原材料や原油価格の高騰、新型コロナの影響などで、いまさまざまなものが「値上がり」していますが、この状況でも簡単には値上げできないものがあります。それが「銭湯」です。背景には「法令」と「集客」2つの壁がありました。
高松市高松町の銭湯「クア温泉屋島」。入浴料は大人が「400円」、6歳から11歳は「150円」です。
(来店客は―)
「1週間のうちに最低でも5日くらいは来る。友達も結構出来たり」
「(銭湯が)お休みの日以外は多分来ています。10年」
客の多くは常連。2年以上続くコロナ禍で新規の客はなかなか見込めず、経営は厳しい状況が続いています。
(クア温泉屋島/斎藤正人 代表)
「ある程度収束していただかないと、お客さんが戻ってこないという気持ちはありますね。スーパー銭湯なんかは時短要請があった。時短だからこれだけ援助しますよというものは、公衆浴場の場合、時短がないから助成金はゼロですよね」
クア温泉屋島の斎藤さんによると、2020年・2021年の利用客は2019年と比べ15%ほど減りました。ここに追い打ちをかけたのが「燃料費の高騰」です。
クア温泉屋島では「A重油」を使って湯を沸かしています。
資源エネルギー庁のまとめによると、「A重油」の価格は2020年の6月ごろから上がり始めました。2022年2月には1リットル当たり100円を超え、以降、高止まりの状況です。
クア温泉屋島によると、2022年7月にA重油の購入にかかった費用は20万円あまりで、1年前と比べて3割ほど上がったということです。燃料を多く使う冬場はさらなる出費が想定されます。
(クア温泉屋島/斎藤正人 代表)
「A重油が上がるということは死活問題。料金を上げられるなら上げたいんですけどね。上げることによって毎日来ているお客さんが3日に1回とかね、あるいは2日に1回ということになったのでは、お客さんに対してご迷惑をかける。400円から440円くらいに上げられたらなと思いますね」
一方、銭湯の料金に関しては「店の判断で上げられない」という事情があります。
公衆浴場の料金は「物価統制令」に基づいて都道府県ごとに「上限」が決められています。現在、香川県が大人が400円、岡山県が430円です。
「物価統制令」は、戦後の急激なインフレから消費者を守るために1946年にできました。その後、経済成長に伴いほとんどの品やサービスが対象から外れましたが、「公衆浴場の料金」だけが今も残っています。いわゆる「スーパー銭湯」や「健康ランド」は対象から外れています。
上限を引き上げるためには、都道府県ごとに審議会を開いて知事が決めます。香川県では、燃料費の高騰などを受けて2015年に大人料金が「360円」から「400円」に引き上げられました。以降は変更されていません。
料金の見直しについて香川県は県内11の銭湯で作る「香川県公衆浴場業生活衛生同業組合」からの要望があれば検討するとしています。これに対して組合は「現時点で値上げの要望は考えていない」としています。
組合としては、経営が苦しいながらも値上げをすることでさらなる「客離れ」が起きることを懸念しています。
そんな中、「クア温泉屋島」の斎藤さんは8月30日、県職員や各市の市議会議員らとの話し合いに参加し、「銭湯への支援」を要望しました。
(クア温泉屋島/斎藤正人 代表)
「燃料費の高騰に対する助成をお願いしたいと、県に働きかけてくれと。今現在、本当にトントン、あるいはちょっと赤字。このまま続くと、どうしても赤字。経営そのものが成り立たなくなるのでは。なんとか助けてくれんかというのが本音」
燃料費の高騰などで苦しむ銭湯を支援するため、高松市は支援金を交付する方針を固めました。9月の市議会に提案予定の補正予算案に1500万円を計上しました。燃料費の上昇分を補う形を想定しているということです。
「銭湯への支援」に関しては、岡山市も燃料費の高騰の影響を受けている「4つの施設」に対し支援金を交付する方針です。9月1日に開会した市議会では、補正予算案として220万円を計上しています。
また、岡山県は岡山市以外の施設に対して補助金を交付します。8月から申し込みを受け付けているとのことで、交付の対象となるのは4つの銭湯で、1施設あたり20万円を出します。このように各自治体も銭湯への支援策を打ち出し始めています。