4月2日は、自閉症や発達障害への理解を呼びかける「世界自閉症啓発デー」です。岡山県津山市に住む蓬郷由希絵さんは、自閉症の次女や家族との日常をSNSで発信していて、フォロワーは17万人を超えています。今回は、障害のある妹とともに育ってきた姉の思いをお伝えします。
津山市に住む中学2年生の蓬郷結衣菜さん。重度知的障害を伴う自閉症です。
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「がんばれー」
(結衣菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「めちゃキレイに干してくれた。結衣菜、はなまる。はなまるポン、はなまるポン」
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「(Q.上手に干せましたか?)うん、干しました!(Q.頑張ったね)頑張った!」
結衣菜さんには、3歳年上の姉、虹々菜さんがいます。
妹思いの虹々菜さんと、姉に信頼をよせる結衣菜さん。元々は仲のいい2人ですが、最近は少し、関係がギクシャクしています。
(結衣菜さん・虹々菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「結衣菜がお姉ちゃんに対して、対抗意識じゃないけど、いろんな意味で勝手に1人で競争している感じ。以前は虹々菜、虹々菜って言っていたし、頼りにしていたと思うし、今の状態は親としてはとても悲しいよね。私たちの中ではこじらせ、結衣菜の単なるこじらせという言葉で済ませながら、笑いながらやり過ごしている感じ。その言葉がないと本当にしんどい」
思春期を迎え、こじらせ中の結衣菜さん。朝は虹々菜さんよりも早く起きて学校へ行き、帰宅後は虹々菜さんよりも早くごはんを食べようと、料理を始めます。
そんな中で、意識せずにはいられない、姉の行動。
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「まだなの~? 迎え~」
友達と出かけるはずの虹々菜さんが、時間を過ぎても家にいるのが気になって仕方がない様子。
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「まだなの~、迎えが~遅~い!」
完全に、心の声が出ちゃってます。
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「まだなの~? 迎え~」
結衣菜さんは物事へのこだわりが強く、気になっていることを何度も何度も繰り返します。
(結衣菜さんの姉/虹々菜さん[高2])
「最近だったらたまにうざい時もあるけどでも、大切な存在。いまは結衣菜が思春期であまりしゃべらないけどでも、それが終わってもっとコミュニケーションがとれるようになっていろんなところに行けたらいいな」
障害のある妹とともに育った、いわゆる「きょうだい児」の虹々菜さん。小学生の頃、自分の素直な気持ちをみんなに知ってほしいと絵本を作りました。「きょうだい児」とは、障害や難病がある兄弟・姉妹がいる人のことです。
虹々菜さんが作った絵本では―
「いやだなと思うときは何度も何度も同じことを聞いてくる」
「大きな声を出すからはずかしい」
「いやなことばかりじゃなく、好きなところもある」
「たよってくれたら、うれしい」
「バスケをしているときは私だけの時間。お母さんも私だけを見てくれている」
「私と一緒の気持ちの子がいるとしった」
「なんだかうれしい気持ちになった」
(結衣菜さん・虹々菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「虹々菜が結衣菜のことを書こうかなって、夏休みの自由研究で。できる限り我慢をさせないように伝えてきたし接してきたけど、やっぱりどこか彼女の中で我慢しているところもあるし、彼女も気づかないうちに我慢しているところがあるから、虹々菜との時間をもっと作らないといけない。作っていたけどまだ足りない部分があると思ったかな」
春休みが近づいたある日のこと……。
(結衣菜さんの姉/虹々菜さん[高2])
「(Q.顔、大丈夫?)大丈夫……」
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「虹々菜はいじわるなんか、大っ嫌いなんだよ!」
結衣菜さんが、姉・虹々菜さんの顔をひっかいてしまいました。
由希絵さん「結衣菜に嫌なこと言ったん?」
結衣菜さん「嫌なこと言った」
由希絵さん「そっか……なんて言ってた?」
結衣菜さん「……かぐられて(ひっかいて)しまった」
一方、虹々菜さんは―
虹々菜さん「靴下取りにいっただけなのにくそったれ」
由希絵さん「くそったれだよな、意味分からん、とりあえず距離取ろう」
(結衣菜さん・虹々菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「虹々菜が週末の予定を聞かれて、『虹々菜は行かないよね』みたいなことを確認されただけで、(返事をしたら)いきなり怒ってきた。それはおかしい。結衣菜にとってはそれまでのことがあるのかもしれないけど、家族でも『いま何で怒ったん?』みたいな、『いつのことをどんなふうに今怒ったん?』みたいなことがけっこうある。だけど何でやったのかがなかなか説明できなくて……彼女は今、ひっかいてしまったことに罪悪感マックス」
由希絵さん「虹々菜にごめんねって言う?」
結衣菜さん「言う」
由希絵さん「言うの?」
結衣菜さん「うん」
結衣菜さん「ごめんなさい。かぐったりしてごめんね。仲直りしよう。ごめんね」
虹々菜さん「いいよ」
10分後―
結衣菜さん「仲直りしましょっか」
虹々菜さん「しました……。仲直りしましたよ。しました」
結衣菜さん「も~ハグしよっか、ハグしよう」
約20分におよぶ長~い謝罪でしたが、結衣菜さんなりの精一杯の気持ちです。
午後7時。寝る前にも姉の予定をしっかり確認。
由希絵さん「虹々菜は朝からいない。朝6時からいないよ、バスでUSJ行くって言ってたよ」
結衣菜さん「ゆみばーさるすたぴおじゃぱん」
由希絵さん「そう、行くって言ってたよ。だから朝からいないよ」
結衣菜さん「朝からいない」
由希絵さん「うん、そうです」
結衣菜さん「うん」
由希絵さん「うん」
由希絵さん「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」
結衣菜さん「ゆみばーさるすたぴおじゃぱん」
由希絵さん「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」
結衣菜さん「えっと…朝からいない?」
由希絵さん「そうです朝からいないです」
予定を繰り返し確認した結果……
結衣菜さん「明日からユニバーサル・スタジオ・ジャパン」
由希絵さん「すご~い、言えたじゃん結衣菜! ハハハ……」
結衣菜さん「やったー」
由希絵さん「イエーイ!ユニバーサル・スタジオ・ジャパーン!」
結衣菜さん「いた~い」
由希絵さん「ごめ~ん」
(結衣菜さん・虹々菜さんの母/蓬郷由希絵さん[3月19日のインスタライブ])
「だから、あれがリアルな自閉症の結衣菜のこじらせです。『自閉症あるある』『分かる、何回も確認して安心してるんだよね』そうなの。限界あるっつーの、私耳からタコ出てないかなって心配したもんね」
自閉症について知ってもらいたいと、家族のありのままの日常をインスタグラムで発信している由希絵さん。
先日、ある投稿にたくさんの「いいね」が寄せられました。
(蓬郷結衣菜さん[中2])
「頑張って! パス! パス! 頑張れ~」
結衣菜さんが、バスケの試合に出た虹々菜さんを応援する動画です。
(結衣菜さんの姉/虹々菜さん[高2])
「上を見たらおったけん、びっくりした。体育館に入るのが苦手というのもあって……結衣菜が。それで応援しに来てくれたのがうれしかった」
(結衣菜さんの姉/虹々菜さん[高2])
「将来の夢は……特別支援学校の先生になること。結衣菜がいるし、そういう仕事をしてみたいと思って。上手に話したりいい距離感を保ったりして、いい感じの先生になりたい」
(結衣菜さん・虹々菜さんの母/蓬郷由希絵さん)
「特別支援学校に実習に行った時に、すごく上手にうまく溶け込んでいったんだって。『じゃけん虹々菜、そんな先生になってもええんかなって思ったんよ』って言った瞬間に反対向いてバーッて涙が出たんだけど、虹々菜がなりたいものになればいい、結衣菜に関わるものでなくてもいいし、虹々菜が本当にいいなと思っている仕事についてほしいと思う。こんな妹がいるからこそ、自分の好きな仕事についてほしいなって思う」