裁判所がいろんなご判断をして進めていくと思いますので、裁判についてはですね。それについてきちっと私どもの方で対応していく、これに尽きると思っております」
再生委員会は、来週にも改めて記者会見を開くほか、旧県立体育館の今後について県民が話し合う双方向のタウンミーティングのような催しを検討しています。
(旧香川県立体育館再生委員会/長田慶太 委員長)
「1カ月でも一度でも止まったことっていうのを、きちんとみんながもう一度立ち止まるチャンスにはなったと思うので、そこで皆さんが声を上げてもらうことしか止めようがもしかしたらないかもしれません。もちろん知事に対しても再度対話を求めていきたいとは思うし、実現すればいいなとは思ってますけどね」
(2026年9月3日放送「News Park KSB」より)