政府は9月26日から「全国一律」で「全数把握」のやり方を見直す方針を発表しました。医療機関などの負担軽減のための今回の見直し。岡山県では以前から前向きに検討していましたが、その一方で多くの課題が指摘されています。全数把握の見直しで何が変わるのか。そして私たちへの影響は?
9月26日から全国一律で「全数把握」の見直しへ
新型コロナ感染者の「全数把握」について考えます。6日、政府は感染者全員分の情報を届け出る「全数把握」の在り方を9月26日から「全国一律で見直す」と発表しました。
現在、医療機関は感染者全員分の氏名や住所、症状など情報を「発生届」として届け出ています。26日からは感染状況を把握するために感染者の「数」は報告するものの、氏名や住所などの「届け出」は高齢者など重症化リスクが高い人に限定します。
この「見直し」について、宮城や鳥取など4県は9月2日から行っていて、9日からは三重と長崎も加わります。岡山県も見直しに向け「前向き」に検討していましたが、関係機関からはさまざまな「懸念」の声が上がっていました。
見直しの課題は? 自宅療養に“懸念”も
(岡山県新型コロナウイルス感染症対策室/森隆之 室長)
「医療関係者の方、岡山市、倉敷市、保健所設置市になりますが、こちらの岡山市、倉敷市を含めてご意見をお伺いしているというところでございます」
政府が「一律での見直し」を表明する前日。岡山県は関係機関との協議を続けていました。
(岡山県新型コロナウイルス感染症対策室/森隆之 室長)
「医療従事者それから保健所の負担軽減、事務的な負担軽減につながる部分はあると思っています」
新型コロナの感染者が確認された場合、医療機関は感染症法に基づき、「発生届」を作成します。感染者の氏名や住所などの基本情報をはじめ、重症化リスクがある場合はその疾患などを入力します。この作業には感染者1人につき10分ほどかかるとされていて、感染者が増えれば増えるほどその負担は大きくなります。
今回の見直しでこの「発生届」の入力が高齢者など重症化リスクがある人に限定されることになります。
(岡山県新型コロナウイルス感染症対策室/森隆之 室長)
「負担が軽減されることでよりリスクが高い方の対応、健康観察であったり、そういうことに注力できると」
一方、見直しには懸念もあります。
(岡山県新型コロナウイルス感染症対策室/森隆之 室長)
「陽性になれば自宅で療養をしていただくとなると思います。届け出がない関係で、どこまでそれが把握できるかっていうのは難しい問題があって、一部他県でもそういったことで感染者が増えてしまうのではないかといったような心配の声も出ているところではあります」
この自宅療養者への対応も課題です。
(岡山県新型コロナウイルス感染症対策室/森隆之 室長)
「届け出の対象とならない方、そういった方が、急変されたり、入院が必要になった時に対応ができるかどうか」
この療養者の容体については医師会も「懸念」を示しています。
(岡山県医師会/松山正春 会長)
「自宅療養の患者さんに何か変化があった時、特に自宅で亡くなられることを一番先生方心配していると思うんです。自宅療養の方が安心して療養できる体制を県の方で整えていただいて、患者さんの生命の安全が一番考えられるべきことだと思うんです」
負担減のはずが…負担増の懸念
「全数把握の見直し」を巡っては「発生届がない人たち」をどうケアするのかが課題です。それでも政府は「重症化リスクの高い人」を守るために「見直し」で負担を減らし、保健医療体制の強化や重点化を進めるとしています。
一方、今回の見直しによって「負担が増えるのではないか」と心配する声が上がっているものもあります。
(岡山市保健管理課/森公造 課長)
「発生届自体は8割ぐらい減る可能性はあると思うんですけれども、発生届が出ない方のフォローというのが気になるところでして。症状が重くなった時にお電話いただいても、どういった方かが把握できておりませんので、確認をするのに時間がかかるのかなと心配しているところです」
(松木梨菜リポート)
「こちらは岡山市が設置している新型コロナの受診相談などを受け付けるコールセンターなんですけれども、ここの業務がパンクするのではないかと心配されています」
岡山市が懸念しているのは、感染者の情報を事前に持っていないため1件1件に対応する時間が長くなること。さらに、これまで行っていた「保健所からの連絡」がないために、感染者から療養期間などに関する問い合わせが増えることです。
また岡山市は現在、自宅療養者に対して食料品や日用品などを無料で配送しています。今後は、これに関する問い合わせも増えるとみています。
(岡山市保健管理課/森公造 課長)
「問い合わせの対応のところ人の強化をするとか、少なくとも現状では対応が厳しいのかなと思っています」
このほか、岡山市が課題にあげるのが「療養証明書」です。自宅療養がいつ始まっていつ解除されたかを記載したもので、岡山市の場合は療養期間が終わった陽性者全員に郵送しています。
しかし、発生届の対象が限定され、感染者の情報が把握できなくなると作成できなくなってしまいます。この作成が医療機関に集中してしまうのではないかと心配する声もあります。
(岡山県医師会/松山正春 会長)
「患者さんがほかに出すところがなければ先生方はそれなりの意識を持っておられるので出してくださると思いますが、非常に負担となると思います。なるべくそういう証明がいらない方向で進めていただきたいと」
「療養証明書」を巡って岡山県などは健康観察するための国の専用システム「マイハーシス」の活用を呼び掛ける方針です。これは感染者が自分の健康状態をスマートフォンなどから入力できるもので、「療養証明書」を発行することもできます。
Withコロナへ 見直し進む制限・基準
9月26日から全国一律で見直される「全数把握」について、岡山県は「先行して開始するかどうかも含めて検討する」、香川県は「先行して始めることは想定していないが、26日の開始に間に合うよう準備したい」としています。
また政府は全数把握だけでなく、感染者の「療養期間」についても見直す方針を示しました。症状がある人は今の原則10日間から7日間に、症状のない人は検査での陰性を条件に7日間から5日間に短縮する方針を決めました。
このほかにも感染者の外出について「無症状」もしくは「症状が軽くなってから24時間経過」した人はマスク着用などを条件に食料の買い出しなど必要最小限の外出を認めることを決めました。
Withコロナの段階に入り、私たちの生活自体も今後、形を変えていきそうです。