米トランプ政権が高関税を柱とする保護主義的政策を加速させ、自国産業保護を掲げる姿勢は鮮明で、日本を含む世界経済に混乱を広げている。この動きは、先の大戦を招いた一因とされる1930年代の経済ナショナリズムとの類似が指摘されている。1930年、フーバー大統領が署名した「スムート・ホーリー法」は、2万品目以上に平均40%超の関税を課す強硬な保護主義政策だった。1928年の大統領選で勝利したフーバー氏はトランプ氏同様ビジネス界出身。共和党は上下両院も制し「トリプルレッド」を実現したが、就任の年に世界恐慌が勃発。国内農業や産業保護を名目に同法が成立すると、各国は報復関税で応じ、世界経済は分断の道をたどった。
米カリフォルニア大学バークレー校のモーリス・オブストフェルド教授は番組の取材に、「関税を武器とするトランプ政権の行動は、少なくとも今後数年間は世界的に続く見込みだ。そのため他の国は“もはや貿易政策だけでなく、米国全体が信頼できないパートナーだ”と考え始めている」と警鐘を鳴らす。国際政治学者の藤原帰一氏も「いまトランプ政権の下で展開しているのは、強者の支配と弱者の従属、いわば弱いものいじめである。デモクラシーの帝国がプレデターの帝国に変化しようとしている」と指摘する。
戦前の国際社会では、保護主義の高まりに伴い大国が経済圏を築き、第2次世界大戦へとつながったとされる。その反省から、戦後は米国主導でGATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)による自由貿易体制が築かれた。しかし、トランプ政権はこの戦後秩序から距離を置く姿勢を示している。米通商代表部(USTR)のグリア代表は8月7日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』への寄稿で、「WTO主導の秩序は維持も持続も不可能だ。関税や外国市場へのアクセス、投資を組み合わせ、米国は新たな秩序の基盤を築いた」と主張した。
番組の取材に応じた経済史学者で米サンタクララ大学のクリス・ジェームス・ミッチェナー教授は、「1930年代から学ぶべきは、貿易や資源をめぐる緊張が軍国主義の高まりと結びついた事実を忘れてはならないという点だ」と語る。当時の日本も例外ではなかった。世界恐慌とスムート・ホーリー法に象徴される保護主義の波の中で、注目を集めたのが満州(現中国東北部)だった。現地駐留の関東軍は資源確保を狙い、1931年9月18日、奉天郊外で線路を爆破し、中国軍の仕業と主張して満州事変を起こす。翌1932年3月に「満州国」が建国され、同年12月には国内の新聞社・通信社132社が連名で支持する共同声明を発表。「満州の政治的安定は極東の平和維持の絶対条件」とし、世論と一体で占領を後押しした。
★ゲスト:藤原帰一(順天堂大学特任教授) ★アンカー:杉田弘毅(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)