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【特集】果物の幸せな流通を…元フルーツ大使が起業した卸売会社 香川

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 バースデーケーキの「王道」といえばやっぱりイチゴのショートケーキ……ですが、国産のイチゴの旬は冬から春です。
 2023年の東京都中央卸売市場のイチゴの取扱量を月別に見ると、夏から秋にかけては旬の時季の200分の1以下。1kgあたりの平均価格も2~3倍となっています。
 そんな中、独自の流通システムで季節を問わず、イチゴなどの安定供給を行う会社が香川県にあります。社長を務めるのは、香川の果物をPRする「フルーツ大使」だった女性です。会社を立ち上げた理由、そして、目指すものとは?

 日本青年会議所が主催する青年版国民栄誉賞こと「JCI JAPAN TOYP 2024」。

 社会に持続的なインパクトを与える可能性を秘めた若者15人のうちの1人に選ばれたのが、坂出市に本社を置く「Japan Fruits」の社長、高尾明香里さん(30)です。

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「日本のフルーツは世界一おいしいです。ただ、フルーツの生産者の方がずっと赤字続きで、おいしいものを作ってももうからない、いいものを作ってももうからないという状況がすごく歯がゆく感じ、今の事業を始めています」

 高尾さんが2021年9月に立ち上げた「Japan Fruits」は現在、高松市に事務所を構えています。手掛けるのは、フルーツを使う事業者と生産者をつなぐ独自の流通システムです。

 通常、生産者が出荷した果物は卸売業者、小売業者を経て事業者のもとに届きます。一方、「Japan Fruits」は事業者の使いたいフルーツを聞き取り、提携する生産者とマッチング。

 農園から直送するため、より新鮮な状態で届けられ、市場を通さないため中間マージンも削減できます。

 天候不順などのリスクに備え、現在、北海道や長野県など全国各地の約280の農園と提携。卸先はケーキ店や和菓子店、コンビニなど約1000社です。

 国産イチゴの安定供給に加え、味はよいのに見た目や形が不ぞろいのため市場には出回らない「規格外の果物」もフルーツサンドなど用に卸しています。

 この日は、夏イチゴを仕入れたいというかき氷の専門店から問い合わせがありました。

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「規格外のイチゴもございまして、こちらがちょっとカットすれば、本当に普通のイチゴと同じように使っていただけるような、ちょっと頂点が白っぽかったり、M字型になっているようなイチゴが入るんですが、価格的には本当に旬の時期とあまり変わらず使っていただけるので。1粒をどうしても上に飾りたいんだという方は、やっぱりMサイズ・Lサイズ、大きさが揃ったものを使われていらっしゃいます」

 店頭の看板にイチゴを使ったスイーツメニューが並ぶ、高松市兵庫町の「CAFE LOURDES」。Japan Fruitsを通じてイチゴを仕入れています。

(CAFE LOURDES/西山智美さん)
「イチゴが夏も手に入って1年間使えるから、イチゴメニューがずっとできるのでありがたいと思っています。ベリーベリーソーダもとかも『生苺』って書けるようになったので」

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「パンケーキにそのまま乗っててお客さんがフレッシュのまま食べられる状況なので、酸っぱくて硬くてゴリゴリはダメだなと思って」

(CAFE LOURDES/西山智美さん)
「甘いんですよね。夏でもびっくりしました。夏のイチゴだから酸っぱいのかなと思ってたら」

 パンケーキに添えるのは長野県の農園から直送された3つのサイズの夏イチゴ。「花」に見立てて、飾り付けていきます。

(CAFE LOURDES/西山智美さん)
「イチゴの種類も変えて送ってくださったりするので、いろんなイチゴの種類で、味も結構イチゴだけでも変化がとれるときもあるので」

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「かわいい~。さっき生産者の方に(写真を)送ったんですけど、感動してました。こんなふうにできるんだって。手間暇を加えて、こんなふうに素敵にしてくださってうれしいです。おいしい」

 高尾さんが会社を立ち上げるきっかけとなったのは、香川大学の3年生だった2015年。アルバイト感覚で応募した「さぬき讃フルーツ大使」としての活動でした。

 「さぬき讃フルーツ大使」は市場や百貨店で開く試食イベントなどで香川県産のブランドフルーツをPRするのが役目。高尾さんは果物の魅力をもっと知ろうと生産者の元を訪ね、そこで食べた味に衝撃を受けたそうです。

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「職人さんみたいな生産者の方が緻密に作っているので、その繊細さというか、味のバランス、濃度とかも全然違う、脳天を撃ち抜かれるぐらいの衝撃レベルで。その反面、そのフルーツが高い値で売れてるのに農家さんがもうかってないのはなぜだろうと」

 このとき食べたシャインマスカット、東京の高級フルーツ店では1房2万円ほどで売られていましたが、生産者の手取りは1500円から2000円ほど。

 この現状をなんとかしたいと思った高尾さんは、大学を休学して1年半ほどシンガポールとマレーシアに留学。果物の輸出入を手掛ける商社でインターンシップに参加しました。

 帰国後、企業への就職を経て3年前に1人で立ち上げた会社は現在、社員6人。

 卸売事業に加え、農家の業務負担を減らして収益性を高めてもらおうと、受注・発注の管理や顧客対応などのバックオフィス業務も請け負っています。

 この日、高尾さんと社員たちが作っていたのは、韓国から日本にもブームが広がっている「フルーツあめ」。お客さんからの問い合わせに対応したり提案したりできるよう自分たちで試作します。

 そんなJapan Fruitsの強みとは?

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「農園との信頼関係が一番だと思います。お金の高いか安いかで買うっていうところだけじゃなくて、やっぱり人としてのつながり」

 広島県庄原市の「ひばごんファーム」です。標高700mを超え、夏でも涼しい気候を生かし、14棟のビニールハウスで「夏イチゴ」を育てています。

(ひばごんファーム/田盛和音さん)
「すずあかねっていう品種になります。ちょっと酸味が強いですね」

 収穫は6月から12月ごろまで。中四国地方でこの時季にイチゴを安定的に出荷できる農園はあまりありません。

 高尾さんは創業直後、飛び込みで営業をかけ、少しずつ信頼関係を築いてきました。

高尾さん「発注書を見て、このお客さん何作ってる人だとかって分かります?」
田盛将也さん「名前でですか?だいたい話はしますね」
和音さん「調べてみたり」
田盛将也さん「インスタ見たり」
和音さん「あめだ、とか」

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「そこまで考えてやってくださる生産者の方、本当にありがたいですよね。やっぱりあめに合うようなイチゴもありますし、大福に合うイチゴとか。大福は大福でもイチゴが外に出ているバージョンの大福なのか、それとも中に求肥で包まれているタイプなのかによっても、イチゴの例えばじゃあ優品がいいのか秀品がいいのかとかも変わってくるので」

(ひばごんファーム/田盛将也さん)
「ほんとこんな足を使って仕事されている方、いらっしゃらないと思うんで。電話したら本当にいつもどこかにいるんで、北海道とか。本当すごいなって思うし、なんかこう出してあげたいなっていう、できるだけ応えたいなって思いますね」

 高尾さんは、提携している農園に実際に足を運ぶことを大切にしています。

田盛さん「葉っぱはこういう状態だったら……(ちぎる)」
高尾さん「ええ~!」
田盛さん「このぐらい」
高尾さん「ヤバい。信じられない」
記者「何に驚かれたんですか?」
高尾さん「苗の小ささ。葉っぱがコンパクト。普通はこれの5倍ぐらいの大きさ、高さ、茂り具合なんで」
田盛さん「物理的にイチゴを少なくして、収穫と選果と出荷の時間を減らして手入れに回して。(結果)病害虫がなくなって、売り上げも上がってっていう」
高尾さん「普通だったら、一見イチゴの収穫できるものを取って収穫しないわけじゃないですか。損しそうな気がする。手もかかるし、損しそうな気はするんですけど」
田盛さん「悪いもの安く売るよりかは、いいものを高く売った方が効率的なんで」

 栽培方法やできた果物の特徴、そして、作る人の思いを知り、使う人や食べる人に伝える。それは原点であるフルーツ大使のときから変わりません。

(Japan Fruits/高尾明香里さん)
「一番は、こうやって頑張っている生産者の方が過剰労働から解放されて、しっかりもうかる仕組みにするっていうところ。作る人も食べる人も幸せになるような流通がしたくて、それを中心としたビジネスモデルにしているので、私たちだからできることだと思います」

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